Professional2018.04.04

「ネットで稼ぐ方法」の前に… 新聞社からヤフーに出向して考えたこと【西日本新聞→Yahoo!ニュース編集部・出向社員コラム2】

Yahoo!ニュースと西日本新聞社は、2015年度から2年間、人材交流を行いました。双方の強みや編集ノウハウを学びあう目的で、西日本新聞社から記者2名が1年ずつ、Yahoo!ニュース トピックス編集部に出向。また、Yahoo!ニュース トピックス編集部から1名が西日本新聞社へ2年間出向し、記者を経験しました。Yahoo!ニュース トピックスの編集に1年間携わり、2017年9月から西日本新聞社に戻って編集局デジタル編集チームに所属する福間慎一さんに、出向の経験や新聞社に戻って感じることなどをつづってもらいました。

「ヤフーに行ってこんね」

新聞社の上司にそう言われて、ヤフーに出向したのは2016年9月。それから1年間、Yahoo!ニュース トピックス編集部に所属しました。

福岡に本社がある西日本新聞の福間慎一(ふくま・しんいち)と申します。2001年に入社して、行政や生活、街の話題を中心に取材してきました。紙面編集の部門にも4年弱いました。出向するまで、デジタル部門に所属したことはありませんでした。

西日本新聞とヤフーとの人事交流は2年間続きました。前半1年間に出向した前任者もiPhoneのホームボタンが分からないほどの「オールドタイプ」(もちろん今はいろんな知識や能力を身につけています)。私もFacebookを少しやっていたぐらいで、Twitterも触らず放置したまま。大差はありませんでした。ヤフーからは編集スタッフが西日本新聞に出向。記者として、一緒に仕事をしました。

なぜヤフーに? 上司の説明は「ネットでどうやったら新聞社が稼げるのか考えてこい」というものでした。結論から言うと、そんな虫の良い話はありません。それでも、新聞社で見落としかけていたことに気付かされました。

コミュニケーション

出向初日。15年ぶりの「新入社員」として直立不動で部長にあいさつした新聞社出身の私は、部長の言葉にたじろぎました。「よろしくお願いします、福間さん。分からないことは何でも、周りの人に聞いてくださいね」

24歳の入社以来、私が育った新聞社は、今でこそ穏やかですが基本的には体育会系の組織です。入社当初は毎日、ストレス耐性を試されるかのように怒られました。全ての返事とあいさつが「すみません」だったような感じです。目上に「さん付け」され、敬語を使われることなんて、当然ありませんでした。

(今は違いますが)原稿に対するデスクの問いに詰まると怒鳴られる。刷りの段階で1カ所「同社がが」となっているのを見つけた時は、怒られるのが怖くて「いっそこのままに…」と血迷いかけたことも。それでも、もっと前の時代からすれば、かなり改善していたようでした。

年齢や役職に限らず社員同士が「さん付け」の敬語で呼び合うのはすでに多くの企業で普通のことです。いまさら情けない話ですが、利点に気付かされました。まずコミュニケーションがシンプルになる。例えば新聞社では、後輩記者にメールを送る際に、相手の名前の下を「様」にするか呼び捨てるか、少し悩んでいました。日ごろから「さん」だと楽。そして、年次や年齢に邪魔されない会話は、アイデアを広げ、考察を深めます。

ヤフーで驚いたのは「1on1(ワンオンワン)」という取り組みでした。上司と部下が1対1で毎週、時間を作って話します。一般的な面談と違い、上司は部下の話をとにかく「聞く」。指導ではなくサポートに徹することで、部下自身に、考えて行動する力を身につけさせる手法です。


1on1のイメージ図です(画像:アフロ)

こうした職場環境からか、Yahoo!ニュース トピックス編集部のいろんな打ち合わせでは、年齢や社歴にかかわらず、次々に意見が出ていました。そして結論も、若手が主体的に導きます。子どものような話、と思うかもしれませんが、自分たちの組織はどうでしょうか。

新聞社での「会議」は、紙が一枚配られて説明があり、意見がほとんど出ない、ということがときどきありました。周りの目が気になる、批判される、あるいは言い出しっぺが責任を負わされる――。そんなお互いの感情が意見を言いにくくしていて、それが組織の風通しを悪くしている。そんなことはないでしょうか。

当然、厳しい現場に踏み込む記者には、一にも二にも経験と訓練が必要です。職人の世界と同じで、問答無用で覚え、身につけなければならないこともたくさんあります。ただ、もう少し、自由な発想をみんなで促しあう雰囲気が高まってもいいのかもしれません。

ユーザー目線

出向中は、「伝える」ことの意味をあらためて考えさせられた1年間でもありました。

西日本新聞も含め全国の新聞、雑誌、ウェブメディアなどからYahoo!ニュースに配信される記事は1日4千本以上。編集スタッフは配信記事を読み比べ、記事を選んでトピックス枠に掲出します。

今、どの記事がどれだけ読まれているかが即時に分かるシステムは、当然、紙の新聞にはありません。紙媒体での取材、編集に携わってきた私が「読んでほしい」と思ってきたニュースと、実際に「読まれる」ニュースにはギャップがありました。


社内専用ツールの一部。左側がパソコンからのアクセス、右側がスマートフォンからのアクセス

しばしば新聞の1面には、「あす○○法成立」という記事が載ります。政治への関心を高めてもらいたいという思いを込めて編集しますが、ネットではあまり読まれない。一方、芸能人の交際や破局、一見なんでもない動物の話題が、ネットでは目を疑うほどよく読まれます。新聞では「そんな話題はつまらん。いらん」となるでしょうが、そうした話題があることで、自分たちの媒体に目を向けてくれる人が増える側面もあります。記事の質を高める作業は当然やっていますが、同時に、今求められている話題が何か、どのようにすればもっと伝わるのか、そういったことを考えることにもっと力を割くことも、私たちには必要なのではないでしょうか。

とはいえ、ヤフーでは自戒も込めて、課題も感じました。

まず気になったのはニュースの「省力化」。ブログやツイッター、テレビから書き起こしただけのような記事が想像以上に多い。そして出所もわからないままにまとめられた「ニュース」も多い。現場に足を運び、裏取りに徹する記者本来の仕事の質を保つことの大切さを再認識しました。

もう一つは「画一化」。メディアの多くは東京に拠点を置いていることもあり、取材の現場の多くは首都圏。地方のニュースは圧倒的に少ない量でした。地域の細かいニュースは、やはり地元のメディアに頼らざるを得ません。ですがネットでは、全国どこにいてもニュースは東京から流れてくるものがほとんどです。ヤフーでは、ニュースに関わる社員による勉強会も開かれており、私もその中でこの「画一化」について話す機会をいただきました


「ニュースの画一化」を生まないために、どう地域と向き合うかーー勉強会の様子

そして意外だったのは、善行や人助けなどいわゆる「いい話」へのニーズでした。新聞では、社会の不条理や不祥事、税金の無駄遣いを追及する記事に比べて、「おぼれた男性を救助して感謝状」というようなニュースは「地方版に小さく…」というケースも少なくありません。でも、こうした話題を端折らずしっかり伝える記事は、多くの人の心に刺さっていました。

月間150億のページビューがあるYahoo!ニュースの影響は大きく、編集者としてはやりがいを感じました。それでも、新聞社の仕事の方が面白いとも思いました。そこには取材する現場があり、地域に暮らす人とのリアルなやりとりがあるからです。

もっと「そもそも論」を

新聞業界は今、下げ止まらない部数と広告減のなかにいます。私たちはよく「読者離れ」という言葉を使ってきましたが、離れているのは新聞の方かもしれません。自分たちがやるべきことを見失わずに、柔軟に考える。難しい作業が求められています。

ユーザーの「課題解決エンジン」になるというヤフーのミッションは分かりやすく、社員が共有しやすいものでした。ニュース編集でもSNSの運用でも、迷った時はその「そもそも」に立ち返れば、答えを導けます。もちろん全ての仕事が完ぺきで、それに完全に沿っている、というわけではありません。ただ、方向を見失いそうなときに、立ち返る道をメンバーが知っているのは心強いことです。

一方で新聞には「何のために書くのか」「どうしてこれを取材するのか」という「そもそも論」がときどき足りていないのではないか、とも感じました。「頼まれものだから」「去年も載せたから」、「とりあえず(紙面を)埋めておけ」で取材するものがないでしょうか。自分自身、なかったとは言い切れません。公共性と社会的関心のバランスをどう取るのか。本当に必要とされているニュースは何か。そして新聞は今までの作り方でいいのか。自分たちが実現したいことは何なのか。置き去りにされがちな「そもそも論」が必要だと思います。

新聞社に戻って半年が過ぎました。言うのは簡単、やっぱり、ときどき日々の業務に流される自分がいます。それでも今、社内では同僚とこんな話をしています。「読み手や、自分たちの地域にとって『役に立つ』『必要としてもらえる』の二つに絞った仕事をしよう」

その原点に立ち返る取り組みの一つが、社会部が中心になって1月に始まった企画「あなたの特命取材班」(追記:「あなたの特命取材班」について紹介した記事はこちら)です。TwitterやLINEなどを使い取材依頼を直接受け付け、記者が依頼者に直接会い、取材過程も含めて報じ、ウェブでも積極的に配信する取り組みです。社会部とデジタル担当の部門が一緒に、取材の進捗(しんちょく)やウェブ上での読まれ方を共有したり、見出しの取り方を議論したりしています。実はこういう取り組み、私たちの会社はあまりやっていませんでした。

出向する時に言われた「ネットでどうやったら稼げるのか」。私が感じたヒントは、思いがけず内向的なものでした。新たな取り組みと同時に、組織のコミュニケーションや評価のあり方を見直す。そして、自分たちの「そもそも」を見失わない――。

正直に言って、本紙も含めて新聞の部数がこれから増加に向かうのは考えにくい状況です。それでも地方紙にできることは、まだまだあるはずです。「レガシーメディア」のイノベーションに、同僚たちと挑戦したいと思います。

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