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教員はラクになる?家庭の負担は?――部活動のあり方が変わる、地域移行のリアル #こどもをまもる

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全国の小中学校が夏休みに入る時期を迎えた。部活動が活発になるシーズンだが、実は全国の公立中学校を皮切りに、部活動を地域の文化・スポーツ団体の活動に移行していく「地域移行」が今年度から始まっている。

学校単位の部活動では主に教員が指導にあたってきたが、地域移行後は主に外部の地域人材がその役割を担う。

移行の背景には、少子化による生徒数の減少や、指導者として負担の大きかった教員の「働き方改革」などが挙げられる。一方で、活動場所や担い手・受け皿の不足、保護者の金銭的負担が増える可能性なども指摘されている。Yahoo!ニュースに寄せられたコメントも踏まえ、地域移行のメリットや課題、今後の部活動のあり方について専門家とともに考える。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:妹尾昌俊)

この記事、ざっくりいうと?
  • まずは中学の部活動を地域の文化・スポーツ団体の活動へ移行する「地域移行」が始動
  • 地域移行を推進する背景の一つに、教員の部活動に対する重い負担の是正がある
  • 外部の指導者や活動場所の確保、家庭の金銭的負担の増加、指導者の待遇など課題は多い

そもそも、「地域移行」で何が変わるのか

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地域移行によって、部活動の運営主体が学校単位ではなくなる。近隣地域を横断するかたちでスポーツクラブや文化クラブ、地域の少年団、民間企業、NPO等による活動に移る。指導者も学校の教員から外部の専門の指導者になる。活動する生徒の数を確保する、教員の負担を軽減するといった効果が期待されている。

教員たちを部活から解放してください――移行待ったなしという切実な声も

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【みんなで考えよう】学校の部活動を地域に移す改革が進行中──そのメリットやデメリット、あるべき姿などについてどう思いますか?」のコメント欄(2023年6月5~11日、計549件)には、部活動の地域移行をめぐるさまざまな意見が寄せられた。

賛成の意見の傾向としては、主に少子化を背景とした部員数の不足など従来の部活動のかたちを維持することが困難になっている、あるいは今後困難になってくる点を踏まえ、現実的に導入するのが望ましいという声が多かった。

「部活の時間をなくし、『生徒の学力を上げること』『いじめをなくすこと』に専念してほしい」
「学校単位のチームを前提とした『公式戦』があることで、『勝つための部活動』が進められてきたのでは。学校の放課後スポーツ・文化活動は、昔行われていた『必修クラブ』みたいな『ゆるい活動』にして、専門的にやりたい生徒は学校外のスポーツクラブなどに加入し、大会出場を目指せばよいと思います」
といった意見も見られた。

また、教員の負担を軽減するために必要不可欠であるという意見や、「過労死ラインを超えて働いている教員たちを部活から解放してください」など、教員の「働き方改革」のために必要な措置であるという切実な声も。

もし事故が起きたらどこが責任を負う? 指導者の質の確保は? などの懸念の声も

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「平日の夕方から空いている人なんてなかなかいない。指導者の確保が難しい」といった具合に、指導者や活動場所、移動手段など、学校単位での部活動では前提となっていた条件が変わってしまうことに対しての懸念や不安の声も目立った。

指導者への報酬や活動場所の確保の費用など、家庭のお金の負担が増えるのは困るといった具体的な指摘も。

学校に何か入部しないといけないルールがあったおかげでテニス部に入った子を持つ母親からは、「2年半頑張って、すごくいい経験になったと思っています。そうじゃないと帰って一生スマホ見てます。ぜひこのまま学校の管理下の中で部活を存続させていただきたい」という意見も寄せられた。
過渡期の制度であることもあり、「事故が起きた場合、どこが責任を負うのかがわからない」という意見もあった。

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地域移行をめぐる議論とはまた別の視点から、海外ではあまり例のない日本の部活動という仕組みの是非を問う意見や、部活動にやりがいを感じている教員が指導者を引き続き務めるようなあり方も認めてほしいという意見も見られた(実際の制度としては、希望教員は兼職兼業で、引き続き地域クラブ活動に従事できる予定)。

また、部活動で目標の一つとなる各種大会の運営も実態として教員が担当するケースが多いとして、大会運営そのものも含めて地域移行すべきという現場からの声もあった。

現役の「外部指導者」が語るやりがいと課題

まずは公立中学校の休日の部活動から、段階的に始まっている地域移行。静岡県掛川市や東京都渋谷区のように、既に先行実施しているエリアもある。では、指導者はどのような人が担っているのか。実際に、関西で陸上部を受け持っている指導者に話を聞いた。

指導者

Q. 指導者になったきっかけは。

非常勤講師と兼業できる職業を探していたときに、知人の紹介で募集を知りました。競技を学生の頃から行っていたので専門性を生かせると感じ、応募しました。3年間、自治体の名簿に記載され、勤務校から声がかかれば採用という流れになります。実質は3年間の有期雇用に近い形だと思います。

Q. 職務や責任の範囲はどのようになっていますか。

競技の指導のみを担当します。指導法としては、子どもがどのような価値観で部活動に参加しているのかを確認し、尊重するようにしています。なお自治体からは、事故対応や熱中症対応についての説明を受けています。指導する上で理想なのは、教員免許、競技の長期指導経験があることだと思います

Q. 実際やってみてどうですか。

専門性を生かしつつ収入を得られることには、やりがいを感じます。また、私自身は平日も参加できるときは参加していますが、多くの人は仕事の都合で難しいのではないでしょうか。個人事業、非常勤講師との兼業や、定年退職後でしたら可能かもしれませんが。

Q. 指導者の立場から、地域移行についてどう感じていますか。

やはり、教員の負担軽減がメインの役割であると感じています。ただ、指導員は非常勤職員なので、生活をしていく上では他の仕事との兼業が必須でしょう。とはいえ、通常の職業を行いながら生活を担保しつつ、部活動支援をほぼ毎日することは、無理に近い状態であるとも感じます

専門家に聞く、地域移行のリアル

教育研究家の妹尾昌俊さんは、「複数の学校による『合同部』や部同士での部員の融通など、部活動を継続するための試みは、地域の実情を反映しながらこれまでもありました」と話す。
少子化における部員の確保や、教員の勤務環境改善のために、国の主導で地域移行が推進されているかたちですね」

監修者

高止まりが続いてきた教員の「部活動負担」

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では実際に、教員の負担はどれほどなのか。文部科学省の「教員勤務実態調査」によれば、2016年度の中学校教諭が部活動・クラブ活動に割く時間は1日あたり平日で41分、休日で2時間9分。2006年度と比較すると休日に割く時間がほぼ倍増した。週7時間半以上を部活動に割く計算になる。2022年度の速報値でも、1日あたり平日で37分、休日で1時間29分と、依然として週6時間以上を部活動に割いている。

妹尾さん
妹尾さん
教員の負担は、まだまだ重いです。学校の部活動は教員の熱意に支えられてきた側面がありますが、善意に頼った仕組みでは持続可能ではないという視点から、ようやく学校教育から切り離すことも視野に入れた検討が始まりました。今回の地域移行では、特に教員の負担の大きい休日の部活動から、段階的に移行していくことが念頭に置かれています。

部活動改革、子どもからみたらメリットも

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妹尾さん
妹尾さん
部活動改革は子どもの目線から見たときにメリットもあります。ただ、これまで上図にあるような「デメリット」を解決できないまま今に至っているので、ここが正念場と言えるでしょう。改革はまた頓挫する可能性もあります。

地域移行を成功させるために必要なことは?

妹尾さん
妹尾さん
先行して地域移行を推進している地域を見ますと、教育委員会など地域に推進役のリーダーがいるかどうかは重要です。国は一定の方向性を示したり、財政的な支援を行ったりはできますが、部活動をどうするかは、それぞれの学校の設置者である教育委員会と校長が主担当です。国の動向や近隣の様子を見ながらといった受け身的な自治体では、進みません。地域でのリーダーを中心に、受け皿となる団体の発掘や調整、生徒や保護者、教員との対話、困窮世帯への支援策の検討など、さまざまなプロセスを踏んで進めていく必要があります

例えば、指導者に関しては試合の引率などもあって、長時間の拘束になることもあるので、見合った報酬をしっかり支払えるかどうか、そしてその負担を自治体財政だけで賄えないなら、受益者である保護者負担について合意形成できるかどうかが重要となってくるという。

妹尾さん
妹尾さん
学校部活動は、さまざまな子どもたちに、ある程度低コストで、豊かな体験の場を提供してきたという良さがあります。しかし、それも教員の献身あるいは犠牲の下のものでした。一方で、部活動をただちになくすだけでは、家庭の経済環境などによって体験格差が拡大するでしょう。未来ある子どもたちに、どのような課外活動の機会をどう提供するかという視点も持ちながら、部活動のあり方について、地域全体の課題として取り組んでいく必要があります



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