益田美樹

公教育を離れて過ごした日々 「オルタナティブスクール」とは

11/7(火) 9:47 配信

「もう一つの学校」という意味の「オルタナティブスクール」をご存じだろうか。公教育としては認められていないものの、子どもの個性や自主性、自律性を生かした独自の教育を行う場である。「カリキュラムなし、教科学習なし」も珍しくない。そうしたスクールに通う子どもたちが日本でも増えているという。「サドベリースクール」もその一つで、子どもは好きなことをして過ごし、自分が望まない限り教科学習もない。公教育の常識から大きく離れた学びの場とは、どんな場所なのか。(益田美樹/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「八ヶ岳」の説明会で

山梨県北杜市の「八ヶ岳サドベリースクール」は、南アルプスのふもとにあり、天気が良いと富士山も見える。校舎は木造地下1階、地上2階。かつてアンティーク家具などを展示販売するカフェだったといい、とても「学校」とは思えない。

「八ヶ岳サドベリースクール」の遠景(撮影:益田美樹)

9月初旬、そこで学校説明会があった。参加者は主に関東からの4組。幼児を連れた夫妻のほか、「就学を控えたわが子の個性を考えて」という家族もいた。ウッドデッキから遊ぶ子どもたちの声が聞こえている。

このスクールは一般社団法人が運営する。説明役はスタッフの鈴木一真さん(25)だ。

「毎日、国語や算数をやるわけではありません。(子どもたちが)自由に好きなことをやる中に、ふんだんに『学び』が紛れています。文字を書く必要が出てきたら文字を書きますし、計算の必要が出てきたら計算をします。全て自分に必要だからやる。そこがはっきりしているので、やらされなくても自分で(教科学習を)するようになります」

説明会で語るスタッフの鈴木一真さん=上。 資料を手に取る保護者=下(撮影:いずれも益田美樹)

「子どもが学校の運営に参加します」

「サドベリースクール」の原型は米国・ボストンにある。サドベリーバレーという場所で1968年にできたスクールが発祥で、その後、世界各地で創設された。「公教育の学校が合わない、良くない」といった理由ではなく、新しい理念で教育を実践する場として作られたという。

カリキュラムなし、テストなし、年齢ミックス、学校運営への参加……。サドベリースクールには、いくつもの特徴がある。子どもが主体的に学校運営に関わるため、「デモクラティックスクール(民主的な学校)」とも呼ばれる。日本では「デモクラティックスクールネットワーク」があり、正会員は現在、東京や神奈川、愛知、沖縄などの各都県に9校。未加盟や準備中を含めると、約20校になるという。

2012年開校の「八ヶ岳」は4〜19歳を対象とし、今は8〜15歳の10人が在籍する。遠方などを理由に毎日は通わない「チケット会員」も5人。一方、スタッフは鈴木さんだけだ。

子どもを交えたミーティングは毎日ある(撮影:益田美樹)

鈴木さんは言う。

「これはサドベリーが他のフリースクールと一線を画しているところですが、学校運営に子どもが深く関わります。年間予算をどうするかの話し合い、掃除などのルールづくり、スタッフの選任も、です。僕もスタッフに立候補し、生徒の選挙で選ばれました。1年契約ですから、次の3月にまた選挙です。スタッフも覚悟が必要です」

好きなことを実行するために費用が必要になれば、子どもたちはミーティングにはかり、認められた範囲で「生徒活動費」を使う。その金額は年間80万円。旅行やイベントだけでなく、英語講師を招いての授業など教科学習にも充ててきた。

入り口の看板(撮影:益田美樹)

感心した表情で耳を傾けていた保護者たちが、戸惑った場面もあった。こんな説明を聞いた時だ。

「ボストンのサドベリーでは入学時、『もしかしたら、お子さんが20歳になった時に字が読めないかもしれません。それでも、子どもを尊重できますか』と尋ねるそうです。(八ヶ岳でも)もし、本人が興味を持たなければ、何の知識もなく巣立つ可能性があります」

保護者「公教育の敵視ではないです」

説明会には、在校生の父親(42)も出席していた。長男(13)がここに通っている。父親によると、「小学校に行きたくない」と言う長男の教育に悩んでいた頃、サドベリーを知り、ここに足を運んだ。すると、あれほど学校を嫌っていた長男が気に入ったという。

説明会で語る在校生の父親。中央の白いシャツの男性(撮影:益田美樹)

「仕事がありましたが、妻に押し切られるように横浜から一家で移住しました。今は私も気に入っています。うちの子は発達障害。通院もしています。公教育の学校で自信をなくすのであれば、こういう場所の存在は大きいと思います」

「長男は(義務教育の年代なので)ここの地元の中学にも籍を置き、定期的にスクールカウンセラーに現状を伝えています。公教育を敵視するのではなく、(子どもが公教育に)戻る可能性を残しておいてあげたらいい。サドベリーに来たらずっとサドベリーで、と思う必要はありません。本人が望めば方向転換する道もあるんです」

「八ヶ岳」での説明会。スライドが次々と上映された(撮影:益田美樹)

「理念重視」で次第に浸透

オルタナティブスクールとは、どんな存在なのだろうか。

日本の「学校」は、学校教育法第1条で幼稚園や小学校、中学校、高校、大学などを指すと明確に定義されている。「もう一つの」「多様な」という意味を持つオルタナティブスクールはこのカテゴリーの外にあるが、インターナショナルスクールや主に不登校の子どもが学ぶフリースクールなども含め、多くの施設が誕生している。

「子ども支援学」を専門とする早稲田大学文化構想学部の喜多明人教授(68)によると、日本のオルタナティブスクールの場合、海外の教育理念に基づくものが多く、ドイツの「シュタイナー教育」、フランスの「フレネ教育」、そして米国の「サドベリー教育」の3系統が主流だ。例えば、日本のシュタイナー教育のスクールには、1000人近い子どもが在籍しているという。

早稲田大学の喜多明人教授(撮影:益田美樹)

「子どもの参加という視点でこの三つを比較すると、サドベリーが頂点に立っています。子どもがスタッフの人事に関する話し合いにも参加する。こういう例は他に見当たりません。いま、親や教師の指示に従い続けた結果、受験には成功したものの、『何も意欲がわかない』という子どもが少なくありません。一方、サドベリーなど子どもの意思を尊重する場で過ごした子どもたちは、意欲や自己肯定感が高いと言われています」

日本の小学校でも、児童総会が重要な意思決定機関になっているところがあり、例えば北海道幕別町の札内北小学校ではオリンピック選手が集中して誕生するなどしていることから、子どもの参加度の高い環境が挑戦力を育むのではないか、と喜多教授は力説する。

「八ヶ岳」のルール。子どもたちとスタッフの話し合いで決めるため、必要に応じて変わっていく(撮影:益田美樹)

文部科学省の2016年度調査によると、病気などのケースを除いて30日以上欠席した不登校の子どもは、小学生で約3万1千人、中学生で約10万3千人。児童生徒の全体数が減るなか、20年前と比べそれぞれ1.6倍、1.4倍に増加した。これに伴い、小中学校に通わない子が通う民間の団体や施設も急増。こうした施設・団体を対象にした文科省の2015年調査によると、回答した約300の約7割は2000年以降に設立されており、オルタナティブスクールに相当する場で過ごす子どもも増加しているとみられる。

子どもたちや保護者の思いは……

サドベリーに通っている人や巣立った人は、「自由」「参加」といった特色をどう感じているのだろうか。

「八ヶ岳」の久保田光さん(14)は2012年の開校に合わせ、東京都から北杜市に家族で移ってきた。小学校に通ったのは低学年の頃だけ。今は北杜市の公立中学校に籍を置くが、そこも月1度ほどしか顔を出していない。

久保田光さん(撮影:益田美樹)

「でも、中学の生徒とも普通に話しますよ。公教育の子の印象? ……礼儀正しいことかな。サドベリーのいいところは、自由で何でもできるところです。ミーティングで意見が通らないと、きついけど」

光さんはこの9月、生徒活動費約25万円を使い、計6人で沖縄に出かけた。期間は3泊4日。その計画を議論したミーティングがきつかったという。なぜ、沖縄へ行くのか。どんな意義があるのか。それを何度も質問され、計画を練り直してはミーティングにはかり、結局、数カ月で3回、提案を修正した。

母あやさん(46)によると、光さんは幼稚園の時、突然、通園を嫌がるようになり、3カ月後に退園した。「もしかしたら学校も普通のところは嫌がるかな、と。それなら私が自分で『その人らしく生きていける学校』を作ろう、と。思い起こせば、それは子どもの頃の私の夢でもあったんですね」

久保田光さんの母、あやさん(撮影:益田美樹)

あやさんは米国に行き、サドベリーバレー校を見学する。その理念を生かした学校を作ろうと、沖縄に続けてこの八ヶ岳と2校の開設に関わった。

「不安がなかったわけではありません。例えば、教科学習的なものがないでしょ? 光もそうなる(教科を学ばず社会に出る)のかな、とか……。一方で、大学を出て大企業に就職すれば幸せという社会ではない、とも思った。AI(人工知能)には真似できないクリエイティブなことができるとか、人に意見を伝えて合意を取るとか。これからの社会は、それらがもっと必要になってくるんじゃないでしょうか?」

オルタナティブスクールについては関連書籍も多い(撮影:益田美樹)

サドベリーの関係者が2015年に作った小冊子「自ら学ぶ自由に生きる~究極の多様性教育」には、保護者10人余りが手記を寄せている。ある保護者によると、サドベリーを選ぶ親子には2通りある。理念に共鳴し、積極的にこの教育を選ぶケース。そして、公教育の学校になじめず不登校を経てたどり着くケースだ。

しかし、いくら理念に賛同したとはいえ、公教育以外へ進む選択は容易ではない。入校しても迷いは生じる。

「八ヶ岳」スタッフの鈴木さんは言う。

「全国的には退学も少なくありません。入学前にその理念に共感しても、実際に自分の子がゲームばかりしていると、それに耐えられなくなる保護者もいます」

生徒の久保田さん=左、スタッフの鈴木さん(撮影:益田美樹)

全国のサドベリー関係者と連絡を取り合う鈴木さんによると、国内校出身者の最年長は現在30歳前後になる。田舎暮らしを選択した人、留学した人、企業で働く人……。進路はさまざまだ。そうした若者の声をいくつか紹介しよう。

OB・OGが語る驚き、惑い、そして可能性

旅やアウトドアの情報発信を手掛ける米澤悠亮さん(21)は、小学5年生から兵庫県西宮市の「西宮サドベリースクール」に通った。小学校は不登校気味だったという。サドベリーを初めて訪れた時の驚きは今も忘れない。

米澤悠亮さん。この7月、タイで巨大魚釣りに挑戦した(写真:本人提供)

「本当にカルチャーショックで。『好きなことをしていいよ』と言われたので、冗談のつもりで『DS(ニンテンドーDS)を持って来ていい?』と聞いたら、いいよ、と。学校なのに、ですよ。理解不能でした。スクールでは、好きな釣りとかに没頭しました」

ただ、中学生の年代になると、迷いを感じ、公教育の高校へ進んだ。

西宮サドベリースクール時代の米澤さん(写真:本人提供)

「好きなことをやり続けた結果、閉塞感も感じて。選択肢が用意されていない、全く白紙の状態から考えるサドベリーでは『この先、自分はどう生きていくか』と悶々とする時期があるんです。高校進学は、それに風穴を開けるためでした。サドベリーは結果を得るための学校じゃない。どれだけ自分と向き合ったかが試されるんですね」

神奈川県在住の桑原直之さん(21)は中学1年の時、東京都世田谷区の「東京サドベリースクール」に入り、16歳まで通った。

「正式オープンの前から在籍していましたが、当初はルールすらなかった。だから、システムを一から作ったし、在籍する生徒によってルールの内容が変わりました。そんなところが面白かったですね」

東京の街角に立つ桑原直之さん(撮影:益田美樹)

そうした環境で育ったためか、桑原さんは「良くも悪くも固定観念がない」と言う。物怖じすることもない。横浜市のホテルで働いているが、周囲からは「わきまえてない」と言われ、逆に「(年の割に)しっかり話をするね」とも言われてきた。この秋、全国のサドベリー出身者による交流会に参加した際は「どの人も自分で物事を決めるという共通点がある」と改めて感じたという。

大阪府に住む21歳の星山海琳(まりん)さんは、小学1年生のほんの一時期しか公教育の学校に通っていない。6〜11歳を「デモクラティックスクール・フリープレイスなわて」(2011年閉校)で過ごし、中学校も高校も行かなかった。

「サドベリーの経験を良し悪しで考えることはありません。でも大好きだった。自信を持ってそう言えます。勉強しないと最低限の知識が身につかないとか、忍耐力が育たないとか言いますが、学校での勉強をしたことがなくても大人になれるし、生きていけます。ただ、『学校での勉強をしたことがない』だけです」

星山海琳さん(写真:本人提供)

17歳の夏になって大学へ行こうと思い立つ。英語のbe動詞も知らず、算数の足し算も引き算もできなかったのに、公教育でそれまでに学ぶはずだった事柄を2カ月で全て学習し、大学などの受験資格が得られる「高等学校卒業程度認定試験」に合格。現役で大阪芸術大学に合格した。大学4年生になった星山さんは今、「これまで一度も勉強を強いられたことがない。だから、勉強を嫌いになったこともありません」と振り返る。

「八ヶ岳」スタッフの鈴木さんも実は、西宮サドベリースクールに中1から18歳まで通っていた。公教育の学校も勉強も好きだったが、「他者から言われたことをやらされているだけ」と感じ、毎日が苦しかったという。

「八ヶ岳」スタッフの鈴木さん。オルタナティブスクールの可能性を信じている(撮影:益田美樹)

「中学校以外の選択肢を知って救われました。高校や大学はいつでも行けるけど、サドベリーは19歳まで。だからここで過ごそう、と。サドベリーは公教育として認められていませんが、今は『法律が追い付いていない』と思うんです。こっちが最先端過ぎて」


益田美樹(ますだ・みき)
ジャーナリスト。元読売新聞記者。
英国カーディフ大学大学院(ジャーナリズム・スタディーズ専攻)で修士号。

[取材] 益田美樹
[写真] 撮影:益田美樹、提供:米澤悠亮さん、星山海琳さん

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