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【パナマ】運河と「幻のコーヒー」の国―― アニメ、盆栽など日本文化じわり

2017/09/25(月) 09:51 配信

オリジナル

太平洋と大西洋に南北を挟まれた中米の国パナマ。その中央に位置する海上貿易の要衝「パナマ運河」で主に知られるが、実は隠れた特色も少なくない。生産量が少ないため「幻のコーヒー」と呼ばれる高級豆「ゲイシャ」を主に日本に輸出する一方、日本のアニメや盆栽が人気を集めるなど、日本との結び付きは意外に深い。パナマについて、駐日大使のリッテル・ディアス氏に聞いた。(時事通信社/Yahoo!ニュース 特集編集部)

動画:1分半で分かるパナマ

運河の通航料、GDPの1割

――パナマの象徴は?

やはりパナマ運河でしょう。パナマ運河の通航料は、GDPの10%を占めており、国の重要な収入源です。日本の利用は米国、中国に次いで3番目に多い。

実は、運河建設には日本人も関わっていました。1904~11年、青山士(あきら)技師が大西洋側の水門の建設に従事し、日本に帰国した後、パナマ運河の建設技術を生かして洪水制御システムを作りました。それは今も旧岩淵水門(北区)をはじめとして東京の至る所に残されています。

パナマ大使館に飾られたパナマ運河の写真(撮影:時事通信社)

超高層ビル立ち並ぶパナマシティー

――パナマはどういう国でしょうか?

一言で説明すると、地理的には中米、歴史的には南米、文化的にはカリブ海、そして米国の現実主義が少し混じっている国と言えるでしょう。

パナマ運河のおかげで経済は安定しており、米国など外国からの投資が活発化したことにより最近10年は平均6~7%の成長を続けています。首都パナマシティーには多くの超高層ビルが建ち並び、同様に高層ビルが多い米国のマイアミとよく比較されます。企業誘致にも力を入れ、税制優遇や移民容認、労働市場改革に取り組んでいます。

パナマシティーには超高層ビルが立ち並ぶ(EPA=時事、撮影:2013年10月)

パナマ人は「パーティーピープル」です。生活を楽しんでいる。最大のパーティーは3~4月に行われるイースター前のカーニバル(謝肉祭)で、4日間にわたりパレードなどで大騒ぎをします。パナマは暑いので参加者に水をかけるのが習わし。参加者は酒を飲んだり、踊ったり、水鉄砲で水をかけ合ったりします。

パナマの祭りで使われるマスクを持つディアス大使(撮影:時事通信社)

毎年6月ごろに開かれるコーパス・クリスティ(聖体祝日)には、マスクをかぶってパレードをします。カーニバルほどではありませんが、大きなお祭りです。

パナマでは一年中、どこかの町で祭りが開かれています。週末には、家やビーチで友人らとバーベキューをしたり、踊ったりします。祭りなどではサルサを踊る。日本でAKB48のメンバーにサルサを教えたこともあります。日本人はもっと人生を楽しむべきだと思うし、逆にパナマ人はもう少し仕事に真面目に取り組むべきだと思います。

パナマ大使館に飾られた絵(撮影:時事通信社)

幸福感は世界一?

――米ギャラップ社の調査(2014年)によると、パナマ国民の幸福感は世界135カ国中トップだそうですが。

そうは思いません。幸福であるとは、医療や住宅など基本的な暮らしに必要な物が整っていることが重要な要素となりますが、パナマはまだ不十分だからです。

インタビューに応じるディアス大使(撮影:時事通信社)

日本の援助には感謝しています。26億円の政府開発援助(ODA)を得たおかげで、全長27キロメートルの日立製作所の都市交通システム(モノレール)を導入できることになりました。パナマシティーは渋滞がひどく、郊外からの通勤は、朝は2時間、夕方は4時間かかることもありますが、モノレールの完成後は数十分に短縮されます。

一方、年金生活者にとって、パナマは良い国だと思います。国民か外国人かを問わず、年金生活者は15~30%の値引きを受けられる。例えば、映画の鑑賞料は15%引きです。

パナマ大使館内に飾られた国旗(撮影:時事通信社)

誤解から生まれた「ゲイシャ」

――ゲイシャコーヒーとは。

元々はエチオピアで作られていた品種で「ゲシャ」と呼ばれていました。パナマは、病気に強いコーヒーを探していてゲシャを導入しました。コーヒーは通常、海抜1000メートル以上の高地で作られますが、ゲシャはより高い1500~1700メートルで栽培されるため、大量生産できません。

地元でも知名度は低かったのですが、あるとき、パナマの品評会で高い評価を得ました。この品評会に日本の輸入業者が来ていて、ゲシャを飲んで感心し、名前を尋ねたところ、これに応じた人は「ゲシャ」と答えましたが、「ゲイシャ」と誤解され、それ以来「ゲイシャコーヒー」となりました。

東京・銀座の専門店「グラン クリュ カフェ ギンザ」(GINZA SIX)で販売している「ゲイシャ」。畑選びからこだわって調達したコーヒー豆を、焙煎後のアロマを逃さないようシャンパンボトルに密閉した。価格は収穫年によって異なり、100グラム当たり2万円(2016年物)~10万円(2012年物)。深みのある複雑な味わいが特徴で、人気品種の一つという。 (撮影:時事通信社)

ゲイシャコーヒーは世界で最も高価なコーヒーの一つです。パナマのコーヒーは風味が豊かですが、ゲイシャコーヒーは特に風味があります。日本は台湾と並ぶ最大の輸出先です。

浸透する日本文化

――パナマでの日本のイメージは?

高品質の自動車や家電製品、国民の行儀の良さや誠実さで知られています。アニメや盆栽、生け花も広がりをみせています。アニメでは「ドラえもん」と「ポケットモンスター」が人気です。いろいろなアニメがテレビで放送されていて、私も子どものころ、「ウルトラマン」や「ガンダム」などを観ていました。盆栽は協会があり、生け花も愛好会があります。

寿司や刺身もポピュラーになっています。パナマ料理には、日本食に近いものがあります。魚介類を酢であえたマリネの一種「セビーチェ」です。パナマ人は以前に比べて魚介類を食べるようになってきました。健康やダイエットに対する意識が高まってきたためでしょう。

「パナマ文書は良いスキャンダル」と語るディアス大使(撮影:時事通信社)

「パナマ文書」は良いスキャンダル

――タックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴いた「パナマ文書」が注目を浴びたが、その後の影響は。

パナマのタックスヘイブンに対する批判は理不尽だと感じます。本来、租税回避はパナマの問題ではなく、他国の利用者の問題です。ただ、パナマ文書は(パナマにとって)良いスキャンダルだったと言えます。税逃れ対策について、もともと海外から強く協力を求められていましたが、国内の意見がなかなかまとまりませんでした。しかし、パナマ文書を機に政府が動き、対策を進めることになりました。

経済への影響はほとんど出ていません。租税回避に関わっているビジネスの国内総生産(GDP)への貢献度はごくわずかです。直接投資も、13年に37億ドルだったのが16年には52億ドルに増え、17年第1四半期は前年同期比10%増となりました。

ディアス大使(撮影:時事通信社)

パナマとは:

太平洋と大西洋を結ぶ全長約80キロのパナマ運河が中央部を通る中米の共和国。コロンビア、コスタリカと国境を接する。人口約400万人。2016年には、世界各国の指導者や著名人によるタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴く「パナマ文書」が暴露され、世界の注目を浴びた。

リッテル・ディアス氏 略歴:

1965年、パナマ生まれ。米ウィスコンシン大で政治学を学んだ後、パナマの銀行やパナソニックの現地法人を経て筑波大学大学院で国際政治経済学の修士号を取得。日本留学中に父親が本人に無断でパナマ駐日大使館の職員に応募し、採用される。趣味は読書、ダンス、カラオケ、マラソンと多彩。高校時代は平泳ぎの国内大会で優勝したこともある。

パナマの料理:

パナマの代表的料理。チキンライス(手前のプレートの左側)、ビーツ入りポテトサラダ(プレート右側)、ママジェナ(写真左奥)。(撮影:時事通信社)

パナマでは主食として米が好まれている。肉類では牛肉が最も人気で、鶏肉もよく食されている。牛肉は国産のものもあり、牛タンは日本にも輸出されている。代表的な料理はチキンライス、ビーツ入りポテトサラダ、デザートのママジェナ。クリスマスのお祝いで食べることが多い。

チキンライスは、米を鶏肉や野菜と一緒に炊いた人気の伝統料理。ポテトサラダはビーツという根菜の色が出て、ピンク色をしている。ママジェナは、パナマ産ラム酒が効いたパンプディング。

[取材]
時事通信社
記者:中馬和雄
カメラマン:今泉茂聡、鴻田寛之


【駐日大使に聞く】
世界には約200の国・地域がある。日本がそうであるように、それぞれに魅力・特色があるが、必ずしもそのことを知る機会は多くない。各国・地域の特色とは? また日本はどのように見られているのか? 日本に駐在する各国大使らへのインタビューを通じてその一端を知る。