牛窪恵「恋愛結婚で苦労した母を見て育った。〈結婚には恋愛が必要〉はわずか60年の歴史の結婚観。老後のために共同生活者を作ろう」
◆結婚式の3ヵ月前にドタキャン 「恋愛結婚って素敵」「でも恋愛結婚は、後(結婚生活)が大変」――そんなアンビバレントな価値観を抱きながら大人になった私には、実は結婚式の3ヵ月前にドタキャンしたという黒歴史があります。(笑) 当時、私は28歳。仕事のイベントを通じて知り合った、かなりイケメンな男性とおつきあいをして結婚することを決めたのですが、結婚式の3ヵ月前に、彼が私に黙って仕事を辞めてしまった。その事実を知ったとき、「この人とは、たぶん生活していけない」って。 見た目も性格もいい人だったのですが、混迷の時代を生きる生命力や生活力、なにより私との信頼関係が築けなかったところに不安を感じ、結婚をキャンセルしました。式の招待状をポストに投函する直前でした。 このとき、改めて身に沁みたのです。結婚は山あり谷ありの「生活」であり、苦しいときには両者の「信頼」を築けなければやっていけないと。彼はよくも悪くもカッコつけで、私に弱みを見せたくなかったのでしょう。半面、冷静に考えれば、会社を辞めていたことが結婚後に分かれば、私や周囲から「なぜもっと早く言わないの?」と大きなトラブルになることは分かるはず。それなのに、彼は未来よりもいま、波風立てずに現実から目を背けることを選んだ。そんな彼との結婚生活は、たぶんうまくいかないだろうなと、直観的に感じたのです。
◆恋愛力に欠ける夫と30歳で結婚 その後、紆余曲折の末、今の夫と結婚したのが30歳のとき。実は、理系の夫は恋愛力がゼロに近いタイプで、長年、友達ではあったものの、恋愛相手として意識したことはほとんどありませんでした。 ところが、28歳で私がストーカー被害に遭い、仕事もすべて失い、心身ともに疲弊していたときに、私を全力で守って支えてくれたのが彼でした。当時、神戸の会社に勤めていた関西人の夫は、週末ごとに深夜バスで上京し、弁護士事務所に付き添ってくれたり、精神的に不安定になって泣いてばかりいる私に「落ちついて、冷静に考えなきゃダメだ」と適切なアドバイスもしてくれたりしました。そんな彼を見て、私自身「辛い現実にも、冷静に向き合える人なんだな」と尊敬しましたし、周りの友人や知人にも「こんなにいい人はいないよ」と言い含められて。その中にひとり、いい意味でおせっかいなおじさまがいて、「これから君たちはどうするんだ? 結婚するなら早いほうがいいよ」と後押ししてくれました。そのとき、たまたま一緒にお茶を飲んでいたのが、私が以前から「いつかここで結婚式をあげたい」と話していたホテルのラウンジだったのです。そのおじさまは中座して戻ってくると、「いま式場に行って、空いている日にちをチェックしてきた」と。(笑)その流れで、結婚式の日取りが決まったんですよ。 夫の場合、恋愛力は低い半面、生活力や問題解決能力はずば抜けて高い。料理はあまり得意じゃないのですが、後片付けは彼が率先してやっています。驚くほど記憶力がいいので、細かなゴミの分別や集積所に出す日にちも完璧に覚えています。洗剤も「もうすぐどれがなくなりそう」と、きちんと把握しているので、「洗濯用の洗剤がない!」って私が慌てても、「買ってあるよ~」と準備万端。何より、私がストーカーに遭い、仕事もすべて失ったときに「君の才能は、僕が一生かけて証明する!」と声を絞り出してプロポーズしてくれた人です。その言葉通り、夫は自分の仕事が忙しい時期でも20年間以上、妻である私の仕事をサポートしてくれています。夫のご両親は共働きだったので、お母さんが働く姿を見て育ったのも大きいかなと思います。 ちなみに、私の父は長男、しかも男尊女卑の風潮が強い土地柄に生まれ育ったので、母にも常に上から目線で接していました。そのためか、「妻は夫を立てるもの」という古い価値観が私のどこかに刷り込まれているようです。自著の中では、「これからは、経済的にもっと女性が男性をリードする社会になってもいいんじゃないか」と書いているにも関わらず、心の中ではなかなかそこまで吹っ切れない。やはり親の生き様や育った環境は、子の結婚観にも大きく影響するのではないでしょうか。 今、夫にはほとんど不満がないのですが、唯一問題なのが、彼が太ったせいでイビキがひどいこと。(笑)毎晩、ゴジラのようなイビキをかくので、結婚して2年目からは「夫婦別寝室」です。一緒に旅行に出かけても、2部屋とって寝室を別にしないと、私は一睡もできないんですよ。
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