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派閥政治の終わりの始まり? 混迷の自民党総裁選――鍵を握るのは110万人の「世論」

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自民党総裁選が9月17日告示、29日投開票で実施される。9月3日、現職の総裁である菅義偉氏が不出馬を表明し、予想されていた構図が大きく変動した。菅氏の表明以前から名乗りを上げていた岸田文雄氏に続き、高市早苗氏、河野太郎氏、野田聖子氏が立候補を表明した。迫る衆院選に向けて、議員は自らの「生き残り」をかけて「選挙の顔」を選ぶ。6派閥が事実上の自主投票となる前代未聞の展開になり、2020年の前回総裁選とは打って変わって大混戦模様だ。そもそも総裁選とはどのような仕組みで、今回、何が決め手となるのか。ビジュアルをまじえて解説する。(監修:政治ジャーナリスト・後藤謙次/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

・出馬から当選までの仕組みは?

・気になる候補者の顔ぶれは?

・菅首相の不出馬で波乱 これまでの流れ

出馬から当選までの仕組みは?

図解

自民党総裁選は、党のトップである「総裁」を選ぶ選挙。自民党内で行われ、公職選挙法に規定された選挙ではないが、事実上、日本の内閣総理大臣を選ぶ選挙だ。日本は議院内閣制で、総理大臣は「国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」と憲法で規定されている。現在、与党第1党である自民党の総裁が総理大臣に就任している。

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総裁選に立候補するには、自民党の国会議員20人の推薦が必要だ。自民党には400人近くの国会議員がいるが、ほとんどの議員は派閥に所属している。そのため、党内のさまざまなしがらみを乗り越え、推薦人を確保しなくてはならない。過去には総裁選に意欲を示しながら出馬を断念した人もいる。

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9月29日に総裁選の投開票が行われる。自民党の国会議員による「議員票」と、自民党員・党友による「党員票」の合計で新総裁が決まる。今回は議員票と党員票がそれぞれ382票で、合計764票での戦いだ。議員票は、衆参両院議長を除く自民党の国会議員382人が1票ずつ投票する権利を持つ。党員票は、全国に約110万人いる党員・党友が各候補者に投票し、その得票数に応じて382票をドント方式で配分する。

1回目の投票で1位の候補者が有効票の過半数を獲得できなければ、上位2人による決選投票となる。決選投票は、議員票382票と都道府県連各1票の合計429票で行われる。

前回とはココが違う。「党員票」に注目

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今回の総裁選は、議員票と同数を党員票に割り当て、党員の意思を前回よりも重んじる配分だ。

2020年に行われた前回の総裁選では、安倍晋三前首相が同年8月に突然辞任を表明したため、党員・党友投票が簡易的な形式で行われた。47都道府県連に3票ずつ割り当てられた「地方票」141票と、国会議員1人1票の「議員票」394票で実施された結果、議員票の動向が決め手となった。

議員票に大きな影響力を持つのが、自民党の各派閥の動向。どの派閥がどの候補者を支持するのか、注目を集める。前回の総裁選では、菅氏はどの派閥にも属さない「無派閥」議員だが、細田派、麻生派、竹下派、二階派、石原派の5派から支持を獲得。派閥の決定が菅総裁誕生の流れをつくった。

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一方、今回に関しては派閥横断的な動きも見られ、派閥の動向だけでは見極められない状況だ。直後に衆院選を控えているため、議員は自らの「生き残り」をかけてトップを選ぶことになる。政権への逆風が吹く現在、選挙に有利に働く人物を選びたいのが実情だ。とりわけ2012年以降の衆院選で初当選した自民党の「1~3回生」は、これまで追い風の選挙しか知らず、初めて迎える逆風下での選挙戦に不安を抱えているとされる。派閥による若手議員の締め付けが難しい状況だ。

全国の党員・党友からの人気を反映する党員票は、「選挙の顔」としてふさわしいかを測る指標だ。党員票の行方は、選挙に強い総裁を選びたい議員心理に働きかけ、議員の投票行動に影響を与える場合がある。つまり、約110万人の党員・党友の「世論」が決定打となる可能性が高い。

気になる候補者の顔ぶれは?

タイトル
河野太郎
岸田文雄
高市早苗
野田聖子

専門家が見る勝負の決め手は?

最終的に4人が立候補した自民党総裁選。はたして選挙戦の行方は――。

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最大のポイントは、河野太郎行革相が仕掛けた「世代間戦争」の行方です。河野氏は所属する麻生派会長の麻生太郎副総理兼財務相の制止を振りきり、さらに安倍晋三前首相や麻生氏が長く遠ざけてきた石破茂元幹事長と手を組みました。「安倍・麻生体制」への挑戦と言っていいでしょう。河野、石破の会談をセットしたのが小泉進次郎環境相。幕末の「薩長同盟」を仲介した坂本龍馬になぞらえることもできるかもしれません。河野氏の動きに党内の若手もうごめいて、「党風一新の会」には約90人が集まりました。

こうした動きに派閥会長の岸田文雄前政調会長が出馬した岸田派を除く6派閥は、総裁の座を争う岸田氏、河野氏、野田聖子幹事長代行、高市早苗前総務相の4人のうち誰に投票するかを決めきれず、自主投票に追い込まれました。自民党の歴史の中でも異例のことです。「派閥政治の終わりの始まり」(麻生派幹部)でもあります。総裁選の直後には衆院選が待ち受けていて、最優先は「生き残り」です。党員投票の1位は誰か。「勝負の分かれ目」はそこにあります。

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議員票では、調整力の高い岸田文雄前政調会長に岸田派所属議員が結束力をみせ、ベテラン議員の多くも支持を表明しています。河野太郎行革相は中堅若手議員を中心に派閥横断的な支持が広がっており、この2人のどちらが1回目の投票でより多くの議員票を獲得するかに注目です。高市早苗前総務相は保守系議員の支持が一定数あり、野田聖子幹事長代行は出馬表明が遅れたことで議員票をどの程度伸ばせるか。さらに、党員・党友票は各社調査で河野氏、岸田氏、高市氏の順と予想され、石破茂元幹事長の撤退と野田氏の参戦により、この構図がどのように変わるかも序盤の要です。

決選投票にもつれ込んだ場合は、岸田氏・高市氏が連合を組むことが予想されますが、野田氏が各陣営との連合構想をどのように考えているかも注目です。最終的には、岸田氏・高市氏連合は決選投票に持ち込めるかどうか、河野氏は党員・党友票の掘り起こしにより1回目の投票で決めきれるかが勝負のポイントになります。

菅首相の不出馬で波乱 これまでの流れ

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※ 竹下派会長・竹下亘元復興相の死去に伴い、本文と図説を修正しました(9月21日)

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