50歳以上の採用者は72人 ロレアルはなぜ年齢差別(エイジズム)に反対するのか
日本でもシャンプーや髪染めなどの製品で知られるロレアル。これまでも広告やコマーシャルを通して「美と年齢」の関係を変革し、社会に少なからず影響を与えてきました。そんな美容業界のリーダーが今、社内でエイジズム(年齢差別)をなくそうとしています。また、ロレアルの呼びかけで、フランス経済界も動き始めました。エイジズムに取り組む理由や狙いはどこにあるのでしょうか。パリ郊外のロレアルグループ国際本社で聞きました。(聞き手・丹内敦子) 【写真】54歳でロレアル入社を果たしたクリストフ・ワトキンスさん
3月末のパリは雷鳴がとどろき土砂降りや雹(ひょう)が降るなど不安定な天気だった。だが、4カ月後に五輪を控え、活気に満ちていた。そんなパリ中心部から北西に約5キロ離れた工業都市クリシーは一見すると華やかさは感じられない。だが、ここには世界最大の美容企業「ロレアルグループ」の国際本社がある。 ロレアルは、化学者ウージェーヌ・シュエレールが1909年に設立した会社に始まる。ランコムやシュウ ウエムラなど37のブランドを傘下に収め、150カ国以上に拠点を置き、社員は約9万5000人に上る、美容業界のリーダーだ。「世界をつき動かす美の創造」を企業活動の中心に据え、「美と年齢」という挑戦的な課題に取り組んできた。 一般に、美しさは若さと結びつけられ、年を取ると美しさは失われると思われがちだ。美容業界の広告には肌がツルツルした若い俳優やモデルが採用されてきた。そうした考えにロレアルは一石を投じた。 2006年、当時68歳の米俳優ジェーン・フォンダ氏をアンバサダー(宣伝大使)に起用。深くシワを刻んだハリウッド俳優が広告や宣伝用の動画に登場し、"We're Worth It."(私たちにはその価値がある)と語った。人は年齢を重ねるなかで、それぞれに美しさがあるという主張は、社会に影響を与えた。 人事担当取締役のジャンクロード・ルグランさんは言う。「ロレアルは社会で何が始まろうとしているのかをすばやく察知し、その変革を加速させるのです」 年齢を重ねた肌のためにデザインされた製品は、シワなどをカバーするだけでなく、より健康的に見せることを重視する。これまで多くのアンチエイジング製品を製造・販売してきたが、「アンチエイジング」という表現についても検討しているという。 フランスでは高齢化が進んで労働力が不足し、社会問題になっている。もはや優秀な中高年を積極的に採用し、長く働いてもらうことが働き手を確保するうえで欠かせない。ところが中高年に対するエイジズムが根強く、再就職の壁になっている。