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【オランダ】 のびのび子育て、独創性重視 ――共働き増えて葛藤も

2017/12/21(木) 10:15 配信

オリジナル

チューリップ、風車、ミッフィー――。「オランダ」と聞いてイメージするものはたくさんある。江戸時代の日本に西洋の情報や物資をもたらし続け、長い交流の歴史を持つ国だが、今のオランダはどんな国なのだろうか。同国の駐日大使、アルト・ヤコビ氏は、女性のキャリア形成や子育てなど、日本と共通する課題に向き合っていると話す。(時事通信社/Yahoo!ニュース 特集編集部)

1分半で分かるオランダ

仕事は効率重視

――オランダの特色は。

少し変わった答えになりますが、オランダ人は仕事と休みのバランスを、いわば文化の一部としていて、とても重視します。上司と部下、先輩と後輩といった関係も、そんなにきつくありません。そういう中で、要領良く仕事を片付けることを、お互いに認め合っています。日本より労働時間は少ないですが、とにかく効率を良くしようと頑張るわけです。これが暮らしのスタイルであり、文化になっています。

アムステルダムのダム広場で開かれた「チューリップの日」のイベントで、同国の画家フェルメールの絵画「牛乳を注ぐ女」の仮装をして花をつむ女性(EPA=時事)

――日本では共働き世帯が増えていますが、保育所の不足など様々な問題が指摘されています。オランダではどうですか。

共働きはオランダでも大変です。事業所内に保育施設を設ける企業が増えていますし、週4日勤務や在宅勤務など、働き方にはいろいろあります。夫婦そろってフルタイムで働く完全な共稼ぎではなくても、何らかの形で夫婦どちらも働く家庭が目立っています。つまり、どちらかがパートタイムで、1.5人分の稼ぎ手が一つの家庭にいるのです。父が外で働き、母は専業主婦というのはもはや20~30年前のモデルという感覚です。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されているキンデルダイクの風車群(EPA=時事)

しかし、女性には、家事など担うべき役割がいまだに多く、男性と同様のキャリアを築くことは難しいです。共働きなら子守を雇ってはどうかということになりますが、現実は厳しい。金銭的負担が非常に大きいからです。そこで、半日勤務を選択して育児を行う。それでも子育て中の給与の4~5割は(保育所など)育児に消えてしまうのではないでしょうか。これはまだオランダでも、解決できていない難問です。

子どもは「ぼうっとする時間必要」

―2007年、13年の国連児童基金(ユニセフ)の調査によると、オランダの子どもたちは世界で一番幸せだそうですが。

理由は非常にシンプルです。オランダでは子どもが子どもらしく振る舞うことに非常に寛容です。私は、日本の子どもたちが背負っているプレッシャーの大きさに非常に驚きます。学校が終わると塾に行きますが、われわれからすれば、学校に行っているのだから塾に行く必要があるのだろうかと思います。それ以外にもピアノなど数多くの習い事をこなさなくてはならない。子どもにも友だちと遊び、ぼうっとする時間が必要です。

スケートを楽しむオランダの子どもたち(EPA=時事)

その点、オランダの子どもたちはゆったりし、楽しむ時間が多いです。プールやテニスコートなど、どこへ遊びに行くにも自転車でぱっと行ける環境にも恵まれています。

「自分で考える」教育

――オランダという国を一言で表現するとすれば。

独創性です。オランダ人は、日常の問題を解決しようとするとき、それまで誰も考えつかなかったことを発想する力を持っていると思います。全く新しいこと、型破りなことを、アイデアの箱の中から見つけ出してしまう。そういうことが、オランダ人は得意なのです。これは工業でも芸術でもそうです。

例えばオランダは低地ばかりですから、水をどう管理するかというのは日常の問題です。米国南部を今年(2017年)ハリケーンが襲いましたが、米国を暴風雨が襲うのは初めてではないでしょう。実は、米国はオランダからずいぶんと水害対策について学んできたはずです。予算の問題もあるのでしょうが、水害を見ていてどうしてこうなってしまうのか、と考えてしまいます。

動物保護施設で猫に本を読み聞かせるオランダの子ども。この施設のユニークな試みで、子どもは読む力を伸ばすことができ、猫は朗読の声に喜ぶという。(EPA=時事)

オランダ人の独創性の背景には子どものころからの教育があります。オランダの子どもは、とにかく自分で考えることがまず推奨されます。教室で何かの活動に参加する際、自分で自分の選択肢を考えるのです。ただ黙って聴いているのはいけません。自分の考えを思いつかないといけません。そして自分で解決策を見つけるのです。

自分で徹底的に考えてから、ようやくいわゆる正解を先生から教わるのです。先生も、子どもたちに何をすべきか頭ごなしに教えているだけではいけません。こうした教育が、独創性を育み、責任感を形成していくのだと私は思っています。

――オランダの大学にはさまざまな国から留学生が訪れます。教育環境が充実している理由は。

オランダの大学には、学費の面で競争力があります。私が聞いた限りですが、基本的に欧州連合(EU)加盟国の学生がオランダの大学で学べば、学費が英国の1割で済む場合もあります。これがオランダ留学の人気が高い秘密で、しかも英語の授業もたくさん用意されていますから、英国からもたくさんの留学生を迎えているほどです。

インタビューに応じるオランダのアルト・ヤコビ駐日大使。過去に2度、駐日大使館の勤務経験がある(撮影:時事通信社)

世界2位の食料宝庫

――国際援助団体オックスファムの調査によると、オランダでは世界で一番健康な食事を提供しているそうですが。

われわれは米国に次ぐ農産物輸出国です。農場が消費地から非常に近いので供給ラインが短く、その日のうちに届くので新鮮です。日本では収入の2割が食料品に充てられると聞きますが、オランダは6%です。私は日本のスーパーで売られる食料品の値段の高さにショックを受けました。(日本で)じゃがいも一つが50円だとすれば、オランダでは100円で1キロ分は買える。またフランス、スペイン、トルコ、インドネシアなど、さまざまな国からの輸入品もあるので種類も豊富です。

チューリップの花で埋め尽くされたアムステルダムのダム広場(EPA=時事)

英国のEU離脱は「痛手」

――英国のEU離脱をどう見ますか。

非常に残念。オランダにとっても痛手です。英国は、現在のような裕福な国としての立ち位置を維持することは難しくなるでしょう。英国はオランダにとって大きな貿易相手国であり、一度EUを離脱すればより取引が複雑になると思います。オランダは英国という重要なパートナーを失えば、立場が弱くなるでしょう。ただ、結末は分かりません。オランダの企業は英国の行方を気掛かりにしつつも、状況を静観しています。こうなった場合はこう対処する、など状況に応じたシナリオを幾つも立てています。

オランダ大使館前に掲げられている看板(撮影:時事通信社)

――ハーグには国際司法裁判所などの国際機関が数多く置かれています。

われわれはハーグを「世界の司法都市」と呼んでいます。国際司法裁判所、国際仲裁裁判所など、司法に関連する国際機関が設置され、オランダ人は非常に誇りに思っています。ハーグでは日本人も含めた法曹界の人材が、裁判官などとして勤務しています。

日本ブーム再来

――オランダと日本の歴史は長いですが、オランダ人にとって日本の印象は。

日本は豊かな生活を享受できる、裕福な工業国です。とても整然として秩序立った国だというのもあります。ただ、そうした中で私が感じるのは、一般的なオランダ人の日本に対するイメージには、少しミステリアスなところがあるのです。オランダから見れば東の果てにある遠い国で、そう簡単には行けません。しかしその分、好奇心をそそられます。

日本のアニメは、スタジオジブリの「となりのトトロ」をはじめとする、宮崎駿監督の作品がとても有名です。他にもシーボルトが暮らした町、オランダ西部のライデンの国立民族学博物館では今年(2017年)「クールジャパン」の催しが開かれました。スーパーにも「寿司バー」が設置されるなど、オランダでは(1980年代に日本のアニメなどが流行して以来の)日本文化の第2次ブームが到来しています。

大使公邸の前に立つヤコビ駐日大使(撮影:時事通信社)

出島への架け橋プロジェクト

――日本との関係で強化していきたい分野は。

この2年間、オランダ大使館は、オランダと歴史的な関係の深い九州との結び付きをさらに促進するための文化協力プログラム「オランダ&九州」を実施しています。1996年からは、長崎市が復元を計画している長崎の出島につながる橋(出島表門橋)を架けるプロジェクトを後押しし、11月に完了する予定です(インタビュー後の11月24日完成)。文化交流は非常に順調ですが、経済交流は日本の企業進出や投資が増える余地がまだあると思います。

オランダとは:

西欧の立憲君主制国家。東はドイツ、南はベルギーと国境を接し、英国とは北海を挟み対岸に位置する。ライン、マースの両河川が北海に流れる河口地帯で、国土の4分の1は干拓によって生まれた海面よりも低い土地で「ポルダー」と呼ばれる。欧州連合(EU)加盟国。日本とは1600年から交流があり、2009年に日蘭通商400周年を迎えた。人口約1700万人。

アルト・ヤコビ氏 略歴:

1955年、南西部アルケル生まれ。オランダのライデン大学で日本語学を学び、京都大大学院修士課程修了。84年からオランダ外務省で勤務し、2度の在日大使館勤務などを経て、駐南米スリナム大使、駐中国大使を歴任。2015年に駐日大使に就任した。趣味は読書、旅行、サッカー観戦、水泳。

オランダの料理:

オランダ人オーナーが運営する東京・国分寺のビアバー「ライトハウス」で提供しているオランダ料理とビール(撮影:時事通信社)

「ビターバレン」(手前左の丸いコロッケのようなもの)はオランダのミートボール。牛肉(角切り)に塩こしょう、ナツメグなど約20種類のハーブ・香辛料を混ぜて鍋で約3時間煮たものをほぐし、加熱したバター、小麦粉、炒めておいた玉ねぎと別の鍋で混ぜ合わせ、たねを作る。
ニシンの塩漬け(写真中央)もオランダを代表する魚料理。みじん切りにした玉ねぎなどを付け合わせ、パンに挟んでサンドイッチにすることも多い。

[取材]
時事通信社
記者:渡辺公美子
カメラマン:鴻田寛之、牧野達夫