4年で108人死亡 岡山県「人食い用水路」はなぜ誕生したのか? 危険性は近年緩和も、そもそも存在するワケとは
「人食い用水路」誕生の根本原因
この宅地化は、干拓当初の土地利用計画とは大きくかけ離れたものだった。藤田組が干拓を進めた当初は、農地と工業地を明確に分離する構想が示されていたからだ。 そもそも藤田組が干拓を進めた当初は、農地と工業地ははっきりと分離した計画が示されれている。現在、岡南飛行場の北にある阿部池(貯水池)を境に、西側は農地、東側は工業地として開発が進められていたのである。 ところが宅地化は、農地を侵食するような形で進んでいる。現在の航空写真を見ると、阿部池の北側や岡山ろうさい病院周辺は完全に宅地化されており、さらに西側の田んぼが残る地域にも宅地が広がっている。このように企業立地にともない 「無秩序に宅地が拡大し、人口が増えたこと」 が「人食い用水路」誕生の根本的な原因といえるだろう。 都市の拡大にともなう宅地化は21世紀になっても進んでいる。特に2000(平成12)年の都市計画法改正で導入された「50戸連たん制度」は宅地化を促進した。これは市街化調整区域内で、55m以内に50戸以上の建物が集まるエリアに限って住宅新築を認める制度だ。岡山市は2001年に条例で開発基準を定め、2022年度までに8168件もの住宅新築を許可した。こうして市街化調整区域に住宅が増えたことで、「人食い用水路」の危険性が高まったと考えられる。 しかし近年になって、ようやく状況が変化しつつある。多くの自治体で「50戸連たん制度」の条例が廃止され、岡山市も2026年での廃止を決定したからだ。その理由は、 「市街地の過度な拡大」 である。宅地開発が進みすぎたことで人口密度が下がり、店舗や施設などが分散してしまった。その結果、生活の利便性が低下することが危惧されるようになったのだ。 現在の岡山市では、コンパクトシティ化を進めており、2021年3月に「立地適正化計画」を策定している。この計画では、中心部の「都心」のほか、4地域を商業施設や拠点的な病院を誘導する「都市拠点」に、13地域を「地域拠点」に指定。居住や都市機能を集約するとしている。 市街地の拡大を抑制し、都市機能を集約するコンパクトシティ政策は、「人食い用水路」の危険性を減らす上でも重要な意味を持っている。宅地開発が抑制されれば、用水路と住宅の距離が近いエリアの増加にも歯止めがかかるだろう。都市部への人口集中が進めば、夜間の人通りも増え、用水路への転落を防ぐ「人の目」も増えることが期待される。