見解近年、政治家に対する物理的暴力が増加傾向にあるように感じる。ブレグジット時の労働党議員暗殺やスロヴェキア首相暗殺未遂、安倍晋三元首相暗殺などは記憶に新しい。その他の国でも、例えば実際に政治家が殺されたこともあるドイツではAfDに対して86件、緑の党に対して62件の暴力事件が報告されている。人種的要因に起因するヘイトクライムも増加傾向にあることは事実だが、こうした社会的対立の延長線上に位置づけられるものなのか、あるいは代表制民主主義に対する態度が変化してきているのか、様々な仮説が成り立つが、何れにしても暴力が社会で当たり前になることは防がないとならない。暴力の連鎖という言葉があるが、暴力が横行する場合、それは暴力的行為に対するハードルを引き下げ、暴力に対する暴力を呼び込み、拡大のサイクルに入るからだ。政治的暴力の場合、民主主義はいとも簡単に崩れ去る可能性すらある。
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コメンテータープロフィール
専門は比較政治、欧州政治。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。日本貿易振興機構(JETRO)パリ・センター、パリ政治学院招聘教授、ニューヨーク大学客員研究員、北海道大学法学研究科教授等を得て現職。フランス国立社会科学高等研究院リサーチ・アソシエイト、シノドス国際社会動向研究所理事。著書に『アフター・リベラル』(講談社現代新書)、『ポピュリズムを考える』(ちくま新書)、『感情の政治学』(講談社メチエ)『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、編著に『ヨーロッパ統合とフランス』(法律文化社)、『現代政治のリーダーシップ』(岩波書店) など。