塩田亮吾

鍋前に立ち続け半世紀 海老200万尾揚げた天ぷら職人

2016/6/17(金) 11:37 配信

「てんぷら 近藤」店主 近藤文夫

「粉をつけて揚げる」。ただそれだけのことに半生を捧げた料理人がいる。なぜ、私たち日本人はそんな「職人」に憧れと敬意を抱くのだろうか。世の中に単に「おいしい」店は星の数ほどある。けれども、もう一度食べてみたいと思わせる店はわずか一握りに過ぎない。私たちは料理そのものの完成度はもちろん、店を切り盛りする主人の人柄や生き様に心を動かされるのだ。とくに客と主人が白木のカウンターを隔てて対峙する日本料理の世界はなおさらだ。この物語は数多の一流料理人が凌ぎを削る東京・銀座で、押しも押されもせぬ天ぷらの「名人」と呼ばれる職人の物語である。生涯で200万尾以上もの海老をひたすら揚げ続けた男の境地とは。彼の人生を決定づけたのは、ある客人から送られた一枚の色紙だった。そこに書かれていた言葉とは?(ライター・中原一歩/Yahoo!ニュース編集部)

正午。銀座の目抜き通り「並木通り」沿いに建つ瀟洒なビルの9階に「てんぷら近藤」と染め抜かれた暖簾がかかる。待ちかねた客が、続々と天ぷら職人・近藤文夫(69)を囲むように設えられた白木のカウンター席に着席する。

日本料理の親方は、いずれも独特の「気」をまとっているものだ。しかし、カウンターの中央に立つ近藤は、圧倒的な存在感を放ちながらも、客が身構えてしまうような気負いは感じさせない。印象的なのはその立ち姿だ。その背中は、肩甲骨のあたりから上半身がくの字に折れ曲がっていた。それは半世紀もの間「鍋を覗き込み、天ぷらを揚げてきた」姿に他ならない。

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