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安芸キャンプ練習試合・その2 即戦力右腕の谷川投手が実戦デビュー《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
9回に登板し、1イニングを9球で三者凡退!ルーキー・谷川昌希投手です。

 阪神タイガースの安芸キャンプは11日に続き、12日も練習試合でした。相手はここ数年、恒例となっている韓国・ハンファイーグルスのファームです。連休最終日ということもあるでしょうけど、この日は天気予報通り前日よりさらに寒く、雪で高知自動車道が通行止めになったりして、お客様は11日の2800人の半分。それでも1400人の方が障害に負けず、観戦に来てくださいました。試合前に行われた矢野監督のサインカード配布や、選手サイン会は前日同様に多くの方が参加されています。

 さて試合は、打線が相手エラーによる1点しか奪えず寂しかったものの、新戦力の尾仲祐哉投手(前DeNA)や谷川昌希投手(ドラフト5位、九州三菱自動車)が登板し、注目を集めました。

《安芸キャンプ練習試合》

 阪神 - ハンファ  2月12日

 ハン 000 010 100 = 2

 阪神 000 000 100 = 1

  

◆バッテリー

【阪神】福永-榎田-尾仲-山本‐谷川 / 小豆畑

【ハンファ】ヨン・ジンク(3回)-ジョ・ジフン(2回)‐キム・ガンレ(1回1/3)-ソン・シホン(1回1/3)-キム・ギョンテ(1回1/3) / オ・フンジン

◆打撃 (打-安-点/振-球/盗塁/失策)

1]左:荒木  (4-1-0 / 1-0 / 0 / 0)

2]指:山崎  (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0)

3]二:板山  (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0)

4]右:伊藤隼 (3-2-0 / 0-1 / 0 / 0)

5]一:西田  (4-0-0 / 1-0 / 0 / 0)

6]三:今成  (4-2-0 / 0-0 / 1 / 0)

7]中:緒方  (4-2-0 / 0-0 / 1 / 0)

8]遊:森越  (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0)

9]捕:小豆畑 (4-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

◆投手(打-振-球/失点-自責) 最速キロ

福永  3回 27球 (0-2-1 / 0-0) 143

榎田  2回 44球 (6-3-0 / 1-1) 139

尾仲 2.2回 40球 (2-1-2 / 1-1) 145

山本 0.1回 3球 (0-0-0 / 0-0) 134

谷川  1回 9球 (0-0-0 / 0-0) ―

<試合経過>※敬称略

1年前、この安芸のマウンドでプロ第一歩を踏み出した福永投手。2年目は飛躍のシーズンに!
1年前、この安芸のマウンドでプロ第一歩を踏み出した福永投手。2年目は飛躍のシーズンに!
榎田投手は4回から2イニングを投げ、6安打1失点でした。
榎田投手は4回から2イニングを投げ、6安打1失点でした。

 まず投手陣。先発の福永は1回、先頭から見逃し三振を奪うなど簡単に2死を取ったあと四球を与えますが、4番の右打者を打ち取って無失点。2回、3回は三者凡退です。内野陣のいい守備もありました。

 4回は榎田が登板。ヒット2本を許したものの0点に抑えます。しかし5回、先頭にサード内野安打され、9番のイ・ドユンの中前打などで2死一、三塁として2番のイ・ドンフンの右前タイムリー。先取点を奪われました。ついで尾仲が6回を三者凡退に抑えたものの、7回は1死から連打と四球で満塁とし、押し出し四球で2点目を与えます。

 尾仲は3イニングで、そのあと谷川が9回1イニングと聞いていたのですが、なぜか前日2イニングを投げて、この日はゲームメンバーでなかった山本が練習開始。尾仲は8回も続投したため、谷川に何かアクシデント?と思ったら、そうではありません。4球で2死を取った尾仲に代わり、山本が登板して1つアウトを取って交代。9回は予定通り谷川が出てきました。これについては後ほど。

ホームランの判定でも、それがファウルに変わっても、ほとんど表情が変わらない谷川投手。
ホームランの判定でも、それがファウルに変わっても、ほとんど表情が変わらない谷川投手。

 谷川はまず9番を1-1から3球目で左飛に。続く1番のワン・ヒョクゼに初球のシュートをレフトポール際へ!切れたかな、入ったのかな、と見ていたら塁審が手を回します。あらまホームラン。すると一塁側ベンチから矢野監督の、あの高い声が聞こえました。「ファウルやんけ!」「ファウルやって、ファウルやんけ~!」。やがて審判団(この日は四国アイランドリーグの審判が担当)が集まって協議した結果、ファウルとなって続行です。

 ワン・ヒョクゼは5球目を打って一ゴロ、西田がよく追いつき、谷川もナイスベースカバー。続くイ・ドンフンは初球を打たせて右飛。左打者3人を9球で抑える、素晴らしいビューでした。

今成選手は5、7、9回と計3度も三塁へ進んでチャンスを作っています。
今成選手は5、7、9回と計3度も三塁へ進んでチャンスを作っています。
緒方選手は2安打(1本は内野安打)に1盗塁と、らしさを見せました。
緒方選手は2安打(1本は内野安打)に1盗塁と、らしさを見せました。

 一方の打線は、なかなか寂しい内容で。1回、先頭の荒木が中前打を放ちますが二盗失敗。3人で攻撃終了。2回も先頭の伊藤隼がストレートの四球を選んだものの西田は遊ゴロ併殺打、今成の打球はレフトが好捕して、やはり3人で終了。3回、4回と三者凡退です。

 1点を先取された5回、2死から今成のセカンド内野安打と緒方の中前打。しかし得点なし。6回は山崎の四球のみ。ようやく7回、先頭の伊藤隼が右前打、前日同様に暴投で二塁へ進み、西田の中飛で三塁へ。続く今成の遊ゴロエラーで生還しています。今成は盗塁を決め緒方の内野安打、森越の四球で1死満塁。残念ながら小豆畑は二ゴロ併殺打で1点のみ。

 8回は2死から板山が四球を選び、伊藤隼の右前打でチャンスを作りますが西田は三ゴロで0点。9回も先頭の今成が右前打して内野ゴロ2つで三塁まで進めたものの、あと1本が出ず1点差のまま試合が終わりました。

「もっともっと見たいルーキー」

 では試合後の矢野燿大監督の談話からご紹介しましょう。まず谷川投手の話です。落ち着いたピッチングでしたねと記者に振られた矢野監督は「あいつにとっては普通かな。あれくらいできる力を持っていると思うし、もっともっと見たいという感じ。左バッターばっかりやったからね。次の実戦で右バッターとか、イニングももうちょっと見たいなという気はする」と、初登板に納得しつつ次が楽しみな様子。

ベンチから「ファウルやんけ~!」と叫ぶ矢野監督。ちょっと笑っていますね。
ベンチから「ファウルやんけ~!」と叫ぶ矢野監督。ちょっと笑っていますね。

 ちなみに大ファウルの件は「あれはファウルやで。主審もわかっとった。だからすぐに集めて協議したやん」と言い「だって谷川初登板でホームラン!ってなるのと、3人で片付けるのでは大きな違いがあるから。よかったよね」と矢野監督。

 先発の福永投手について「去年からいろいろ自分で取り組んできたことが、手応えもあったような投球やったし。フォアボールも1個だけかな?(去年は)カウントを悪くして崩れるというパターンもあったと思うけど、そういうところで真っすぐも差し込んでいるボールが多かった。前にちゃんと進みだしたかな?という感じに見えたね。バッターが真っすぐを待っていて、そこへ真っすぐを投げてファウルというようなのも結構取れたから。それはよかったと思う」と話しています。

タイガースの一員として初登板、尾仲投手です。
タイガースの一員として初登板、尾仲投手です。

 次いで尾仲投手には「ブルペンから、ちょっとシュート回転しているような状態。腕も触れているけど前へ飛ばされるってのは、ボールの軌道がまだよくない部分もある。立ち方というか、右ひざが前に出ているような気がしたから、(足を下ろす)時に右ひざが前に出ないように、そこを試してみたらとは言った。腕は振れるし運動能力も高いから、真っすぐとわかっていても空振りを取れたりしていたのが、去年の尾仲の状態。まだまだ楽しみがあるんちゃうかな」とのこと。

伊藤隼が一歩リードの野手陣

 野手陣に話が及ぶと、矢野監督は「きょうは寂しかった。伊藤隼太だけやなあ」とひとこと。そして「隼太は内容もしっかりしている。きょうも、たとえばピッチャーがセットで止まらずに投げたのも、しっかりタイミングを取って振れているってのは安定しているのかな。練習も自分でやるし、気持ちが上に上に向いている練習態度。今すぐに呼ばれることはないかもしれないけど、やっていれば最初に推薦したくなるような内容やしね。守備も走塁もまだまだレベルアップしていく、そういうとこは並行して」と続けました。

安芸キャンプで矢野監督が「一番」と評価する伊藤隼選手。写真は11日の四国銀行戦のものです。
安芸キャンプで矢野監督が「一番」と評価する伊藤隼選手。写真は11日の四国銀行戦のものです。

 1軍もなかなかケガ人が出ませんからねえ。「それはチームにとっていいことで、ケガ人が出たからじゃなく、力ずくで押しのけていけるのが一番。棚ぼたではなくて、自分たちがレベルアップしてチャンスを奪い取るような気持ちでやっていってほしい」

 実戦2試合を終えての感想を聞かれると「走塁に関しては意識が見えている。伊藤隼太の全力疾走など。バッティングはね。練習ではいい形で打てている選手でも、試合になったら崩される。自分のスイングができない。練習は打たせてくれるからね。試合でも自分主導でしっかり打っていくこと。凡打を見ても振れていないからねえ。崩される中で、しっかりスイングができてこないと、率も上がらない」と、やはり伊藤隼選手の名前が出てきます。

堂々たるデビュー!即戦力・谷川

 次は、ことしのルーキーで対外試合の登板一番乗りを果たした谷川昌希投手です。「実戦形式はシートバッティングでやりましたけど、試合はメチャクチャ久しぶり。楽しみですね!」という前日のコメント。緊張するかと聞かれ「緊張はしますよ。しないことには力も発揮できないんで」とクールに答えていました。ご両親が10日、11日と来られていたそうですが、特に連絡なく「しれっと来ていたみたい(笑)」と。

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 そして12日の試合後、落ち着いた初登板だったと記者陣に振られ「“ぶって”いました」と笑います。「そういうのを見せないようにとは思っています。例えばオドオドしたりとか。心がけているんですけど、見られている側の人から、そう言ってもらえるのは嬉しいです」

 それにしても、ドッキリ企画のような大ファウルでしたねえ!「あそこに飛ばされちゃったってのが問題ありで。球も甘かったし、入ってもおかしくなかった。中継ぎなら、そういう失投はなくしていかないと。1軍では間違いなく捉えられる」。やはり失投だった?「失投です」

 ストライク先行というのも持ち味?「意識はしているんですけど、あまりガンガンいっちゃったとしても恐い部分があるので。ボールから入る練習もしていきたいと思います」。また「変化球の感覚もだいぶ戻ってきました。精度としてはまだまだ。しっかり投げ込んで戻していきたい。あとはランナー出てからのセットポジションです。まだ入れてないので、次のクールくらいには入れていかないと」と課題も自ら挙げました。

試合後、サブグラウンドでランニングメニューをこなす谷川投手。
試合後、サブグラウンドでランニングメニューをこなす谷川投手。

 この日は1イニングで9球のみ。もっと長いイニングを投げたい?「投げられるんだったら投げられますけど、与えられたイニングをしっかりゼロに抑えることを考えています。もうちょっと投げたいなというのはありますが、それは僕が決めることじゃないんで(笑)」。ところで、残念なことに、谷川投手の投球だけスピードガンの表示が出なかったみたいで…と告げたら、こう返してきた谷川投手。

 「球速じゃないです」

 いいですねえ。いただきました!

早くに課題も見つかった初登板

 先発した2年目の福永春吾投手は「真っすぐは走っていたと思います。けど、どうでしょう?」と逆質問。いやいや、よかったと思いますよ。「ですよね?去年はブルペン側(グラウンド両サイドの投球練習場)に飛んでいくファウルが多かったけど、きょうは後ろへのファウルが多かったので、手元で伸びているのかなと思いました」。なるほど、投げながら実感していたんですね。

3回を投げ1四球のみ、無失点でベンチへ戻る福永投手。
3回を投げ1四球のみ、無失点でベンチへ戻る福永投手。

 1回に2死を取って、カウント1-1にしてから急にボールが抜けたり、大きく外れて四球。あれは何があったの?「いや別に。反省します!2死からのフォアボール。しっかりと」。次の登板では?「カウント負けしないよう、自分のカウントを作ります。どうでしょう?」。また質問されました(笑)。ぜひ、そうしてください。

 変わって、DeNAから移籍してきた尾仲祐哉投手。「強い真っすぐをテーマにしていたんですが、ランナーを出してから投げ急いでしまった部分があって、そこは反省したいです」と、コメントは短めでした。

 おそらく各チームを見ても今季初の連投だったと思われる山本翔也投手は「投げる予定なかったですよ」と目を丸くしながら言います。「でもよかった。やりたいことがあったので。(プレートの)三塁側を踏んで投げたんですけど、スライダー、スライダー、シュートと投げてシュートがうまくいきました。きのうより断然!3球にテーマを持って、やりたいことがやれたんで」

 あとで矢野監督に聞いてみたところ「ちょっと尾仲の球数が多くなったので、それに山本は前日があんな感じだったから、いい形で終わった方がいいでしょう。お父ちゃん、お母ちゃんも来ていたしね」と、最後はニヤリ。

急きょ登板した山本投手。プレートの三塁側を踏んで投げているのがわかりますね。
急きょ登板した山本投手。プレートの三塁側を踏んで投げているのがわかりますね。
左バッター1人を3球で片づけて戻るところ。少し笑顔も見えました。
左バッター1人を3球で片づけて戻るところ。少し笑顔も見えました。

 そうなんです。この連休を利用してお父さんが先に、仕事の都合で贈れて12日にお母さんが安芸に来られた山本家。11日の登板を見て少しションボリなさっていたお父さんや、12日は登板予定がないと思っていらっしゃったお母さんは、このサプライズと3球でしっかり抑えた息子にホッとされていました。地元の福井は37年ぶりの大雪で、お母さんは雪かきに追われ体中が悲鳴をあげているとか。安芸で少し息抜きできたでしょうか。

 雪はまだ今も降り続いていて「帰ったらお父さんにも雪かきをしてもらわないと!」とお母さん。それを聞いてお父さんは、お母さんから見えないところでペロッと舌を出して笑っておられました。もう雪はこりごり。早く春になってほしいですね。

     <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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