Professional2015.08.07

「ほ、ホームボタンはどこですか…?」 “オールドタイプ”の僕がIT企業で働くことになったわけ【西日本新聞→Yahoo!ニュース編集部・出向社員コラム】

 Yahoo!ニュースでは、2015年度より西日本新聞社との人材交流を始めました。4月からYahoo!ニュース編集部から1名が西日本新聞社へ出向しています。取材等の経験のなかった若手社員が実際の報道現場を経験することで、ニュースを届ける使命感や責任感を身につけることができるのではと考えたためです。
 また、双方の強みや編集ノウハウを学びあう目的で、5月からは西日本新聞社からも1名がYahoo!ニュース編集部へ出向しています。いずれも任期は1~2年。今回は、西日本新聞社からYahoo!ニュースへ出向中の社員に、編集部に籍をおいて約3カ月が経ったいま、日々感じていること、この3カ月を振り返って思うことなどをつづってもらいました。

 news HACK読者の皆さま、初めまして。西日本新聞社より出向中の三重野諭(みえの・さとし)と申します。といっても、実は6月の当ブログのトークイベント「ローカルメディアの未来を考える」で登壇の機会を頂いたので(下の写真)、名前を聞いたことがある、という方もいらっしゃるかもしれません。

見つからないホームボタン

 5月から、Yahoo!ニュース編集部で働いています。それまでは西日本新聞や西日本スポーツ(西日本新聞社発行のスポーツ紙)の整理部、大分県別府市にある住み込みの1人支局記者などを経験しました。ただ、デジタル部門への在籍経験はなく、社内でもネット、ITに詳しい記者というわけではありませんでした。

 出向直前にYahoo!ニュース編集部の部長と面談した際、業務上、iPhone使用が必須と聞き、「使ったことがないのですが」と不安を告げました。部長は「Androidを使っているのなら、大丈夫ですよ」と一言。 本当ですか? 一抹の不安を抱えたまま入社した直後、iPhone 6を触ると…あれ、メニュー画面にどうやって戻るんだ?

 ホームボタンが分からない。 マジですよ。隣席の部員に聞くと、声に出さぬとも「そんな初歩的なこと聞くんかい」と驚いた顔。部長、大丈夫って、嘘じゃないですか。゜(゜´Д`゜)゜。パソコンなどを貸与され、自分で設定する必要があるのですが、新聞社では記者として最小限のツールしか使ったことがなく、こちらではメール設定から、脳内が「?」で満杯。マニュアルは社内のウェブ上にあり、探すのにも一苦労しています。

 先輩部員から、「人は優しく、機械は厳しい会社だよ」との一言を頂いていたのですが、まさにその通り。聞けばどなたも何でも教えてくれるんですが、事細かに一つ一つ聞けるほど暇な同僚は一人もいません。あの、呆れたような、驚いた顔を思い出すと、もう初歩的なことは聞けませんでした。よくよく考えると、ここはネット検索の企業、ITを駆使してサービスを提供する企業です。自分で調べる能力、ツールを使えるようになる、設定できる能力も試されているのだと、ホームボタンを見つめながら思いました。

 新聞社とのギャップは想像以上で、他にも戸惑うことがありました。KPI、KGI、YOY、DUB、CTR、CPA、DMP、API、DSP、YSM、YBM、MYM、MSC…。経済、ウェブ分野の専門用語からヤフー社内専用の用語まで、社内の会話はアルファベット3文字のオンパレード。可能な限り外来語を日本語に置き換え分かりやすく伝えることを意識してきた新聞人にとって、もはや暗号です。新聞社で「オウンドメディアのKPIは、PVやCTRじゃないよね」なんて言おうものなら、「日本語を話さんか!」と先輩社員から一喝されるのは間違いないです。

無言で白熱の議論

チャットの会話履歴の一部を抜粋・再現したもの(注:時間の流れは下→上)。
(※「Yahoo!ニュースで起こった「ダルビッシュ論争」~編集とデータ活用の現場から」より)

 無言の中、カタカタと鳴り響くキーボードの音。入社して一番驚いたのは、社内SNSのチャット機能(画像参照)の活用でした。「この記事を採用しようと思うんですが」「見出しを再考して」「こんな関連リンクは不適切では」などと、編集部の業務上の「ほうれんそう」は基本的にチャットです。
 編集部員は東京以外に、八戸や大阪、北九州に分散しているほか、在宅業務をすることもあります。遠隔地と速やかに、正確にコミュニケーションするための手段なのです。編集部内の投稿は、多い日で1日あたり2000件に達することも。
 ※編集注:地方拠点とはテレビ電話を24時間つないでおり、有事の際にチャットがつながらなくなった時や、大ニュースが起きて一刻を争う事態になったときのために、声を掛け合いながらの編集作業も念頭においています。また、Yahoo!ニュース トピックス以外の編集作業(Yahoo!ニュース 個人など)ではこの限りではありません。

 新聞社ではメール、ファクスも活用していますが、社内や取材相手との重要なやりとりのほとんどは対面や電話です。音声とは違い、チャットはログが残り、勤務外の時間に部員間でどんな議論があったかを知ることもできます。思考の過程が可視化されているため、共通認識を持ちやすくなるのも利点です。
 ただ、表情が読めない分、注意も必要。入社初日に飲みに連れて行ってくれた先輩からは、「テキストだけだときつく見えるから、気を付けた方がいい」と指摘も受けました。チャット上ではほとんどの部員が丁寧な言葉を選んで使っています。私の投稿最多ワードトップ3は「承知しました」「お願いします」「ありがとうございます」辺りでしょうか。

年次や経験を越えて

 東京以外の部員とは、初対面の前にチャット上で会話しており、会ってみて「こんな方なんだ」と投稿とのギャップに驚くこともしばしば。私も「そんな眼鏡をかけているんですね」と言われました。つぶやきは、眼鏡男子っぽくなかったのでしょうか……。オタク臭を、そこはかとなく醸し出しているつもりなのですが。面と向かって話すのに比べて、チャット上だと本音を言いやすいとも感じています。個々人がアイコンのように記号化されて、関係性がフラットになるのでしょうか。会話よりも、発言の中身が問われます。

 部員の経歴は新聞やテレビ、出版社などのマスコミ出身から、新卒プロパー、グループ会社の出向など様々。当然、上下関係もありますが、価値判断という仕事は、記事について詳しい人間が遠慮せずに主張することが不可欠です。年次や経験を乗り越えて議論を交わし合う点で、こうした社内SNSは大いに役立っています。この投稿は的を射ているな、大事だな、と思った場合、ポチると投稿のクリック数が表示され、字が大きくなるのも面白い機能です。時に本質的な議論だけでなく、雑談がクリックされ、「社内バズり」状態になることも大事な(?)コミュニケーションでしょうか。西日本新聞社では「おしゃべりクソ野郎」として知られる話好きな私も、働き方や職場に馴染むことを優先して我慢。業務連絡や雑談を無言でつぶやき続けています。

普段は白熱した議論が繰り広げられているが、 時には上記のような部員同士の雑談が発生することも(※上記は再現画像です)

Twitterでの批判に感激

 取材先だった大分県別府市のNPO職員らと、名物の韓国焼肉で親交を深める記者時代の私(左奥)。料理や酒のうまさに仕事を忘れて盛り上がることもありましたが、地元の食を堪能しながら、地域の方と膝を突き合わせるのは本当に貴重な機会でした。

 カルチャーショックを受け続けている「オールドタイプ」が、なぜデジタルデバイドの急流を渡ろうと思ったのか――。大きなきっかけは2年前。執筆した記事がYahoo!ニュース トピックスのトップ8本に採用された経験でした。シャッター通りだったJR別府駅(大分県)の高架下の小さな商店街が、2年半で空き店舗が埋まるほど再生したという記事。取材した私が知らない間にYahoo!ニュースに配信され、知人や市民のFacebookでシェアされていました。

 正直に言うと、私は当時も今も、特だねを連発したり、問題を指摘したり、社会を変えるきっかけを世に放ったりするような、有能な記者ではありません。2年前に商店街の記事が取り上げられたときも、「誰が書いたのか」と話題になるぐらい、私自身は現地での知名度はありませんでした。そのため、記事に対して、取材対象から感想や批判を頂くことはあっても、読者の反応を受ける機会は皆無でした。紙面で行政の手法や、立候補者に無関心な有権者を批判するコラムを書いても、届いている実感はありませんでした。行政や地域を動かす契機をつくる同僚や他社の記事を目の当たりにして、負い目を感じることもありました。

 その分、トップ掲載の影響は、衝撃的でした。特にTwitterでは、リツイートされた数百人の方々、一人一人の反応を見ることができました。不動産業者の協力があったとはいえ、行政の支援を受けずに地道に商店街を再生させた店主を応援したい、取り組みを拡散させたい、との思いで書いた記事。「こういうこと仕掛けられる人になりたい」「行ってみたくなるね」などのコメントに、胸が高鳴ったことを覚えています。また、「この記事では成功要因がよくわかりません」「先日通ったときは賑わってるって感じではなかったが」「書き出しで『異変が起きている』と書くのが西日本新聞レベルのような…」といった批判にも、記事に細かく目を通してくれていると実感しました。

より広く、より持続的に

 賛同された方にも、批判された方にも、記事を届けられたのは、Yahoo!ニュースへの配信、トピックスへの掲載があったからです。編集部はどんな思いで、記事を選んでユーザーに届けているのか。編集者はどう育てているのか。ニュースを伝えるために、どうITを生かしているのか。出向の社内公募があると知った私を、2年前に湧き出た疑問が突き動かしました。

 東京・六本木にそびえ立つ巨大ビルに吸い込まれて以来、記事を読み続ける毎日ですが、ふと、記者に感情移入してしまうのは地方紙のニュースが多いです(トピックス採用とは別ですよ!)。暑さ寒さや待ち時間、眠気、締め切り、通行人の冷たい視線、時には取材相手の罵声やデスクからの重圧などとも闘いながら、現場がネタを拾っている現実は、新聞に限らず、テレビ、通信社や雑誌、ネットメディアなど、どの媒体にも共通しているでしょう。
 記者が精魂込めたニュースを、より広く伝えたい――。さらに、媒体側とYahoo!ニュース側、両方がニュースを持続的に伝えられる仕組み、ビジネスモデルを追求したい――。そのためには、自分の不得手なITに理解を深めるため、編集部だけでなくエンジニアやデザイナー、企画など他の職種の皆さんの力を皆さんの力をお借りすることも不可欠だと思っています。出向を通じて、ヒントを一つでも多く見つける所存です。

 最後までご覧下さり、ありがとうございました。今回は「動機」の部分が中心になってしまいましたが、次回はYahoo!ニュース編集部の業務を通じて学んだことや感じたことなどを、もう少し詳しく書いてみようと思います。

※当ブログでは、今後も出向社員のコラムを不定期で掲載する予定です※

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