世戸ヒロアキ(vision track)

絶えない「ネット炎上」どう向き合うか

2016/12/13(火) 11:56 配信

「写真に写り込んだ抱っこ紐がブランド品だった」だけで炎上するネット社会。ネット炎上は、企業の広報担当者や著名人に限らず、一般の人にとっても「身近な問題」となっている。そもそも、なぜ、ネット炎上は起こるのか。自分や家族が巻き込まれるのを防ぐ手立てはあるのか。また、中学生や高校生を苦しめる新しいネット炎上の形である「ネットいじめ」の特徴とは? 4人の識者に聞いた。
(ライター・杉原環樹、吉田真緒、福島奈美子/Yahoo!ニュース編集部)

<ネット炎上を生み出すのは「正義感」>
山口真一・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師
<一般人のネット発信には、いまやリスクしかない>
中川淳一郎・ネットニュース編集者
<外から見えづらい「ネットいじめ」の構造>
藤川大祐・千葉大学教育学部教授
<誰もが「ネットビギナー」だという自覚を持つべき>
小木曽健・グリー株式会社 安心・安全チームマネジャー

<ネット炎上を生み出すのは「正義感」>

山口真一・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師

山口真一(やまぐち・しんいち)1986年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師、東洋英和女学院大学非常勤講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、同大学院経済学研究科で博士号を取得。著書に『ソーシャルゲームのビジネスモデル』『ネット炎上の研究』(ともに共著)など(撮影:岡村大輔)

そもそも、ネット炎上とは何なのか。私は「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」と定義しています。不祥事や失言でネット炎上するケースは、ここ数年後を絶たない。

では、なぜネット炎上はなくならないのか――。2回にわたって行った、合計約6万人に対するアンケート調査結果をもとに詳細な統計分析をしたところ、ネットに批判的なコメントを書き込む「炎上加担者」の意外な実態が見えてきました。

まず、興味深いのは、結婚の有無や学歴、ネットの利用時間と、批判コメントを書き込む行為には関連性が見られないことです。これは「独身で教養も低い、暇を持て余しているネットのヘビーユーザーが炎上を煽っている」という、従来持たれがちなイメージとはずれています。さらに細かく分析していくと、炎上加担者の平均世帯年収は670万円、対して非加担者は590万円。年収が低い人より高い人のほうが多い傾向にある、ということが言えます。

また、子どもと同居していない人よりしている人のほうが、そして女性より男性のほうが、炎上に加担している人が多いこともわかってきました。さらに、自営業を営んでいる人や、勤め人で「主任・係長クラス以上の役職についている人」の割合が「一般社員」や「無職の人・主婦・バイト・学生」と同じくらい多い。つまり、社会的地位の高い人、責任のある立場にある人たちが、かなりの割合で炎上に加担しているんです。これもまた、世間のイメージとずれていると言えるでしょう。

「炎上加担者」には係長クラス以上の役職も多い

(山口真一氏のデータをもとに作成/図表制作:ケー・アイ・プランニング)

(撮影:岡村大輔)

なぜ社会的に認められている人が、炎上に加わるようなことをする傾向があるのか。実は、これもアンケートで答えが出ています。彼らが炎上を起こすのは「正義感ゆえ」なんです。

コンビニ従業員がアイスケースに入った写真がSNS上で拡散し、店や従業員に批判が集中したケースなど、近年の炎上事案について「なぜ意見を書き込んだのか」と理由を訊くと、いずれの事案でも、「間違ったことをしているのが許せなかったから」「その人、企業に失望したから」という回答が6~7割を占めました。

そうした理由で書き込んだ人は同じ事件について、書き込みを繰り返す傾向があった。こうしたたくさんの書き込みが積もり積もって、「炎上」が起こるんです。

炎上を起こすのは“愉快犯”じゃない。正義感からネットに意見を書き込む人が、実は炎上の火種を作っているんです。

ネット炎上を放置することで、とにかく避けなければいけないと思うのは、「社会全体で見た場合に、みんなの発言が萎縮してしまうこと」です。ただ、炎上を起こす人にも、表現の自由がある。だから、法律を作って無理やりに発言を抑え込むというわけにもいきません。「悪気があって炎上を起こしているわけではない」そして「炎上を起こす側にも表現の自由がある」、こうした要件が絡み合うことで、炎上はなかなかなくならないんです。

もし、自分自身が炎上に巻き込まれてしまった場合は、どうするか。

大きな炎上では世間からのバッシングの嵐に飲み込まれてしまい、冷静に考えることすら難しくなるケースが多い。炎上加担者は少ないということを意識したうえで、もちろん自分に非があった場合は謝罪する。その際は感情的にならず、事実関係と問題点を明らかにすることに努めるのが良いでしょう。

<一般人のネット発信には、いまやリスクしかない>

中川淳一郎・ネットニュース編集者

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)1973年生まれ。ネットニュース編集者。博報堂勤務を経て無職に。その後『TV Bros.』やニュースサイト「NEWSポストセブン」などの編集を担当。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『バカざんまい』など(撮影:岡村大輔)

最近の「ネット炎上」の特徴であり、同時に怖いなと思うのは、もはや「何をきっかけに炎上するかわからない」ということです。

ネット黎明期の1990年代後半、「インターネットは自由な議論を開く」と言われていて、夢と理想に満ち溢れた場所でした。しかし、今はまったく逆で、極端化や不寛容が目立つ。年々、ふれてはいけないタブーが増え、窮屈になってきていると感じます。もちろん、ネットで知らない人に執拗にからまれるケースは、1990年代からありました。しかし、相手はだいたいネトウヨ(ネット右翼)や特定アイドルのファンと相場が決まっていた。今は思想や立場に限らず「自分と価値観が違う」というだけで、攻撃的な言葉を浴びせられるケースが多い。

もちろん「誰が見ても(炎上した)理由が明らかなケース」というのはあります。例えば、今年の9月から10月にかけて起きたフリーアナウンサーの長谷川豊さんの炎上例(「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」というタイトルのブログ記事が炎上し、テレビの全レギュラー番組を降板する事態になった)では、彼自身が「殺せ」という過激な表現を使わなければ、番組降板にまでは至らなかったはずです。理由が分かる炎上というのは、防ぎようがあるんですよ。

ところが今は、ごく普通の人がごく普通の発言や行動をしていても、炎上する可能性がある。とくに価値観の違いが表れやすい「結婚」「出産」「育児」などにまつわる話は、今は立場が違ったり、タイミングが悪かったりしただけであっという間に炎上してしまいます。「子どもが公共の場で泣くのは迷惑」とか、「ベビーカーが邪魔だ」とかですね。

2014年に「混雑している電車内にベビーカーを持ち込むのは迷惑だ」としたウェブ記事に対して、“子育ての実状に対して無知過ぎる”と批判や反論が集まり炎上し、24時間で1万件以上のツイートが集まったことがありましたね。この件は執筆者やメディア側にも問題があったと思いますが、その後は「ベビーカー」に言及しただけですぐ “燃える”ようになってしまった。

そして、今年の3月には“抱っこ紐”炎上事件が起きました。「保育園落ちた日本死ね!」というネット投稿をきっかけに、待機児童問題を訴える母親たちがデモをして、署名を国会議員に渡したことがあった。そのとき、記念写真に写っていた女性たちの抱っこ紐に「海外ブランド」のロゴが入っていたというだけで、ツイッターで大炎上した。「“保育園落ちたママ”の抱っこ紐、ブランドじゃねーか」と。でも、子どもに使うものにお金をかけること自体は、別に社会的に非難されるようなことじゃないですよね。しかも、この抱っこ紐はそこまで高くない。

自分と価値観が違うだけで「敵」と見なす人たちによって生まれる炎上は、どんなに自分の発信に気を配っていても防げない。じゃあ、炎上に遭わないためにはどうすればいいか。極論を言えば、そもそも「一般の人がわざわざネットで発信する」必要なんてない、ということに尽きます。

自分の活動を宣伝したい著名人やフリーランス以外の人にとって、いまやネット発信は、デメリットの方が大きくなっている。不特定多数とのコミュニケーションに時間を割く暇があったら、家族や友人とコミュニケーションをとる方が余程有意義だし、精神的にも健康でいられます。みんながリスクを冒してネット発信する必要なんて、じつはないんですよ。著書でもずっと主張し続けていることですが、ネットは「バカと暇人のもの」なのですから。

<外から見えづらい「ネットいじめ」の構造>

藤川大祐・千葉大学教育学部教授

藤川大祐(ふじかわ・だいすけ)1965年生まれ。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。特にメディアリテラシー、ディベート、キャリア教育、数学などの教科・領域の授業づくりを研究。著書に『いじめで子どもが壊れる前に』『スマホ時代の親たちへ 「わからない」では守れない!』、AKB48メンバー・岩立沙穂ら6名との共著に『実践!スマホ修行』などがある(撮影:岡村大輔)

10代が最初に巻き込まれる確率が高いのは、SNSのグループなど、閉じたネットコミュニティの中で起こる「ネットいじめ」です。

私は青少年のネット上のトラブルを研究してきた立場から、全国の大学や高校で、ネット教育の授業を行ってきました。子どもたちを取り囲むネット環境ががらっと変わったのは、スマホが急速に普及した2013年です。いまや小学生の23.7%、中学生の45.8%、高校生では93.6%の子がスマホを持っている(内閣府「平成27年度青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果」より)。そして、2011年から登場したLINEは、すでに中高生の友人関係においては欠かせないものになっており、「ツイッターもメールも使わないがLINEだけはやっている」という子も少なくありません。

そうした普及に伴い、数年前からLINEを介したネットいじめも取りざたされるようになりました。例えば2016年8月に青森県の女子中学生が自殺した事件では、LINEでクラスメイトから誹謗中傷を受けていたという報道があった。

LINEの一番の特徴は「グループ」が作れるということ。リアルな友人や知り合いと「閉じたコミュニティ」が手軽に作れる、非常に便利な機能です。半面、学校集団の中では、グループ内で複数の子から悪口を投稿されたり、ひとりだけグループを外されたりといったことも起きている。コミュニケーションが外から見えづらくなった分、教師もいじめの有無を把握しづらくなってきています。

(撮影:岡村大輔)

また、SNSならではの特徴がネガティブに働く場合がある。例えば、LINEはごく短いメッセージや、気持ちを表すスタンプなどをスピーディーにやりとりするのに適しています。「同意」や「共感」を示すのに向いていますよね。

例えば「○○ちゃんってちょっとムカつくよね」と誰かがポン、と投稿すれば、そこに「あー」「わかる」「私も」などのメッセ―ジはパパッと出しやすい。そのとき、グループのひとりが「なんか違うな」と思っていても「でも、それは○○(最初の発言者)もこういうところがあるから、悪いんじゃない?」などといった“長く丁寧な反論”は投稿しづらいわけです。短いメッセージをやりとりするコミュニケーションでは、一度できてしまった空気や流れを変えるのが難しい「怖さ」があります。

自分の子どもがトラブルに巻き込まれないようにするために、親は、どう備えればいいのか。周囲の友人がみんな使っている中で、スマホやLINEの使用そのものを禁止することは現実的ではないでしょう。まず、「気軽な投稿が炎上やいじめにつながるリスクがあること」を十分に伝えること。また、友人間でトラブルがあった時は、SNSを使うのではなく、できるだけ顔を突き合わせて話し合うようにアドバイスすること。そして、何よりも重要なのは、自分がトラブルに巻き込まれたときに、問題を抱え込まずに親や周囲の大人に相談できるよう、普段からコミュニケーションをとっておくことではないかと思います。

<誰もが「ネットビギナー」だという自覚を持つべき>

小木曽健・グリー株式会社 安心・安全チームマネジャー

小木曽健(おぎそ・けん)1973年生まれ。グリー株式会社安心・安全チームマネジャー。複数のITベンチャー勤務を経て、2010年にグリー入社。インターネット啓発に関する全国での講演、オリジナル教材の作成、NPOなどを対象とした講師育成を担当している(撮影:岡村大輔)

2012年頃から学校や企業を中心に、炎上予防についての講演をしてきました。ここ数年は年に2000件以上のオファーがあり、「炎上予防」需要の増加を実感しています。現代では、ネット炎上がもたらす被害はかなり大きい。「炎上した大学生の身元が特定されて内定取り消しになった」「結婚を考えていた相手の親戚から、過去の炎上事実を指摘され、破談になった」など、当事者の人生にマイナス影響を及ぼす事例は多くあります。

これまで、ネット炎上において個人が特定されなかったケースはほぼありません。炎上時に匿名性を保つのはまず不可能でしょう。なぜなら、炎上には100万人を優に超える“観客”が殺到するからです。それだけの数の人が“観て”いると、いくら匿名アカウントを使っていても「別のSNSから職場が判明」「この写真は○○(場所名)だ」など、小さな手がかりから特定されてしまう。実際、ツイッター上で差別的な発言を重ねていたある社会人の投稿が分析され、勤務先が公共性の高い企業だったことから抗議が殺到し、懲戒処分になった事例がありました。

炎上して社会的なダメージを受けないためにはどうすればいいか。アドバイスとしては、大きく3つあります。

まずは「自宅の玄関ドアに、その投稿コメントや画像を印刷し、貼り出せるかどうか」を基準に考えてみて下さい。玄関ドアは、プライベートではなく不特定多数の人が見る公の場です。当然、「お店に芸能人きた! クレカ控えUP!」「出張でキセル乗車成功」「禁止エリアでドローン飛ばした」なんて発言は貼れないはずです。

2つめは、話題選び。ネットを自由な情報発信の場だと勘違いしている人も多いのですが、大人の場合は「初対面の人が集まる立食パーティや懇親会」程度の自由度だと捉えるとちょうどいいでしょう。わざわざ自分がその場所で話すべき話題かどうかを、立ち止まって考えてみるということですね。

特に宗教や政治などの話題は、立場の違いで炎上しやすい。親しい友人と酒ビン片手に議論するような内容をオープンなSNSに投稿するのには、それなりの覚悟とスキルが必要だ、とも言えます。

3つめは、炎上時に対処を間違えないこと。万が一、自分の投稿や発信をきっかけに炎上してしまったときは、まず「素直に認める」「謝る」のが鉄則です。炎上とはちょっと違うのですが、あるタレントが、ツイッターの悪質ないたずら(エッチなリンクを踏ませ、拡散させるもの。エッチなページを開こうとしたことがバレた)にひっかかってしまった時の振る舞いはスマートでした。その事実を素直に認め、恥ずかしがったことで、逆に好感度が上がったのです。

これが意外とみなさん、できないんですね。ネットの炎上でも、まずは「お騒がせしてしまい、申し訳ありません」と素直に伝える、必要があれば速やかに謝罪し、投稿を慌てて削除したり、ごまかしたりしないことが重要なんです。

(撮影:岡村大輔)

ネット炎上は極力避けるべきものですが、「炎上したくないからネットもSNSも使わない」という姿勢は、私はもったいなさ過ぎると思います。

ネットを取り巻く現在の状況は、「誰も車をよく知らないのに、みんながスポーツカーを乗り回している状況」です。事故が起きるのは当たり前で、今はまだ、ネットやSNSというツールの便利さに、個人のリテラシーが追いついていない状況なんです。「つぶやいたとたん、瞬時に世界に広がる」というネット発信の本質を体で理解していないだけ。ネットの本質(=玄関ドア)を理解し、賢く使うユーザーが増えていけば、ネット炎上はおのずと減っていくのではないでしょうか。


杉原環樹(すぎはら・たまき)
1984年生まれ。ライター。アートやデザインを中心に、記事構成やインタビュー、執筆を行う。主な媒体に「美術手帖」「CINRA.NET」「プレジデント」ほか。構成を担当した書籍に『水曜日のアニメが待ち遠しい』(トリスタン・ブルネ著)などがある。

吉田真緒(よしだ・まお)
1981年生まれ。東京都出身。編集制作会社勤務を経て2012年よりライターとして活動。暮らし、カルチャー、コミュニティなどの分野で取材・執筆を行う。共著に『東川スタイル』(産学社)がある。

福島奈美子(ふくしま・なみこ)
1979年生まれ。神奈川県出身。編集制作会社勤務を経て2010年よりライターとして活動。暮らし、カルチャー、ビジネスなどの分野で取材・人物インタビューを行っている。

[制作協力]
夜間飛行
[写真]
撮影: 岡村大輔

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