笹島康仁

高校生19人に1人は「通信制」 少子化時代に生徒増のわけは?

2/16(金) 10:06 配信

少年はリュックからiPad Proを取り出し、自分の「通う」高校を見せてくれた。画面には「国語表現」の授業メニューが並び、それぞれに「完了」マークが付いている。動画を見て、テストに答え、仕上げにレポートを提出する。「ネットの高校」をうたう通信制の「N高校」の授業だ。授業やホームルームはインターネット上でほぼ完結でき、空いた時間は好きなことに使う。そんな「自由」にひかれ、幼なじみ2人とここを進学先に選んだという。彼だけではない。N高校だけでもない。少子化が進む中、通信制高校は増加傾向にあり、実に19人に1人が「通信制」を選ぶ時代になっている。(笹島康仁/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「急に自由になりすぎて」

N高校2年生の小島力さん(17)が待ち合わせ場所のカフェにやってきた。今年1月末、神奈川県川崎市。外の寒さのせいか、頬が少し赤い。

通信制高校について語る小島力さん(撮影:笹島康仁)

「なんとか今年度の課題が終わりました。ギッリギリ。全然やってなくて、たまってて……。中学の時は毎日学校に行ってたのに、急にフリーになったじゃないですか。最初は少しずつ(課題を)進めてたけど、途中から自由すぎて」

勉強は嫌い。小学校4年ぐらいから寝てばかりだったという。画面の「完了」マークもほとんどは、年が明けてからのものだ。

「普通の学校って、整ってますよね」

N高校は2016年春、学校法人「角川ドワンゴ学園」が開校させた。学校法人の母体は、「カドカワ」である。当初はVR(仮想現実)機器を使った入学式やオンラインゲームでの遠足などが話題になったが、小島さんは至って冷静だった。

MR(複合現実)機器を使ったN高校の入学式=2017年4月(写真:アフロ)

「今はいろんな『通信』がある。N高は注目されていろいろ言われるけど、どこも一緒ですよ。つまらない授業だってある。でも、まあ、面白い割合は高いかな」

N高校では必修科目に加え、プログラマーやクリエイター志望者向けの授業、受験対策など、自分に合ったものを選択できる。授業の時間は自由に設定できるから、1日を自由に使える。小島さんも大好きなゲームや中華料理屋でのアルバイトに時間を使うことができ、ピアノも習い始めた。生まれたばかりの弟の世話もするという。

不満もある。

「友達との出会いは少ない。部活もやりたかったな。やるなら、自転車かバンド。普通の高校って、やっぱり整ってますよね。けど、まあ(N高校に)入ったからいいかな、って。自分で決めれば勉強も友達もできるし」

生物の確認テスト。スマートフォンからも授業やテストにアクセスできる(撮影:笹島康仁)

開校2年、生徒数4790人

教員約40人のN高校(定員1万人)にはこの1月末現在、4790人の生徒が在籍している。このうち約千人は17年度の途中で入学した生徒だ。週1~5日はキャンパスや提携校に通う「通学コース」の生徒は4分の1。いまは東京と大阪にあるキャンパス(定員計520人)に加え、この春からは福岡や名古屋など6カ所(定員計1400人)にキャンパスを新設するという。

「本校」は沖縄県伊計島にある。昨年9月に開かれた説明会には、約50人の親子が足を運んだ。奥平博一校長はその席で「子どもの悪いとこに目が行ってませんか?」と語り掛けた。「英語はいいけど、数学は……とか。でも、得意を伸ばせばいい。英語を伸ばせばいいんです。これからの社会では、平均点だけの人間では役に立たないんです」と。

N高校の本校は沖縄県の伊計島にある。閉校した公立校の校舎を使っている(撮影:笹島康仁)

奥平さんは30年以上、教育の仕事に携わっている。別の通信制高校でも校長を務めた。それでも、「N高校の初代校長」はずいぶん思い切った決断に思える。後日、その真意を問うと、こう話してくれた。

「通信制ってどんなイメージですか? 問題を抱えてる子がいる学校? もちろん大変な子もいるけど、ものすごく頑張る子もいるんです。けれど、社会的な立場が低く、ちゃんと認められない。それは子どもの責任ですか? 違いますよ。我々の努力、学校の努力不足です。ゼロからつくるしかないと思いました」

説明会で語る奥平博一校長(撮影:笹島康仁)

「高校、行かなくていいよ」

説明会に来ていた沖縄市の砂川瑠威さん(17)は、中学にほとんど行っていない。高校進学を前に、母の紋乃さん(35)は「行きたくないなら、高校には行かなくてもいい」と告げたという。

「(娘は)絵や小説が好きだから、まず、良いところを伸ばしてほしいと思ったんです。心がつぶれる前に。でも、やっぱり高校は行ってほしかった。最近、そんな瑠威にN高のことを教えたら、初めて『行きたい』と言ったんですよ」

砂川紋乃さん(右)、瑠威さん親子。友だち同士のように仲がいい(撮影:笹島康仁)

紋乃さんが続ける。

「私は、めちゃめちゃ世間体の母親だったんですね。学校は行くもんだ、って。学校まで瑠威を引きずったこともありました。でも、戻ってきちゃう。そのうち、全然しゃべらなくなっちゃった。あれが一番効いたな……。それで、コミュニケーションを取ろうと思ったら、気付いたんです。ああ、私はこの子の気持ちを無視してたって。学校に行かせるより、この子を守ることが大事。だから、無理に行かせない代わりに、行きたい方向が見つかるよう、働きかけ続けることにしたんです」

砂川さん親子はこの説明会後、すぐに入学を決めたという。

イラストを描きためている瑠威さんのノート(撮影:笹島康仁)

「通信制」の割合、30年で倍に

文部科学省の学校基本調査によると、通信制高校の生徒は、2017年度に18万2515人を数え、高校生全体(約346万人)の5.3%を占めた。19人に1人が通信制を選んでいる計算だ。1990年度は高校生全体(約579万人)のうち2.7%(15万3983人)だったから、およそ3万人増えたことになる。

近年は私立の通信制の新設が目立ち、全体の学校数は増え続けている。1998年度に初めて100校に達すると、その後も三つ以上の都道府県から生徒が入学できる「広域通信制」の高校を中心に急増。03年度からは学校法人だけでなく、株式会社も学校を設置できるようになり、17年度には全国で250校を数えた。

N高校の通学コースで学ぶ生徒たち(撮影:笹島康仁)

こうした中、通信制課程のある私立高校をめぐっては、問題が後を絶たない。

2015年には、三重県のウィッツ青山学園高校による就学支援金の詐取事件が起こり、茨城県に本校を置く鹿島学園高校では、5年連続で定員(4千人)以上の生徒を在籍させている問題も明るみに出た。ほかにも、高校とは思えない簡単なレベルの授業を行ったり、不正な編入学を行ったりする学校もあった。文科省も対応を迫られ、「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」を16年に策定した。

それでも通信制の人気は衰えていない。なぜだろう。瑠威さんはこう話す。

「(通信制が増えているのは)好きなことをやりながら、好きな時間に勉強できるからじゃないですか? やる気が出た時にやるから、授業も面白い。(全日制の)学校に行くと、放課後しか自由な時間がない。私は普通の学校に行ったら、中退してたと思います」

「N高校でイラストの授業も受けたい」と話す瑠威さん(撮影:笹島康仁)

通信制へ それぞれの事情

N高校の沖縄本校で行われたスクーリング(学習指導要領に定められた面接授業)や東京キャンパス(渋谷区)で生徒たちに話を聞くと、通信制を選んだそれぞれの事情が見えてくる。

愛知県豊橋市の中野貴章さん(18)は、親に薦められた工業高校に1年間通った後、N高校に移った。「前は通学時間が長くて……。朝は5時起きで、夜11時に帰宅。工業系の授業も合わなかった。N高の先生たちは良くも悪くも塾の先生みたい。個性的です」。神戸市の吉村匠生さん(16)には書字障害があり、中学ではテストで苦しんだという。「キーボードなら打てるんです。そういう配慮をしてくれる。学習障害のある人間に優しいです」

スクーリングの体育ではビーチバレーやバナナボートがあった(撮影:笹島康仁)

福島県に住む小松龍哉さん(15)の場合、地元で高校に行くなら「普通科か工業科か」の選択肢しかなかった。「プログラミングを学びたかったんです。将来はゲーム関係の仕事をやりたくて」。だから普通科も工業科も選ばず、科目の選択も時間の使い方も自由な通信制を選んだという。今は地元のホームセンターで毎月約80時間のアルバイトをこなしながら、ネット上で授業を受けている。

東京キャンパスの通学コースに通う1年生の大平ひかりさん(16)はこう話す。

通学コースの特別授業で行われたディスカッション(撮影:笹島康仁)

「普通の学校って、『みんなでやること』を想定するじゃないですか。私の小学校には『ひとりの子をつくらない』っていうスローガンがありました。聞こえはいいけど、すごくしんどかった。1人で遊ぶことが悪いみたいで。『みんなと同じことができない』っていうのが、私のコンプレックスになりましたから」

大平ひかりさん(中央)は友人の延原琴乃さんと一緒に「学習障害の子どもを支援する連絡帳」の開発を企画し、校内の発表会で最優秀賞を受けた(撮影:笹島康仁)

角川ドワンゴ学園理事の川上量生さんは「今の教育からはじき出された人が劣っているのでしょうか? 全然違いますよ」と問いかける。

「ネット上のコミュニケーションが強い人だっている。そういう人が単に『不登校』とされるのはフェアじゃないです。同時に、通信制が(そうした子どもたちの)セーフティーネットだとは思っていません。セーフティーネットではなく、最先端。N高をやって、通信制高校全体のイメージが上がったことは良かったと思っています」

「実にさまざまな子が入ってきます」

通信制高校は「自由」を押し出すばかりではない。「わせがく高校」(本校・千葉県)もその一つで、守谷たつみ校長(59)は「うちはN高校さんとはスタンスが違う。自分で何でもできる子にはいいけど、そうじゃない子には対面での指導が大事です」と言う。予備校を運営する早稲田学園が2003年に開校し、関東一円にキャンパスや通学用の「学習センター」を置き、大阪府や福島県などに提携校を持つ。17年度に生徒数は千人を超え、入学可能範囲も全国に広げた。

「わせがく高校」東京キャンパスの教室。あいさつや整理整頓を促す張り紙もある(撮影:笹島康仁)

同校は自宅学習が中心の「自学型」に加え、通学コースにも力を入れているという。週2日と週5日のコースを持つが、実際の通学は「義務」ではない。守谷校長は「通うのが義務じゃなくなることで、通いやすく感じる生徒が多いようです」と言い、生徒の質も年々変化してきたと語る。

「開校当初はヤンチャ系が中心で、退学せずにどうやって卒業させるかが大きな問題だった。そのうち不登校だった子が増え、今では大学受験に集中したい子、外国人労働者の子、学習障害のある子など、実にさまざまな背景を持った生徒が入ってくるようになりました」

「わせがく高校」の守谷たつみ校長(撮影:笹島康仁)

「不登校」から「皆勤賞」に

埼玉県に住む50代の母親は17年度から娘を同校に通わせている。娘は、友達とうまく接することができなかったことなどが重なって、小学校から不登校が続いていた。それが「わせがく高校に通ってみたい」と言いだし、自ら週5日コースを選んだという。母親は「制服も買ったのよ。『本当に行くの? 使うの?』とか言いながら」と話す。

わせがく高校の制服。義務ではないが、購入する生徒も多いという(撮影:笹島康仁)

母親は続ける。

「小学校では遠足のバスの席決めが大変だったの。先生に『誰々ちゃんの隣にしておきました』と特別扱いしてもらったり。でも、今は『誰とでも平気』って娘は言います。先生もそう言ってくれる。そうだったんだ、実はそうだったんだね、って。気にしてたことって、大したことなかったんだね、って。そういう一つ一つが自信になっていくのよね」

「クラスのみんなが優しいのも大きいのかな。みんな、多かれ少なかれ同じような経験をして、痛みを知ってるから。(接し方の)加減を知ってるっていうか。(娘が)通えたのがうれしい。今のところ皆勤賞。待って良かったと思う」

わせがく高校の校舎内に貼られた掲示物(撮影:笹島康仁)

「将来を考えている子が多いです」

通信制高校の生徒が増える大きな理由には、やはり「不登校」がある。文科省によれば、年間30日以上欠席した児童生徒の中で「不登校」とされる小中学生は16年度に13万4398人を数えた。千人当たりでは小学校で4.8人、中学校で30.1人となり、いずれも過去最高だ。

それでも不登校経験者の8割強は高校に進学する。その有力な受け皿が通信制や定時制であり、中央教育審議会も16年の答申で「学び直しの機会提供」への期待を記している。

そうした生徒たちを支援するNPO法人「D×P」(ディーピー、大阪市)の今井紀明さんは「通信制に通う生徒はこれからも増える」と感じている。

「通信制高校への企業の参入も増えるでしょう」と話す今井紀明さん(撮影:笹島康仁)

「子どもたちは賢いと思うんです。社会の変化に敏感です。『プログラミングをやりたいのに、全日制の学校に通う意味が分かんなくなっちゃった』と言って、通信制に編入した生徒もいました。自分で仮想通貨を運用する子ども、ファッションで稼ごうとしている子どももいる。起業意識も高い。将来をちゃんと考えている子は多いんです。けれど、一方では通信制には不登校経験者も多く、卒業後の進路未決定率も高い。卒業しても、自立できず、ニートになったり……」

D×Pは、通信制や定時制の生徒と社会人らが体験を語り合うプログラムを提供している。信頼できる大人との関係をどう築くか。それが大切だと考えているからだ。

大阪市にあるD×Pの事務所で(撮影:笹島康仁)

「今の日本では、しんどい子ほど孤立してるんです。いじめを受けたり、親から傷つけられたり、先生と揉めたり。こうして頼れる人がいない子たちが孤立しています。そこから自分の力だけで生きられる確率って何パーセントあるんでしょうか? 生徒の自己責任だとは思えません。さまざまな経験をしている子たちだからこその可能性もあると思っています」


笹島康仁(ささじま・やすひと)
1990年、千葉県生まれ。高知新聞記者を経て、2017年からフリー。

[取材]笹島康仁
[写真]撮影:笹島康仁、提供:アフロ

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