鬼頭志帆

「スマホ育児」どう考える―――便利な子守ツールの実態と懸念

2/19(日) 11:42 配信

幼い子どもにスマートフォンを使わせる、「スマホ育児」が議論を呼んでいる。場所を選ばず、多様な機能が使えるスマホが便利な「子守ツール」として広く使われる一方、医師団体が「育ちをゆがめる可能性がある」と警鐘を鳴らす動きもある。「スマホ育児」にどう向き合えばいいのか。教育の専門家や親たちに話を聞いた。(ライター・福島奈美子/Yahoo!ニュース編集部)

「すでにスマホは “ないと困る”もの」

親が使うスマホやタブレットは子どもにとっても身近だ(撮影:鬼頭志帆)

「子ども向けアプリもあるし、動画も見られる。正直、子どもにおとなしく待っていてほしいときにスマホ以上に便利な“ツール”はない」と語るのは、6歳の子どもを持つ、東京都府中市在住の主婦Aさん(38歳)だ。病院などで長い時間待つときに、以前は小さいおもちゃなどを持っていっていたが、飽きてしまうことも多かった。

4歳の男の子を持つ神奈川県逗子市在住のBさん(37歳)も「仕事、家事、育児をうまく回していく中で、スマホやタブレットを使ってしまう場面がある」と話す。仕事はサービス業で、共働き。日中のすき間時間と夜に家事をこなす。3人分の洗濯物の取り込み、夕飯のしたく、子どもの入浴、寝かしつけ……どうしても忙しさがピークになる瞬間が訪れる。

「写真や動画、幼児番組などを見せている間は、おとなしく待っていてくれる。これらのツールがなかったらと思うと、毎日を乗り切れない気がします」(Bさん)

子どもたちは、スマホとどう接しているのか。2015年に公表された総務省情報通信政策研究所の調査によれば、0歳から6歳までの未就学児のスマホ利用では、YouTube などの「動画閲覧」や「写真閲覧」が多くを占めていた。知育アプリの利用率も高く、未就学児の約4割が使用。小学校1〜3年になると「ゲーム」が最多というデータが出ていた。

スマホは優れた「子守ツール」のようにも見える。デジタル機器の使用は子どもの成長にどんな影響があるのだろうか。

「おもちゃとテレビを合わせた刺激がある」

0〜6歳のスマホ利用ではYouTube などの動画や写真の閲覧が多い(撮影:鬼頭志帆)

子育ての現場で働く人は、「スマホ育児」についてどう考えているのか。放課後の小学校で子ども向けワークショップなどを開いている、放課後NPOアフタースクール代表の平岩国泰氏に聞いた。

「親がルールを作って線引きした方がいい」と語る平岩氏(撮影:福島奈美子)

「スマホは小さな手でも持てるサイズですし、キーボードを使うパソコンや携帯電話と違い、子どもでも直感的に操作できる。加えて、文字が読めなくても、今は音声認識機能が向上していますから、タイトルをつぶやくだけで、動画が検索できてしまう。実際、2歳の娘が、知らないうちに私のスマホを勝手に操作し、アニメのテーマソング動画を見ていたことがありました」

今はスマホ、タブレットなどを買い換えた時に、「お古」を子どもにおもちゃ代わりに与える親も多い。「未就学児のスマホ利用が相当増えている」と平岩氏は指摘する。

一方で「スマ放置」(子どもにスマホを渡して遊ばせておくこと)という言葉も登場し、議論を呼んでいる。我が子を文字通り「放置」する状況に陥らないためには、親はどうすればいいのか。平岩氏はこう話す。

「使わせるとしても、主導権は渡さない、ということです。スマホは大人にとっては『道具』ですが、子どもにとっては依存性の高い『おもちゃ』『テレビ』。そのことを、親は改めて理解した方がいい。強い刺激が凝縮された代物だからこそ、親がルールを作って線引きするしかない」

子どもでも直感的に操作できるタッチスクリーン機能がスマホの特徴だ(撮影:鬼頭志帆)

2013年、公益社団法人日本小児科医会は「スマホに子守りをさせないで!」と提言を示したポスターを全国の病院に5万枚配布した。このポスターは「画面を使ってあやすと育ちをゆがめる可能性がある」「親子の会話や体験を共有する時間が奪われる」など、スマホを使った育児に警鐘を鳴らすものだった。

不安を抱えている親も少なくない。

2歳の子を持つ東京都台東区在住の主婦Cさん(32歳)は、「子どもが画面を夢中になって見ている姿を見ていると、他のことに興味を持たなくなってしまう気がするんです。ジャンクフードと同じで、子どもには刺激が強いのではないかと、強い不安がある」という。

カッコ内は親の年齢と性別、子どもの年齢と性別を表記(2016年実施。編集部調べ)

「“だらだら見せ”を避けること」

実際に子どもの成長にとって、どんな影響があるのだろうか。日本橋はま眼科クリニック院長の浜由起子氏は「長時間使用すれば、視力低下のリスクは当然ある」と指摘する。

浜氏は「眼の機能は1〜3歳くらいまでが最も感受性が高く、影響を受けやすい。スマホの長時間使用はできるだけ避けるべき」と話す(撮影:福島奈美子)

「小学生で視力1.0未満の子どもの割合は調査を開始した1979年度は17.91%でした。今は30%を超えている(「平成27年度学校保健統計調査」より)。そして、ここ5〜6年は、小学生だけでなく、未就学児の近視症例も増えてきました。親御さんから話を聞いていると、2〜3歳の子でもスマホやタブレットで日常的に動画などを見ているケースが多い。ゲーム、デジタル機器の使用などを含めた環境の変化が、子どもたちの視力を押し下げている可能性があります」

携帯型ゲーム機やスマホなどの長時間使用が近視につながりやすい最大の理由は、テレビなどと違って、「近くで液晶画面を見て操作するものであること」だと浜氏は説明する。

物を立体的に見る、遠近感などを含めた眼の機能は、低年齢の子どもほど悪影響を受けやすい。長時間スマホやタブレットを見せ続けるのは、子どもの眼の成長にとってはよくないという。

「病院の待ち時間など、仕方ないときだけ短い動画を見せるなど、“だらだら見せ”を避けることが重要です」(浜氏)

「親子が一緒にコミュニケーションできる」という親の声もある(撮影:鬼頭志帆)

「依存症リスクはある」

子どもの脳や心の発達への影響はどうか。精神科医で白百合女子大学教授、こども・思春期メンタルクリニックの木部則雄氏は、スマホだけを与えて放置しているケースは、ごく一部であり、普段から基本的なコミュニケーションができていれば大きな問題はない、と木部氏は語る。

「ただし、親がスマホに夢中で、目の前にいる子どもの表情やしぐさに注意がいかなかったり、目を合わせて話すことが減っている傾向はあるでしょう。こうした子育ての『ながらスマホ』は親子のコミュニケーションの時間を減らし、質も落とします。スマホでゲームなどをするときは親子で一緒に楽しむなど、使い方を工夫した方がいい」

また、他者とのコミュニケーションや生活などに支障が出る「依存症」には、十分注意してほしいと話す。

「大人でいうパチンコ依存症のようなことが、スマホのゲームでも十分起こりうる。ゲームで敵を倒したり、ステージが上がったりしたときに人の脳内ではドーパミンなどの快楽物質が放出され、興奮状態になります。そうした快感を求めて、依存的に遊んでしまう。特に学校に行けなくなったお子さんが、ゲームに過剰にはまってしまうケースはよくあります」

警視庁HPの平成27年「子供の携帯電話やインターネット利用について」より。「携帯電話が手元にないと不安になる」「食事をしながら、携帯電話をいじる」などの10項目の質問に対する答えを点数化し、「低依存群」「やや依存群」「高依存群」に分けた上で世代別の割合を算出している

依存に陥ると、知らず知らずのうちに使用時間が増えていくと木部氏は話す。そうした場合、子どもの知能の発達にどんな影響があるのだろうか。

「画面を見て手を動かすだけのスマホのゲームをやり続ければ、パッと見てパッと反応することが得意になる反面、人に話を聞いて、その言葉の意味をじっくり考えたりすることの発達が阻害される可能性はあります。子どもがバランスよく成長し、知能を伸ばしていくためには、実際に身体感覚を育む運動、想像力を必要とし、聞く力を伸ばす絵本の読み聞かせ、空間の認識を刺激する積み木など、多彩な体験をさせることが大切だということを分かっておいてほしい」(木部氏)

「親を追い詰めてもいけない」

「『スマホ育児』をやめろ、といって親を追い詰めるのは本末転倒」と語る藤川氏(撮影:岡村大輔)

「スマホ育児」の背景には、社会状況や家庭環境の変化がある。千葉大学教育学部教授の藤川大祐氏は、「親がスマホを使わざるをえない状況だという問題もある」と語る。

「家事もしなければいけない、仕事もしなければいけない。ただでさえ余裕のない状況で『こうしなければ』という考えを親に押しつければ、親の方が精神的に“壊れて”しまう。『スマホ育児』をやめろ、といって親を追い詰めるのは、子どもの環境を良くするという意味では、ある意味で本末転倒なのではないでしょうか」

「すき間時間にスマホを使うことは、ある程度許容されていい」(藤川氏)(撮影:鬼頭志帆)

時々スマホを使うことがあっても、普段から親子で楽しくコミュニケーションをしていて、外遊びもさせていれば、それほど問題ではないと藤川氏は語る。

「未就学児のうちからスマホを使うことは、確かに子どもの成長にとっては、マイナスかもしれない。しかし、それで夫婦や親子のコミュニケーションが増えて、日々の幸せ度や満足度が上がるのなら、結果的にはプラスでしょう。家庭に余裕が生まれるのなら、10〜15分といった限られたすき間時間にスマホを使うことは、ある程度許容されていいのではないか。育児においては“部分でベスト”を目指すより“全体でベター”を目指すことが大事だと思います」


福島奈美子(ふくしま・なみこ)
1979年生まれ。神奈川県出身。編集制作会社勤務を経て2010年よりライターとして活動。暮らし、カルチャー、ビジネスなどの分野で取材・人物インタビューを行っている。

[制作協力]
夜間飛行
[写真]
撮影:鬼頭志帆、岡村大輔、福島奈美子
図表制作:ケー・アイ・プランニング
※子どもとスマホ、親子の写真はすべてイメージです

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