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「選択的週休3日制」みんなはどう考えた?

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政府は、来年度予算編成などに向けた経済財政運営の基本方針となる「骨太の方針」を18日に決定し、働き手の希望に応じて週休3日を選べる「選択的週休3日制」の普及を盛り込んだ。選択的週休3日制について、Yahoo!ニュースがユーザーにコメント欄で意見を求めたところ、3000件を超えるコメントが寄せられた。コメント欄からは、労働環境の格差や、育児や持病といった事情を抱えつつも働きたいという願い、週休2日ですら浸透しきっていない現状などが見えてきた。(5月17~20日のコメント、計3271件を基に構成)(監修:フリーライター・やつづかえり、デザイン&イラスト:曽我部花実/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

議論の前提は?

骨太の方針は、首相官邸が政治主導で予算を作るために始まったもので、年末の予算編成や税制改正の指針となる。盛り込まれた「選択的週休3日制」とは、働き手の希望に応じて、雇用側が1週間に3日の休日を付与する制度のことで、「1日8時間、週40時間以内」の労働時間の規定を変えるものではない。例として、みずほフィナンシャルグループやファーストリテイリングなどで導入されている。

「やってみたい」人の考えは?

週休3日制について、「やりたい」「やってみたい」と考える人たちは、給与が減ってもよいので、自由になる時間がほしいという意見が多かった。自由になった時間を使い、大学院で学びなおしたい、たまっている家事をしたい、銀行や役所へ行きたいなどの声が目立った。現状週5日働くことが「心身への負担が大きい」という意見も多く、「多少のお金があっても娯楽を楽しむ時間が全くない」といったコメントが見られた。すでに導入済みの企業で働いている人の意見としては「リモート勤務による通勤時間・対面の打ち合わせの削減などで業務生産性が向上。給与待遇に変更なくスムーズに週休3日制に移行できた」といった声も。

「やりたくない」人の考えは?

週休3日制について「やりたくない」と考える人たちは、週休3日にすることによる、給与減少を気にする声が多かった。「ただでさえコロナで仕事が減っている。これで休日が増えたら、トリプルワークが必要になり体が壊れる」「週休3日うんぬん言う前に、給与水準を引き上げないとこの国は沈没する」といったコメントが見られた。また、経営者の立場から「給料が変わらず、休みが増加する場合は、受注単価を上げないと会社は成り立たない。中小企業は会社の存続に影響する」といった訴えも。出勤が趣味なので、健康のために職場に通いたいという意見もあった。副業をする場合は、総労働時間が増えてしまうのではという懸念も見られた。

働き手から見た週休3日制のメリットとリスク

政府が週休3日制を打ち出したのは、少子高齢化が進むなかで多様な働き方を後押しするねらいがある。また、コロナ禍でリモート勤務が広がるなど就労環境の変化も背景にある。働き手から見たメリットとしては、プライベートと仕事を両立しやすくなる「ワーク・ライフ・バランスの向上」、業務の見直しが進むことによる「仕事の効率化」、仕事を複数人で分担することによる「雇用の確保・維持」、通勤の減少や三密回避による「感染症対策」などが考えられる。一方でリスクとして、労働時間が減ることで給与が減ったり、効率化により労働密度が上がって現場の負荷が増えたり、勤務調整のために業務が煩雑(はんざつ)になったりすることも想定される。また、週休3日のスタイルで働く非正規社員にとっては、勤務日数に差はないのに、給与に格差があるといったことになりかねない懸念がある。

第3の意見、現状の課題

週休3日制を議論するより前に、現状の労働環境についての課題を訴える声も多くあった。目立ったのが「週休2日制ですらない」という意見で、「建設なんていまだに週1か、間に合わなければ月1休み。どの業種もちゃんと週休2日に完全にしたうえで議論してほしい」「サービス業。週休2日制ですら実行されず、休みの取り方に格差が生じている」とのコメントがあった。また、有休を取ることができないという声も多く、自由に取ることができれば週休3日制の導入は必要ないのではないかといった意見もあった。パートや派遣、フリーランスなど日当で計算する、正規雇用外の働き方をしている場合はどう考えればよいかといった疑問も。またサービス残業をなくしてほしいという声や、1日8時間勤務というのを1~2時間減らすといった柔軟な働き方のほうがいいという声もあった。

週休制度の現状は?

出典:「主な週休制の形態別企業割合」(厚生労働省)を抜粋加工して作成

厚生労働省の2020年の調査では、完全週休2日制より、休日日数が実質的に多い制度を取っている企業は8.3%とごくわずか。完全週休2日制を導入している企業は全体の44.9%にとどまる。週休2日制が、月に1回や、隔週などで取り入れられている企業が37.5%。企業規模が大きくなるほど、完全週休2日制が制度化されている傾向にある。

海外の状況は?

1970年代のオイル・ショックによる不況期を、労働時間を短くして賃金を削減し、仕事(雇用)を分け合う「ワークシェアリング」で乗り越えたオランダ。現在では多くの労働者の間で週休3日の働き方が定着している。またフルタイムとパートタイムの労働者で待遇の差をつけない同一労働同一賃金が実現しており、働きやすい社会が実現している。

2018年、金融サービス企業のパーペチュアル・ガーディアン社が試験運用を経て全社員を対象に選択的週休3日制を導入。社員のストレスが低下し、職場への愛着心や思い入れが高まる結果となった。この成果を参考に、2020年に日用品大手のユニリーバ社も試験導入。アーダーン首相も制度の導入を企業に呼びかけるなど、動きを見せている。

2019年にロンドンに本部を置く研究資金支援財団のウェルカム・トラストが週休3日制の導入を検討するも、「実施するのが業務上、あまりにも煩雑」という理由で中止に。しかし同年の総選挙では労働党が導入を公約に掲げるなど、働き方をめぐる議論のテーマとしてたびたび注目が集まっている。

週休3日制、みんなのギモン

コメント欄で多かった疑問について、働き方を専門に取材するフリーライター、やつづかえりさんに話を聞いた。

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年から、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジンを運営中。Yahoo!ニュース エキスパートオーサー。「平成27年版情報通信白書」や各種ウェブメディアで「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆している

Q. 週休3日制になると、収入は減りますよね?

A. 週休3日制の導入目的や会社の姿勢によります。売り上げは減ったけれど解雇は避けたい、そのため各自の労働時間を少しずつ減らすという「ワークシェア」が目的であれば、労働時間の減少に応じて給与も減るでしょう。一方、労働時間は減らしつつ成果は維持または増やすという「生産性向上」が目的で、その利益を社員に還元する意識がある会社なら、給与を減らす方向にはいかないはずです。社員のワーク・ライフ・バランス向上や感染防止が目的の場合は、1日の働く時間を長くして総労働時間を変えないという方法もあり、その場合は基本給が維持されるでしょう(残業代は減る可能性あり)。週休3日を選択する場合は、会社の狙いと具体的な労働時間管理や給与計算の方法をよく確認する必要があります。

Q. 週休3日の正社員と、パートなど非正規で実質週休3日の人との違いはどう考えればよい?

A. 非正規社員の方々に目を向ければ、週休3日も週休4日も珍しくない働き方ですね。政府は以前から、"週5フルタイム"で残業も転勤も当たり前という正社員の働き方を変えようと、さまざまなキャンペーンを行ってきました。週休3日の推進も、その延長線上にあるものです。正社員に働き方の選択肢が増えるのは良いことですが、同じ週休3日でも正社員か非正規社員かで差別的な扱いをされることがないようにしなければなりません。週休3日の普及を急ぐ前に、同一労働同一賃金の議論を深める必要があると考えます。

Q. 大企業や公務員しかできないのでは。業種によってできる、できないに差ができてしまうのでは?

A. 職場内で週休3日を選ぶ人が出てくると、そのために仕事のやり方を変えたり、その人がいない日の分をカバーする人員を充てたりする必要があるため、余裕のある会社でないと難しいという面はたしかにあるでしょう。業種、職種によっても導入しやすさに差があるのも確かです。これは、育休や有給休暇取得推進の議論でも必ず出てくる意見です。しかし、選択的週休3日制には社員の離職防止や、人材採用がしやすくなるという効果もあります。昨今は親の介護のためにフルタイムの仕事を続けられなくなる人も増えています。ベテラン社員を手放したくないとか、人手不足に悩んでいるという中小企業こそ、週休3日制の可能性に注目してほしいです。

Q. 週休2日制をまずやること、有休をしっかり消化できるようにするほうが優先度が高いのではないか

A. その通りだと思います。政府には、完全週休2日制の普及や有給休暇、育児介護休暇等の取得推進により多くのリソースを割いてほしいところです。週休3日制は他の先進諸国でも注目されており、政府が旗振りをせずとも、日本の企業にも徐々に広がっていくでしょう。その際に社員が不利益を被らないためのルールの整備は、政府の課題になると思います。

記事作成の基となった記事はこちら。【みんなで考えよう】「選択的週休3日制」、あなたはどう思う?

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