Media Watch2017.01.24

「ニュースの画一化」を生まないために、どう地域と向き合うか。みんなの経済新聞ネットワーク×Yahoo!ニュース

 Yahoo!ニュースでは、都道府県それぞれの地域のニュースを毎日配信しています。自分の住んでいる地域はもちろんのこと、出身地やゆかりのある地域のニュースが気になる方も多いはず。実際にYahoo!ニュースで配信している福岡県の記事は、県外からのアクセスが7割を超えているというデータもあります。

 「地域のニュース」と一言に言っても、届け方によって日本全国にそのインパクトを広げることもできます。多くの人に届けやすい環境であるインターネットにおいては、地域のニュースとどう向き合っていけばよいのでしょうか。

 2016年12月15日、Yahoo!ニュースは地域メディアに関する社内勉強会を開催しました。登壇いただいたのは、国内外に125エリアで展開する「みんなの経済新聞ネットワーク」代表・西 樹さんと、秋田市で活動している「秋田経済新聞」編集長・千葉 尚志さん。地域のニュースとの向き合い方を、Yahoo!ニュース編集スタッフとともに探ります。

西 樹さん
みんなの経済新聞ネットワーク代表。兵庫県出身
千葉 尚志さん
秋田経済新聞編集長。秋田県出身

100年後の人のために残す「まちの記録係」

2000年に「シブヤ経済新聞」が誕生

 「みんなの経済新聞」(以下みん経)のはじまりの舞台は東京都・渋谷。西さんは、「みんなが普段使っているまち」の変化を取り上げるスタイルは、16年たった今でも変わっていないと言います。地元の企業や事業所と連携しながらも独立した編集体制を基本としており、伝え手のプロでなくとも地元の人が発信している――ということを大事にしているそう。

西さん
僕らは「まちの記録係」。格好つけているみたいですが、100年後の人のために残しておければ……と思いながら日々記事を書いています。

地元ラブ&ピースのポスターは各編集部に貼られているそう
西さん
オリジナリティーを大事にしているのですが、都市部にあるみん経編集部はどうしてもプレスリリースに頼ってしまいがちです。だから「ノーリリースデー」を作ろうかな、とも考えています。ニュースソースにプレスリリースを使わない日。
千葉さん
プレスリリースのコピペはせず取材の一次情報を基本としているので、プレスリリースのまま記事を書く他メディアと比べると、僕らはどうしても記事配信が出遅れます。そこがすごくジレンマで悔しい。しかし僕らの強みは地域の人が作り、地域に根を張って情報発信していること。取材対象との信頼関係を築くことで、得られる情報もあるんですよ。

地域コミュニティーの中で、みん経編集部ができること

 近年、NPO団体など地域で活動するコミュニティーが増えてきました。西さんは、その現象の課題は大きく分けて2つあると言います。1つ目は「強力なリーダーシップがそれぞれの輪にいることで、横のつながりが意外と薄い」こと。2つ目は「情報発信が上手でない」こと。広報担当がいることで円滑に進むケースが多いとか。

西さん
僕らはそんな中で、つながりのハブになったり、情報発信の場になったりできるんじゃないかなと。編集部にいる地域の人や地域コミュニティーにどんどんプレーヤーになってもらうことが大切だと思っています。小さくても活動することが、地域を活性化する鍵なんですよね。

「県外人の目」や「ニュース化」が、地域を再発見する

 秋田経済新聞の編集長である千葉さんは、「全国に紹介したいコト・モノはたくさんあるけれど、単純に紹介するだけではニュースとしては難しい」と話します。見つけたネタを「ニュースにする」には、いくつかの工夫が必要とのこと。

千葉さん
例えば、秋田県民みんなが知っているカエルの銅像「ももさだカエル」。この銅像の建立20周年の記事を、成人式の日にあわせて配信しました。「ももさだカエルも成人になった」ということで、ニュース性が生まれたんです。

 最近はSNSで話題になっているネタも積極的に拾うそう。秋田県に観光に来た人が見つけた「悪意あるスズメの解説板」(編注:秋田市大森山動物園で、スズメがキジのエサを勝手に食べる問題が発生。職員が皮肉を込めてスズメの解説板を掲示した)は、ツイッターで突然拡散されたものでした。投稿元になった人に連絡を取り、動物園に取材し記事化したとのことです。

「何気ない記事もけっこう手間がかかっているんです」
千葉さん
「県外人の目」というのはすごく大切なんですよね。秋田市内の動物園のことなのに、5カ月くらい誰も気づきませんでした。目が慣れてしまいがちな自分たちを、ハッと気づかせてくれたいい例です。

目立つ取材対象への集中が、ニュースの画一化を生む?

 Yahoo!ニュースからは、西日本新聞から出向している福間 慎一と、地方拠点で仕事をしていた竹野 雅人が登壇しました。

福間 慎一
西日本新聞記者 Yahoo!ニュース編集部に出向中。福岡県出身

福間は10月に出向し、日々新聞社との違いに驚いている

 11月に発生した博多駅前の陥没事故。福間はYahoo!ニュースで伝えていく中で、「地元と東京」の違いを如実に感じたと言います。

福間
多くの人に読んでもらうためには仕方ない部分もありますが、やはりどうしても当事者である福岡と、東京など福岡以外の地域との温度差には違和感がありました。地元で伝えたいのは「復旧の見通し」や「生活への影響」ですが、よく読まれるのは「派手な陥没ぶり」や「復興を巡るドラマ」です。しかしギャップは埋めようがないものかもと考えています。Yahoo!ニュースの編集としては、どちらにも偏らない情報発信を心がけるほかありませんが…。

 また福間は、ニュースの画一化を指摘。メディアの関心がどこか一点に集中し、どの媒体も同じものを取り上げてしまっている現状があると言います。その背景にはメディアの取材リソースが年々ぜい弱になっていることが挙げられるとのこと。

福間

目立つ取材対象には取材が集中します。それ以外の手のかかる場所への取材ができず、見過ごされているテーマも少なくない状況です。――でも、地域密着のメディアは必要だと僕は考えています。

 福間が例に挙げたのは、米国カリフォルニア州ベル市で起きた問題。ベル市職員幹部の給与がオバマ大統領の2倍近くになっていましたが、その地域の地元紙が休刊になっており、取材されない状態が続いていました。LAタイムスの記者がうわさを聞き、その問題はスクープとして取り上げられました。 (編注:市職員給与がオバマ大統領の2倍、米検察が高待遇を調査

福間
この問題は、新聞社がなく、取材空白地帯になってしまったことが引き起こしました。これは極端な例でないと思います。地域メディアは住民の憤りや被災に寄り添い続けることで信頼を得ます。在京メディアの豪快な取材ではない細やかな声の拾い上げが、地域の課題を広く伝えられるのではと思います。地域の記者は、地域のキュレーターなんですよね。

Yahoo!ニュースが模索する、地域ニュースの届け方

 Yahoo!ニュースには現在、八戸・東京・大阪・北九州の4つの地域拠点があります。竹野はそのうち、大阪・北九州・東京の3拠点で働いてきました。地域で働いた経験は、Yahoo!ニュースの編集業務にダイレクトに生きてくると言います。

竹野 雅人
Yahoo!ニューストピックス編集部。石川県出身
竹野
当然ですが、新聞やテレビなどの地域メディアは地域向けの編成をしています。福間が「ニュースが画一的になっている」と指摘しましたが、僕はヤフーのトップページなどネットだけがそういう状況になってしまっていると思うんです。それぞれの地域では、きちんと地域のニュースが伝えられているのに。このままでは「Yahoo!ニュースには地元の情報が載っていないよね」と思われても仕方ないように感じます。

 竹野は、Yahoo!ニュースに足りないのは地域への温度感だと指摘します。例えば、東京の編集者にとって「山手線運転見合わせ」のインパクトの大きさはすぐに分かるものの、「大阪環状線運転見合わせ」だと一瞬手が止まってしまいます。大阪環状線の天王寺駅がJR西日本エリアで3位の利用者数を誇るほど影響力が高い場所であることも、実際に天王寺駅に行き、人の多さを体感しなければ想像ができないと言います。

竹野
もっと地域とつながっていくことが大事ですよね。広島=カープとか、香川=うどんのような、イメージだけで地域を伝えてはダメなんです。そのためには地域メディアと密にコミュニケーションを取るだけでなく、僕は地方拠点を増やせたらとも思います。

 Yahoo!ニュースアプリの「地域別プッシュ通知」は、ニュースを伝える手段としてもっと活用ができそうだとも言います(編注:「地域別プッシュ通知」とは、ユーザーが地域を登録しておくと、その地域のニュースをプッシュ通知で受け取れる機能。全国に伝えるほどでなくとも、インフルエンザによる学校閉鎖はその地域にとって大ニュースです。

竹野
地域メディアが伝えたいことを、伝えるべき人に届けていきたいです。細かくターゲティングしていけば、その地域に住むラーメン好きの人に、有名店の閉店情報を届けたい。中央線沿線に住む人に、「寝過ごし救済バス」の存在を伝えたい。届け方を変えていくことが、地域のニュースを変えていくことなんだと考えています。

 西さんは、竹野の話を聞いてこう述べました。

西さん
時々、みん経の中から「この記事をYahoo!ニュースにおすすめしたい」といった話があるのですが、何がおすすめな点なのかが分かりにくいことがあります。背景には、やっぱり地域の温度感なのかなと。テキストの文面だけでは重要度が伝わりにくいんですよね。町に漂う温度をどれだけデジタル空間に持ち込めるかが、僕らの課題でもあると思います。

 「地域の温度感」をきちんとすり合わせることで、ニュースはもっと立体的に広がっていく――。ニュースを書く側とニュースを届ける側のコミュニケーションが、地域の今後を握るように感じられました。

編集後記

 今回のイベントタイトルは「地域の課題への熱い思いを語る会」。みんなの経済新聞の西さん、秋田経済新聞の千葉さんに登壇いただき、テーマ通り愛にあふれた内容になりました。Yahoo!ニュースに配信いただいている地域ニュースは、地域にとって財産そのもの。大切なその財産をよりよく届けるべく、Yahoo!ニュースとしても工夫をし続けていきたいと、改めて感じることができました。

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