八尋伸

薬物報道の曲がり角──「叩くより治療を」配慮求める声

8/6(火) 7:18 配信

著名人の薬物事件が相次ぐなか、「情報番組などの一面的な報道が、依存症患者への偏見の助長や治療の妨げになっている」との声が上がっている。興味本位や個人攻撃ではなく、治療・回復を促すよう報じ方を変えるべきだという。違法薬物の広がりを防ぐ啓発のための報道は必要だとしても、より望ましい報じ方とは、どのようなものか。当事者や専門家らに聞いた。(ジャーナリスト・秋山千佳/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「軽い」「ふざけるな」深まった孤立感

3年前、テレビから姿を消したその男性は、執行猶予中の現在をこう語る。

「執行猶予は社会の中で生きるチャンスであると同時に、常に罪と向き合い、罰を意識しないといけない期間。そのためには一人ではダメで、治療やサポートがいかに大切かと自分を通して感じています」

元俳優の高知東生(たかち・のぼる)さん。2016年、知人女性と一緒に覚醒剤を使用したなどとして、覚せい剤取締法違反などの罪で懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けた。仕事の悩みから手を出してしまったという。

元俳優の高知東生さん(撮影:八尋伸)

自身をめぐる報道の過熱ぶりを知ったのは逮捕の約1カ月後。保釈されて警察署を出ると無数のフラッシュを浴びた。友人の車に乗り込むと、報道陣の車やバイクとカーチェイスになり恐怖を覚えたという。

「逮捕の時に麻薬取締官へありがとうございますとお礼を述べたことが、情報番組のコメンテーターから『軽い』『反省していない』『ふざけんな』と言われたと後で知りました。ただ、薬物を使うなかで、このままじゃダメだというのは常に頭にありましたし、これでやめられるとホッとしたのが嘘のない気持ちです」

報道陣を警戒して家から出られなくなった。携帯電話で知人らに連絡を試みると「100件中98件くらいはブロックされていた」。テレビをつけると、自分への糾弾が続いているのを目にして「俺はもう世間に認められない存在なんだ」と感じた。

「孤立感が深まっていき、最初の1年は本気で死のうかと思った」と高知さんは振り返る。

(撮影:八尋伸)

八方塞がりの状況に投げやりになりかけたこともあった。それでも踏みとどまることができたのは、薬物をやめたいという意思を支えてくれる人の存在だったという。

「テレビの出演者が、薬物依存についてもう少し理解したうえで議論してもらえたらありがたいなと思います。今は誤った内容でも投げっぱなしですし、捕まった当事者はなかなか訂正できないので」

知識不足からの偏見と配慮のなさ

高知さんの逮捕後も著名人の薬物事件は続いた。特に今年3月、ミュージシャンや俳優として活躍してきたピエール瀧さんがコカインを使用したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕され、6月に懲役1年6月執行猶予3年の有罪判決が言い渡されるまで、情報番組やニュースで大々的に取り上げられてきたのは記憶に新しい。

しかし、それらの報じ方が、薬物依存症者への偏見や排除を助長しているという指摘がある。

(撮影:八尋伸)

「乱用や再乱用の防止に対して問題がある内容のテレビ番組が目立つ」と話すのは、精神科医で国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さんだ。前出の高知さんの主治医でもある。

テレビの薬物に絡む放送内容に関して、問題は大きく分けて二つあるという。

一つは、薬物依存の知識のない出演者の発言だ。例えばある情報番組では、司会者が瀧さんの作品について、薬物の作用を借りたなら「ドーピング」だと批判した。ドーピングとはスポーツ選手が運動能力を高めるために禁止薬物を用いること。瀧さんが同様に薬物によって芸術的能力を高めたと司会者は示唆した。この発言に対して、松本さんはこう懸念する。

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