フィギュアスケート鍵山優真が描く、完全復活への道 疲労骨折、父との衝突、ミラノ五輪への思い… イタリアと日本で語った20歳の本音
羽生結弦のプロ転向に始まり、イリア・マリニン(米国)のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)世界初成功、宇野昌磨のグランプリ(GP)ファイナル初制覇、世界選手権2連覇…。フィギュアスケートの男子は、今シーズンも話題が盛りだくさんだった。しかし、昨季最も飛躍したスケーターが国際舞台に立つことはなかった。2022年北京冬季五輪銀メダルの鍵山優真(オリエンタルバイオ・中京大)。左足首故障に苦しんだ20歳は、どんな思いで復帰を目指しているのか。3~4月に合宿を行ったイタリアと、帰国後の東京で本音を語ってくれた。(共同通信=吉田学史) ▽「芸術の国」から再出発 4月4日。鍵山はイタリア北部のバレーゼにいた。「(内容が)濃い合宿。とても楽しい。一日一日、成長しているとすごく感じている」。そう語る表情は、希望に満ちていた。 3年後に冬季五輪開催を控えるミラノから車で約1時間。再出発の場所として選んだのは、スイスとの国境に近く、アルプスの山並みを望める静かな町だった。ミシェル・クワン(米国)や浅田真央ら、数々のトップ選手を担当してきた名振付師のローリー・ニコルさんの提案だったという。芸術に囲まれた環境で、感受性を豊かにしてほしいとの思いからだ。
「今回の合宿は、ジャンプは4回転まで取り戻すのではなく(ペースは)ゆっくり。曲をかけて跳ぶ時は『4回転ならこれぐらいのスピードで、このタイミングで』とイメージしながらやっている。代わりに表現面やスケートの細かな部分を学んだ。実際に芸術に触れるという部分で、オペラを見に行ったりした」 来シーズンも引き続き滑る、荘厳な調べのフリー「Rain、In Your Black Eyes」を磨き上げる氷上練習では、ニコルさんや2014年ソチ冬季五輪女子銅メダルのカロリナ・コストナーさん(イタリア)と振り付けを細部まで確認した。 「考え過ぎ。感じて!感じて!」 「より大きく!」 リンクサイドのニコルさんから、厳しい注文が飛ぶ。その一つ一つを受け止めて消化しようとする鍵山の愚直さが、目を見張るほどの表現面の進化につながっていた。 「『シアター』という演劇の練習をするクラスがあった。雨をどう表現するかとか、パントマイムもやって、陸上でいろんな表現をする練習をした。そこで表現を学んだ。練習が終わった後もローリーが表現について教えてくれて、いろいろ学ぶことが多い。それは全部、フリーを完成させるためのもの。滑っていて、フリーは表現が良くなっているなと確実に感じている。それはローリーやカロリナが細かく教えてくれるから。今までと違うのは、振り付けを教えてもらって僕が一人でやるのではなく、3人で一緒に作り上げている感じがしてすごく楽しい」