Professional2016.09.12

新聞記者になって取材現場に行ったら見えたもの【Yahoo!ニュース編集部→西日本新聞・出向社員インタビュー】

ヤフーでは、2015年度より西日本新聞社との人材交流を始めました。 Yahoo!ニュース編集部から1名が西日本新聞社へ出向し、記者として取材し、記事を書いています。 西日本新聞社からは記者1名がYahoo!ニュース編集部に編集者として出向も。 出向したのは、報道機関などから中途入社した社員ばかりのYahoo!ニュース編集部に、初めて配属された新入社員第一号、佐橋史直。
西日本新聞社に出向したのは、人の手でトピックスを選ぶYahoo!ニュース編集部の編集者として「実際の報道現場を経験することで、ニュースを届ける使命感や責任感を身につけることができるのでは」という狙いから。
出向期間は2年。
その半分が終わった今、何を思うのか聞きました。

Yahoo!ニュース編集部は中途入社の社員しかいなかった

佐橋は2011年4月に新卒でヤフーに入社。
研修を終え、Yahoo!ニュース編集部だけでなく検索、Yahoo! JAPANのトップページを担当する部署が集まるグループに配属。マスコミ業界などから転職した、中途入社の社員しかいないYahoo!ニュース編集部に、初めて入った新卒の社員でした。


――希望してYahoo!ニュース編集部に入られたのですか?
当時は今のように編集としての採用はなく、僕はビジネスコース(当時)で採用されていたので研修が終わってYahoo!ニュース編集部があるグループに配属された時は、びっくりしました。グループの中でどこの部署が希望かを聞かれたのですが、Yahoo!ニュース編集部は「なんとなくの興味」で選びました。

――佐橋さんともう一人同期の方と2人で初めての新入社員ということでしたが、Yahoo!ニュース トピックスの作成に関して、どんな教育を受けましたか?
先輩から、「なんでこのニュースが重要だと思ったの」「なんでこの13文字見出しなの」と、とにかく聞かれ、徹底的になぜなのかを言語化しました。「これは読まれるから」だけじゃなく、「伝える必要がある」という軸を考えるよう鍛えられました。

――そして突然、出向を打診されます。率直に、感想はいかがでしたか?
就職活動で報道機関は一社も受けていなかったですし、えぇっと驚きました。
営業の仕事ができないかなと考えて就活してIT企業に入社したのに、Yahoo!ニュース編集部に配属されて、しかも新聞記者になるなんて思ってもいなかったです。
取材現場を知らない不安の方が大きくて、とりあえず横山秀夫の「クライマーズ・ハイ」を読みなおしました。

――2015年4月、西日本新聞社の新入社員とともに研修期間を終え、記者として最初に配属されたのは、地元密着のニュースを扱う都市圏総局。都市圏総局は福岡市周辺の「地域ネタ」を追う部署です。
新聞社という職場はYahoo!ニュース編集部の職場と比べて違いましたか?

渡された会社用の携帯がガラケーなのに驚きました。ガラケーは大学1年生の時に使って以来でしたから。ヤフーではほとんどの連絡をメールやチャットでしますが、新聞社ではほとんどの連絡が電話ですし、ファクス文化。あと、記者の職場ってこんなにいろんな音がするものなんだと思いました。

初めて書いた「街ネタ」


――初めて書いた記事は、福岡市内の美術館で、県内の芸術家の作品展が開催されていることを知らせる記事でした。いわゆる「街ネタ」ですね。トピックスを作成していた経験は生きましたか?
初めて書いたのは、Yahoo!ニュース トピックスには取り上げられなさそうな記事で、経験は正直に言うと生きませんでした。
今でも悩みます。一体どれが地域のニュースになって、ならないんだろう。Yahoo!ニュース トピックスにはならないけど、新聞記事にはなる違いはなんだろうって。

――例えば、Yahoo!ニュース トピックスはリアルタイムでどの記事が読まれているか分かり、ピックアップの判断の一つになっています。一方で、新聞には読者に読まれる記事、だけではなくて「伝えるべき」かどうかという判断もありますね
都市圏総局の次に経済担当になったのですが、西日本新聞社では、九州の鉱工業指数を毎月載せています。
この記事もYahoo!ニュース トピックスや、全国ニュースにはならないかもしれません。けれど、西日本新聞社が取り上げなければ陽の目をみないで終わってしまう情報です。継続して取り上げることに意味があると思っています。

――いろいろな取材先の方がいると思いますが、接してみていかがですか?
経済担当では、企業の社長に取材する機会があってすごく緊張しました。
過去の記事を調べたり、質問事項を考えたり、準備が大変で。取材相手の前で考えた質問を見ながらお聞きできないので、なんとか思い出しながら聞いたり、最後にもう1つだけお願いしますって言いながら3つくらい聞いたり。

――特ダネの経験は?逆に他社に特ダネを先に書かれる、いわゆる「抜かれる」ってことはありましたか?
経済担当のときに先輩記者から「ここの企業の動きはちゃんと追っておいて」と言われていたのですが、日本経済新聞さんに抜かれてしまいました。後追い取材もなかなかうまくいかなくて…。すみません、抜かれた経験しかないですね。

――記者ならではの貴重な経験ですね
Yahoo!ニュース編集部にいたときは、特ダネの後追いの記事でもより詳しければYahoo!ニュース トピックスとして出すこともアリではないかと思うこともありました。
けれど、現場を知るとやはりできれば特ダネを出した社の記事をYahoo!ニュース トピックスにしたいと思います。でもユーザーには関係なくて詳しい方がいいのか?と思ったり、難しいですね。
特ダネが出たタイミングで、Yahoo!ニュース トピックスにできる記事がその社の記事しか無いというのが理想ですね。

熊本地震

地震で倒壊した熊本県益城町の家屋 2016年5月1日、中上芳子撮影

佐橋が出向してちょうど1年ほどたった4月14日と16日、熊本県で2度の震度7を記録する地震が発生しました。九州を拠点とする西日本新聞社の記者の一人として、佐橋も18日から被災地に入りました。

――4月14日の最初の震度7の地震の時はどこにいたのですか?
西日本新聞社の本社にいました。一斉にみんなの携帯が鳴り出し、福岡市内も揺れました。
「熊本がやばいらしい」「〇〇行けるか」「△△は電話取材班で」と、どんどん取材が始まり、私も電話取材班に加わって、交通機関に取材し続けました。
揺れたときは戸惑うばかりだったんですが、記者の人たちって自分が何をしなきゃいけないんだ、ってことが分かっているんです。「わぁ、こんな風になってるんだ」と。記者が一斉に集めた膨大な情報をさばくのもすごいなと思いました。

――貴重な経験ですね
Yahoo!ニュースは、基本的にはメディアが取材して、記事にして、送られてきたものをYahoo!ニュース トピックスに出すので、情報の第一歩が報道機関なんだということが、よく分かりました。
私はこのときの経験を生かして、災害時にはこういう記事が来そうだからピックアップしようとか、先回りして考えられるようになれるんじゃないかと思います。

――16日に二度目の震度7の地震が熊本県で発生し、佐橋さんは18日から熊本県内に取材に入りましたね
益城町の避難所などを取材しました。被災地に入るのって本当に初めてで、ネットでは「記者死ね」「被災者の邪魔しやがって」みたいな声もあるので、現場でも罵声を浴びることがあるのかもしれないと思っていました。
実際には、断られることもありましたが、受け入れてくれるというか、話も普通にしてくれて。西日本新聞社の記者だったからというのもあったんじゃないかと思います。

――被災者の方から話を聞くというのは勇気がいるのでは
被害を受けた人に、もうちょっと配慮した言い方はできたかもしれないです。ぶしつけすぎたかもしれませんが、言葉を選びすぎるより割りきって「家はどうなったんですか」とか直接的に聞いていました。
避難所にいた方も、皆さん悲観的な雰囲気ではなくて、話しやすかったというのもあります。

――熊本地震では、多くの方が亡くなりました
亡くなられた方の取材で、顔写真の提供をお願いするためにご遺族のところに行きました。
「少しお話させてもらえないですか」と声をかけましたが、拒否されて写真はいただけませんでした。丸一日くらいかけましたが、結局、顔写真はいただけませんでした。自分が遺族だったらと思うと断られる理由も分かると思いつつ、記者として話しかけなければならないという思い、結果的にアウトプットできる成果を出せなかったという思いで落ち込みました。

残りの出向期間の目標は「Yahoo!ニュース トピックスに取り上げられる」

――2年の出向期間の半分が過ぎ、残り1年の目標はありますか?

※インタビューは6月2日

「全国の人が面白いと思うような新しいことや切り口とか、そういう視点の記事が書けるように頑張りたいです。まだ自分の記事がYahoo!ニュース トピックスに取り上げられることがなかったので、残り1年はピックアップされるのを目指してます。


――IT企業に入社してネットでニュースを扱ってきて、今は新聞記者の現場で記事を書く側にいます。ネットと紙、両方を体験して思うところはありますか?
私は紙だから、ネットだから、という違いは流通の話で、基本的に違いはないと思っています。ただ紙面には限りがあるので、コアなところ。ウェブはその周辺を、というイメージを持っています。
「大手マスコミが報じない〇〇」。ネットではある種バズワードですよね。
でもそのマスコミがどれだけの労力と人を使って一つ一つ確かめて、限りある紙面にコアな情報を出しているか。その信頼性は高いと思っています。
ネットと紙は敵対するものではないし、新聞社もネットとつながっていて、遠い存在ではないと思うんです。補い合えればいいなと思います。

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