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【モンゴル】「敵なし」外交で目指す平和と発展――無血革命で民主化を実現

2018/02/08(木) 10:22 配信

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モンゴルと聞くと、13世紀にアジアから欧州に至る広大なモンゴル帝国の基盤を築いた「チンギス・ハン」、元横綱朝青龍関、横綱白鵬関らスター力士を思い浮かべるかもしれない。勇壮で豪快なイメージの一方、現代の国情は穏やかそのものだ。約30年前に流血の惨事もなく民主化を遂げ、北朝鮮問題など数々の火種を抱える北東アジアで敵をつくらない独自の外交を展開する。モンゴルとは、どんな国なのだろう。日本との関わりも交え、駐日臨時代理大使のダンバダルジャー・バッチジャルガル氏に聞いた。(時事通信社/Yahoo!ニュース 特集編集部)

1分半で分かるモンゴル

実は違った! 日本人の知るモンゴル

――日本でのモンゴルのイメージについてどう思いますか?

皆さん「『スーホの白い馬』を知っている」と言ってくれます。しかし、絵本などを見ると、とても違和感があります。元になっているかもしれない話はあるのですが、全然違う話です。

実際には、内モンゴル(中国北部にある自治区で中国領)から来た話ではないでしょうか。物語だけではなく、絵本でスーホなどが着ている服も中国服のようです。内モンゴルとモンゴルは違うということを知ってほしいです。

モンゴルでは幼少期から乗馬を習う(モンゴル大使館提供)

日本で名前だけはよく知られている「ゴビ砂漠」についても、実はモンゴルの人はそう言われるのが好きではありません。ゴビは砂漠ではないからです。砂漠の部分もありますが、川や湖もあり壮大な自然が広がっています。

壮大な自然が広がるフブスグル湖(モンゴル大使館提供)

日本でのモンゴルのイメージは草原、馬、砂漠ですが、欧州からの旅行者はモンゴルの自然を求めて来る人が多い。世界で2番目に透明度が高いフブスグル湖の一帯は「モンゴルのスイス」と言われるほど美しい。モンゴル・日本間は直行便で5時間程度。日本の方にもぜひ来てほしいですね。夏は爽やかで美しく、最高の避暑地だと思います。

日本はロボットの国?

――日本との出合いは?

26歳だった1992年、政府に派遣されて経済を勉強しに来たのが日本との出合いです。

バッチジャルガル氏は、モンゴル銀行勤務時に日本に留学経験がある(撮影:時事通信社)

当時、モンゴル銀行(旧国立銀行)に勤めていました。80年代末頃からモンゴルでは民主化運動が起こり、社会主義国家から資本主義国家へ大きく変革し、資本主義経済を早急に学ぶ必要がありました。

血を流さずに革命を起こしたことは国際社会からも大変評価されましたが、それまでの価値観や制度など何もかもがガラリと変わったため、もう大変でした。

民主化を求めるデモに集まった人々。1990年、ウランバートル(モンゴル大使館提供)

――モンゴルでの日本のイメージは?

やはり「ものづくり」のイメージが強いです。まだ(モンゴルが)社会主義国だった72年に日本との外交が始まり、日本を訪れた人たちが帰国の際に持ち帰る物を見て、みんなが憧れました。特にラジカセが憧れの的でしたね。

当時「日本にはロボットがいて人間が必要なくなってしまったらしいよ」なんて話されていた。(日本に留学し)実際に来てみて、そんなことはないと分かったのですが。

モンゴル相撲「ブフ」を取る子どもたち(EPA=時事)

「敵をつくらない」外交の知恵

――中国、ロシアに挟まれたモンゴルの外交方針は?

モンゴルは外交において「第3の隣国政策」を取っています。国境を接する中国、ロシアだけが隣国ではない、という考え方で、この2カ国とバランスの取れた関係を保ちながら、あるいは保つためにも、別の国々との外交関係を発展させていこうという方針です。「第3の隣国」には日本や米国のほか、欧州連合(EU)、さらには国連といった国際機関も入っています。

「モンゴルは北東アジア各国の仲介役としての役目がある」と語るバッチジャルガル氏(撮影:時事通信社)

現在、モンゴルはどの国とも良好な関係を保っています。一方、北東アジアは政治的に非常に難しい地域で、国同士で解決すべき課題がたまっている。モンゴルには全ての国と仲が良い唯一の国として、地域の安全保障において果たさなければならない役割があります。

そうした考えの下で取り組んでいるのが「ウランバートル対話」です。日本と中国、日本と北朝鮮、中国と韓国など、域内国同士のいさかいに関して、仲介や会談場所の提供など、できることをしていきたいと考えています。

大使館に飾られていたモンゴルの民族楽器(撮影:時事通信社)

2030年までに1人当たりGDP4倍超に

――今のモンゴルの政策課題は?

安定的な経済発展です。モンゴルは(石炭、銅、金など)地下資源が豊富ですが、生産性が低い。地下資源をどう生かし、付加価値を生み出していくか。

経済成長のピークだった2011~12年は成長率17.6%に達したのですが、今では3.5%にまで下がっています。経済成長を安定させ、格差などの社会問題を解決していくことが課題です。目標は、現在1人当たり4000米ドル(約45万円)の名目GDP(国内総生産)を30年までに1万7500ドル(約194万円)にすることです。

ウランバートル市内。2017年(モンゴル大使館提供)

発展に向けた重点分野は、鉱山開発、農牧、観光の三つ。いずれにも一層のインフラ整備が必要で、特に鉄道や高速道路の建設を進めたいと考えています。日本の非常に優れた技術をモンゴルに投入してほしい。喜ばしいことに、日本とは16年6月に経済連携協定(EPA)が発効しました。まだ十分に活用し切れていない部分もありますが、その成果に確信と期待を持っています。

難しい日本人の「本音と建前」

――日本での仕事で苦労したことは?

日本人の言葉の使い方が難しい。いわゆる「本音と建前」を理解するのに苦労しました。「前向きに検討する」と言われ、直訳して「ああ、うまくいくな」と思ったら実際は違っていました。そんなことがよくある。相手が本当は何を考えているのか、口だけでなく目もよくチェックする必要があります。「日本人との対話は簡単ではないな」と思いました。モンゴル人はもっとストレートです。

「本音と建前」に苦労した、と言う(撮影:時事通信社)

忘れられないそばの味

――日本食にはすぐになじめましたか?

最初からとても好きでした。私にとって初めての日本食は、東京行きの飛行機で食べた機内食です。出されたのは、ざるそば。食べ方が分からなかったが、一緒にあった液体を付けて食べてみたら、それはもう、おいしいものだなあと思いました。

今でもたびたび口の中にあのざるそばの味がよみがえってきて、「食べたい!」と思う。わさびがまたおいしくて、思わず客室乗務員に言って、もう一つ頂いて大事に持ち帰りました。日本食には全部これを付けて食べようと思って(笑)。

ダンバダルジャー・バッチジャルガル氏 略歴:

1966年、ウランバートル生まれ。モンゴル国立大卒業後、モンゴル銀行(旧国立銀行)に入行。日本留学中、第一勧業銀行(現みずほ銀行)や日本銀行で研修・勤務し、日本の経済人との交友関係を築いた。帰国後、モンゴルの新銀行システムづくりに参画。その後も早稲田大大学院への留学、在日大使館の経済参事官就任などで来日。日本とは25年来の付き合いになる。

モンゴルとは:

アジア大陸北東部に位置し、国境をロシアと中国に囲まれた内陸国。モンゴル帝国崩壊後、数世紀にわたる中国の支配を経て独立し、旧ソ連の指導で1924年に社会主義国家として人民共和国に。冷戦終結を受けて民主化運動が急拡大すると独裁政党が政権を放棄し、92年の新憲法で「社会主義」を削除して体制転換した。都市住民が増えて伝統的な遊牧生活の現代化が進む中でも乗馬は「たしなみ」とされ、自然や馬に親しむ文化は根強い。

モンゴルの料理:

モンゴルの料理(撮影:時事通信社)

羊や牛などの肉が食事の中心になっている。お正月の定番「ボーズ」(写真手前左)は、ひき肉を小麦粉の皮で丸く包んで蒸したもの。同じ食材を平らに包んで揚げた「ホーシュール」(手前右)は、夏の伝統的な武術大会「ナーダム祭」に欠かせない。いずれも一口かめば、肉汁がじゅわっとあふれる。写真中央の汁物が肉入りうどんの「ゴリルタイ・シュル」、左上が揚げ菓子「ボーブ」、右上が塩を入れて飲むのが特徴のモンゴルのミルクティー「スーテーツァイ」。

モンゴル料理は味付けに調味料をほとんど使わず、シンプルに塩のみで調理するのが特徴。自然そのものの味を楽しむためで、モンゴルでは伝統的な遊牧方式で育てる家畜は質の良い草を選んで食べ、肉もおいしくなると考えられている。

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[取材]
時事通信社
記者:江藤綾香
カメラマン:加藤駿