Media Watch2018.12.28

「もっと自由に生きていい」 映画監督・映像ディレクター藤岡利充さんが挑戦者を撮る理由

2018年5月に帰らぬ人となった登山家の栗城史多さんを、日本出発前にメディアで唯一、インタビューしていた映画監督・映像ディレクターの藤岡利充さんに、2018年の「Yahoo!ニュース 個人」のオーサー映像アワードが贈られました。「Yahoo!ニュース 個人」ではこの他、インド仏教最高位の日本人僧侶、佐々井秀嶺(ささいしゅうれい)さんへのインタビュー動画も公開。動画はいずれも大きな反響を呼びました。藤岡さんは、なぜ挑戦し続けている人を撮るのか。発信への思いを聞きました。

批判を乗り越えて登頂する栗城さんを撮りたかった

藤岡さんは今年3月、8回目のエベレスト挑戦を控えた栗城さんにインタビューを実施し、日本を飛び立つ4月17日に長さ11分ほどの動画を公開。そのおよそ1カ月後の5月21日、エベレストで下山途中の栗城さんが遺体で発見されたとのニュースが飛び込んできました。

――栗城さんの訃報はどのように受け取ったのでしょうか。

「Yahoo!ニュース 個人」の編集者から連絡をもらって知りました。2015年のエベレスト挑戦で栗城さんに同行した同僚と、栗城さんの事務所に確認したところ「そうだ」と教えてもらいました。

――訃報の次の日にはインタビューを再編集した動画を公開。何を伝えたいと思っていたのでしょうか。

栗城さんの訃報からすぐに配信された記事

4月に公開したインタビュー動画では、テロップなども丁寧につけたり、編集で「間」を短くしたりしていましたが、もっと、生の映像、栗城さんの生の声を伝えたいと思いました。「間」を編集せず、そのままにすると見づらくなりますが、「間」も含めて表情を見せた方が、ユーザーは栗城さんについて、より考えられると考えました。

――栗城さんを取材するきっかけは?

2014年にイベントでお会いし、私の2作目の映画「立候補」のファンですと声をかけていただいたのがきっかけです。その後、「立候補」みたいな映画を撮ることはできないかと栗城さんから提案があり、2015年に話を詰めていました。

栗城さんの挑戦方法について批判的な見方もあると、知り合ってから知ったのですが、映画にするのであれば、そういった批判的な部分も取り上げ、それを乗り越えてエベレスト登頂に挑戦する栗城さんを撮りたいですね、と企画を出しました。ただ2015年の挑戦では、ベースキャンプまでの同行も誘われていましたが、実現しませんでした。

――それはなぜでしょうか。

当時、映画を撮る際の条件として、「まず成功してほしい。中継も無理だったら諦めてほしい。本当に中継がしたいのであれば、撮影スタッフも連れて行った方がいい。登山を優先するのではあれば、もっと良い時期、酸素も使った方がよいのでは」と提案しました。

映画では批判的な言葉も取り上げる、いっぱい拾う。でもエベレスト登頂を成功すれば、その批判的な言葉は全部、その人たちに返っていくから、どんな形、どんな条件を取っ払っても成功してほしい、という話をしました。でも、栗城さんは「単独無酸素と共有、両方あって僕の登山。どちらかだけというのもない」と答えました。

映画づくりはストップしましたが、3年たった今年、改めて取材をして動画を公開できたことで、自分の中ではひとつ区切りがつけられるかなと、思いました。事前に多少、批判的なものも聞きますよ、とお伝えしていましたが、栗城さんは寒い豊洲のキャンプ場で、たき火の煙で涙を流しながらも3時間インタビューに応じてくれました。

たき火を囲んで栗城さんの思いをじっくり取材(藤岡さん提供)

――亡くなって半年近くたった11月に追悼ギャラリーを取材し、記事を公開

時間がたって、栗城さんを皆がどう見たのか知りたかった。実際に追悼ギャラリーの来場者に話を聞くと、どうみたらいいのか悩んでいる人が多かったような印象を受けました。インターネット上の批判は石に刻んだようなもので、残り続ける。一方、ギャラリーに足を運んでいた人は「心に残ったよね」という話をしていました。

批判も含めて、ここまで感情を揺さぶったというのはすごいと思いました。挑戦の方法について賛否ありますが、結論はないと思います。動画でも、結論を出すような描き方はせず、栗城さんについてもっと考えてみたいとなるよう意識しました。

今の空気は不自由 「もっと自由に生きていい」と教えてくれる人を撮りたい

――今年は栗城さんだけでなく、インド仏教最高位の日本人僧侶、佐々井秀嶺さんのインタビュー動画も公開しています。何がきっかけで取材をしたのでしょうか。

佐々井さんの講演が近県で行われるとフェイスブックで知り、行くなら取材できればと思ったのがきっかけです。それまでは失礼ながら全く知らない方でした。

――佐々井さんのどのようなところに興味を持ったのでしょうか。

単純に「かっこいいおじいちゃんだな」と。仏教発祥の地のインドで、お坊さんとして活躍している方なんて知らなかったので面白いと思いました。佐々井さんは32歳でインドに渡っています。私は中田英寿世代なので「自分探し」にロマンを感じてしまいます。やっぱり挑戦している人は好きですね。

――今、撮りたいテーマはありますか

栗城さんの記事では「空気」という言葉を使いました。日本の今の空気は不自由じゃないかなと個人的に感じています。きょう、赤坂見附駅周辺の地下道を歩いたのですが、そこには歌っている人も、路上生活者もいませんでした。海外だったら誰か自由にその空間を使っている人がいるんじゃないか。皆がルールを守っているのですが、その「空気」が不自由も生み出しているのではと感じます。

栗城さんや佐々井さんは「もっと自由に生きていい」という可能性を教えてくれた人たちでした。そういった方々を今後も紹介したい。撮りたい人、面白い人は大勢います。その中でも、誰も取り上げていない人を取り上げたいとも思っています。

映像は人に影響を与えることができる

――「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーに参加して変わったことはありますか。

表現する場所があることで、取材交渉は簡単になりました。うまく使わせていただいています。ただ、クセのある方を取材するのは変わらず大変ですけどね。

――表現の場としてこのプラットフォームはいかがでしょう。

現状では、テキストを読む場所と見られており、映像の分野はこれからだと感じています。文字は文字で素晴らしいし、時間のとられる映像と違って、テキストは一瞬で内容を把握できます。

ただ、私は、やっぱり専門である映像で表現していきたいと思います。映像は、例えば映画は2時間我慢すれば終わる、本を読むことと違い、ほっといていても進む楽なメディアですが、でもその中で、考え方を変えたり、人生が変わったり、影響を与えやすいメディアだと思っています。

お問い合わせ先

このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。