スプレー吹き掛け「どけ」 新型ウイルスで憎悪犯罪か 感染者76人、非常事態宣言のNY
新型肺炎コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからぬ中、ニューヨーク州の感染者数は7日に76人に増え、アンドリュー・クオモ知事は非常事態宣言を出した。州内で初の感染者が確認された1日、知事は「(ニューヨークのリスクは)依然低い」としていたが、1週間とたたぬうちに事態は急展開を迎えている。
感染者の多い地域にある学校は閉鎖となり、ニューヨーク市内も一部で生活用品や食料品の買いだめなどが起きている。影響が多方面に出始めているが、懸念されることの1つに新型ウイルスが絡むヘイトクライム(憎悪犯罪)がある。2月、3月とアジア系とみられる人に対する暴行などが立て続けに発生。警察当局は神経をとがらせている。
スプレー吹き掛け
4日、ある映像がツイッターに投稿された。
映像などによると、ニューヨーク市ブルックリン区を走る電車内で、男性が周囲の乗客に対し、近くに立っていたアジア系とみられる男性を遠ざけるよう「どけと言え」と叫ぶなどした。その後も「どけ」と繰り返したが、男性が動じなかったため、問題の男性は除菌スプレーのようなものを10秒以上にわたって吹き掛け続けた。
投稿された映像を踏まえ、ニューヨーク市警察(NYPD)ヘイトクライム特別対策班は捜査に乗り出した。
地下鉄を運営する州の公社MTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティー)もツイッターを投稿し、
増えるヘイトクライム
ニューヨークでは2月上旬にも、マンハッタン南方のチャイナタウンに近い駅構内で、マスクを着けたアジア系の女性が差別的な言葉を浴びせられて殴られたとみられる動画が拡散、ニュースとなった。やはりNYPDがヘイトクライムの疑いがあるとして、捜査に着手した。
MTAは、1月27日に「私たちの輸送システムにヘイトが入り込む余地はない」とするキャンペーンを打ち出していた。
キャンペーン実施の背景には、増加傾向にある憎悪犯罪に対する危機感がある。NYPDトランジット事務所によると、ヘイトクライムは2019年に75件に上り、18年の53件から42%増えたという。
ただ、キャンペーン直後から立て続けにヘイトクライムが起きていることは危機的だ。
今後、コロナウイルス感染拡大を踏まえ、同様の事件が起きぬよう、警察など当局は一層注意を払っていくとみられる。
一気に76人に
6日、州が最初に公表した感染者の人数は33人、そして同じ日、後に44人へと増加、7日はさらに76人となり、拡大を続けている。
76人のうちニューヨーク市民は11人、65人は市外。特に、日系企業の駐在員も多く住む郊外のウェストチェスター郡が57人と突出している。
6日まで、州のウェブサイトで示されていた検査待ちの人数は、7日から示されなくなった。
クオモ知事は7日、記者会見で、コロナウイルスをめぐる状況は深刻だと述べた。
州で最初に感染者が確認された1日には「(リスクは)依然低い」としていたが、状況が大きく変わってきた。ただ、同時に話していた「過度に不安になる理由はない」は引き続きその通りで、不必要な買いだめや買い占めといった「パニックバイイング」などに陥らぬ冷静さが求められる。
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7日の昼過ぎ、マンハッタンではアジア系でないとみられる親子が揃ってマスクをしていた。予防目的のマスクをしないのが常だったニューヨークでも、マスクによる自衛意識が一部の市民の間で芽生え始めているようだ。
コロナウイルスをめぐり、先月の記事に、店で隣に座った男性に中国人か日本人か聞かれ、「日本人なら別にいい」といったやり取りがあったと書いた。しかし、今や日本人ならいいと思われていると思えない状況になってきた。
ニューヨークは長く、さまざまな人種や民族が入り交じる多様性が強みの1つと言われてきた。それが損なわれるような事件が相次いだことは残念だ。問題行動に出る人はごく一部であると信じたい。
(※ 本文中の数字などは日本時間3月8日午前7時半現在)