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「雪は天からの手紙」――結晶の姿から何がわかる? 雪害に備えるために知っておきたいこと

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「雪は天から送られた手紙である」。世界で初めて人工の雪の結晶を作った中谷宇吉郎氏の名言だ。あなたは、「雪の結晶」を肉眼で見たことはあるだろうか? 気温や湿度など空の状態に大きく影響される結晶の形。その形を見比べることで雪雲の中の気象状況がわかるそう。今週末には今季最も強い寒波が到来し、日本海側を中心に大雪となる見込み。雪の仕組みや雪害について理解し、気象庁の新たな予報「今後の雪」も活用して、雪に備えたい。(監修:津田紗矢佳、取材・文:Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

「解読のイロハ」雪の結晶はすべて六角形?

雪の結晶は、すべて「六角形」が基本になっていることをご存知だろうか。なぜなら上空で最初にできる氷の粒が六角柱で、それが「最も安定する形」(気象予報士・津田紗矢佳さん)だからだそう。雪は、別名「六華(りっか)」とも呼ばれ、樹枝状のものや楽器の鼓状(つづみじょう)のものなど、雲の中の気温と水蒸気の量によってその形や大きさが変わる。「雪結晶・氷晶・固体降水のグローバル分類」では、大分類8種類、中分類39種類、小分類121種類に分けられる。

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空から降ってくる雪や氷の結晶は、上記の39種類をさらに細分化すると全部で121種類にもなる

■雪の結晶はスマホでも撮れる

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スマホにマクロレンズをつけると、小さな雪の結晶の形を詳しく観察できる。写真提供/『すごすぎる天気の図鑑』(著・荒木健太郎/KADOKAWA)

雪の結晶は、スマートフォンでも撮影できる。布など濃い色の下地を用意し、雪が着地してすぐがシャッターチャンス。カメラを結晶から10センチほど離すとぼやけずに撮れる。100円ショップなどでも入手できるスマホ用マクロレンズをつけると、数センチでピントが合い、写真のように大きくキレイに撮れるそう。

結晶の形からわかる「空のようす」

雲の中の温度と水蒸気の量によってその形が変わる雪の結晶。結晶は、雲の中の水蒸気の量(グラフの縦軸)が多くなるほど大きくなり、雲の中の温度(グラフの横軸)によって縦に成長するか横に成長するか変化する。津田さんによると、雪の結晶の形を観測することで、雲の中の気象状況がわかるという。「例えば、南岸低気圧(日本列島の南岸を発達しながら東に進んでいく低気圧)で雪が降るとき、交差角板や砲弾といった低温型結晶と呼ばれる雪結晶が見られることがあります(※図表「グローバル分類」のCP柱状・板状結晶群を参照)。この結晶はサラサラした雪になりやすく、特に山間部では表層雪崩の原因になることも。そのため、同じような降雪量が予想されている場合でも、結晶を見ることで、山にいる人にとっては表層雪崩のリスクが高いという判断をすることができます」。

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結晶の形と気象状態の関係を表した「小林ダイヤグラム」を改変。結晶は、縦軸の水蒸気の量が多くなるほど大きくなり、横軸の温度によって縦に成長するか横に成長するか変わってくる

華やかな結晶も集まると雪害のきっかけに?

雪国に行くと家の屋根にこんもりと雪が積もっている光景を目にする。華やかな雪の結晶もまとまった量になると非常に重くなる。雪自身の重みで圧縮された積雪1センチは降水量3ミリ分に相当するので、6メートル四方の屋根に3メートルの雪が積もった場合、積雪の重みは約32.4トンになる。メスのアジアゾウ1頭が約3トンなので、10頭分にもなる。雪下ろしできていない家屋や小屋の屋根が、雪の重みでつぶれてしまうのも想像できる。

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ちなみにジャイアントパンダ(約100キロ)に換算すると300頭分。降りたての雪と時間が経過して圧縮された雪では、同じかさ(量)でも重さは違ってくることもある

■雪が積もるとどのような災害が起こる?

雪害の代表的なものは、雪崩除雪作業中の事故路面凍結などによる交通事故歩行中の転倒事故などがあげられる。特に雪国に暮らす人にとって、家屋の倒壊を防ぎ、日常生活を守るため、除雪作業は欠かせない。しかし雪害による死者数が最も多いのは「除雪作業中の事故」。令和2年版消防白書によると、屋根からの転落や落雪など雪害による犠牲者は過去10年間(2010年11月~2020年3月)で803人にものぼり、犠牲者の約7割が 65歳以上の高齢者だという。

■除雪作業で命を守るために

内閣府によると、除雪作業中の事故では、「特に屋根からの転落」が多い。そのほか屋根からの落雪、水路等への転落、除雪機の雪詰まりを取り除こうとして巻き込まれる事故、寒い屋外での重労働によって心筋梗塞などを発症することがあげられている。安全に除雪作業をするためには、以下の点に注意を。

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ほかにも2人以上で行うこと、はしごの固定を忘れないこと、除雪機はエンジンを切ってから雪詰まりを取り除くことなどがあげられる。屋根の雪が緩んでいる晴れの日ほど要注意!

また、防災科学技術研究所のポータルサイト「雪おろシグナル」では、1キロメートル四方で、雪下ろしの目安となる積雪荷重の推計値を地図上の色分けで知ることができるため、建物の倒壊の危険性や雪下ろし作業の判断に役立てられる。

豪雪地帯だけではない、"自分ごと"として考えたい「雪害」

雪害は豪雪地帯だけの話ではない。太平洋側でも2014年の記録的な大雪では、関東甲信において家屋の倒壊や鉄道や道路といった交通インフラの寸断など大きな被害があった。普段、雪に慣れておらず雪への備えができていない地域の人も、備えを見直す必要がある。

■6時間先までの予報が地図上で確認できる「今後の雪」

気象庁は今季から、降雪量や積雪の深さの見通しを1時間ごとに6時間先まで地図上で確認できる今後の雪」(降雪短時間予報)という新しい情報提供を始めている。日常生活に取り入れ、雪の予報が出ている日に外出する際に確認したり、雪道に不安がある人は予定や交通手段を変更したりするきっかけに活用できる。

さらに2019年からは「顕著な大雪に関する気象情報」が運用され、昨季にはじめて発表された。これは短時間の大雪に対する警戒を呼び掛けるもので、「豪雪地帯の一部で短時間に顕著な降雪が観測され、今後も継続すると見込まれる場合」に気象台から発表される。発表されたときはすでに「危険な状況」であり、深刻な交通障害が発生する恐れも。心を防災モードにし、不要不急の外出は控えたい。

■雪への備えを見直してみよう

ではこうした情報をもとに、われわれはどう行動すればいいのだろうか。

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白線の上や踏み固められたバス停やタクシー乗り場などは、滑りやすいので気をつけて。交通インフラが寸断されると地域で孤立したり、物流に影響が出たりする場合も。雪が降り始める前に、日頃からチェックしておこう

持病の薬や食料など日常生活でなくなると困るものは数日分の確保をしておこう。送電線への着雪や雪の重みによる倒木などが原因で、停電が発生する恐れもあるため、防寒対策も重要。電気を使わない暖房器具が安全に使える状態か、灯油など燃料もあるかあらかじめ確認を。雪が降り出してからでは、除雪用品やスタッドレスタイヤなどは売り切れてしまうことも。何事も早めに準備しておきたい。
今年の冬は、ラニーニャ現象の影響で、日本海側で雪の降りやすい冬型の気圧配置が強まる傾向にあるという。最新の気象情報や提供される情報をうまく使って、あなた自身や、あなたの家族の生活を雪害から守ろう。

津田紗矢佳さん/気象予報士・防災士
1987年、山口県生まれ。2017年からウェザーマップに所属し、気象予報士として活動。テレビ朝日「スーパーJチャンネル」、Yahoo!天気・災害動画に出演中。ANA SCOPE「ソラマド」連載中。防災・減災のために、天気や防災をわかりやすく伝える気象の翻訳者として執筆・講演などで活動中。

出典・参考)
『すごすぎる天気の図鑑』(著・荒木健太郎/KADOKAWA)
「除雪中の事故防止に向けた対策」(内閣府)

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