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スカイツリー建設にも貢献した南半球の資源大国、オーストラリアの強み

2019/07/29(月) 08:44 配信

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雄大な自然に恵まれ、移民がもたらした多彩でユニークな文化が暮らしに根付くオーストラリア。英経済誌エコノミストの調査部門が発表した2018年の「最も住みやすい都市」番付では、メルボルンやシドニー、アデレードがトップ10に入り、日本人の間でも留学先や旅行先としての人気は引き続き高い。日豪関係のはじまりは19世紀の終わりにさかのぼる。家族2代で日本とつながりが深いリチャード・コート大使に、オーストラリアの魅力を聞いた。(時事通信社/Yahoo!ニュース 特集編集部)

【65秒でわかるオーストラリア】

第2外国語として日本語が人気

――日豪関係の歴史について教えてください。

日本が鎖国政策を廃止して以降、両国の交流の歴史は深いです。1889年に来日して夏目漱石に英語を教えた教師ジェームズ・マードックは、日本で約30年間すごし、帰国後はシドニー大学で日本語を教えました。

リチャード・コート駐日大使(撮影:時事通信社)

日本語はオーストラリアの学校で学ぶ第2外国語として最も人気です。1880年代頃からは、真珠産業に従事するため和歌山などから多くの日本人が、豪州に移住して(潜水士として)活躍しました。高品質な養殖真珠が生産される西オーストラリア州ブルームで毎年開催される「真珠祭り」には、私と妻も出かけます。

オーストラリア大使公邸(撮影:時事通信社)

私の父は第2次世界大戦では兵士として日本人と戦い、戦後は私と同じく西オーストラリア州首相を務めました。親子2代で日本への鉄鋼や液化天然ガス(LNG)の輸出関連ビジネスに携わっています。新幹線などのインフラ整備や、東京スカイツリーの建設には豪州産鉄鉱石が使われるなど、オーストラリア人が現代の日本の国づくりに貢献したことは誇りです。

オーストラリアの国章(撮影:時事通信社)

――オーストラリアはどんな国なのでしょうか。

769万キロ平方メートルの広大な国土に対して、人口は約2500万人と比較的小さいですが、およそ200の国と地域の人々が生活し、多様な人種・民族が共存しています。18世紀末の英国からの本格的な入植が始まるはるか前から、伝統的な生活を営んできた先住民のアボリジナルの人々や、トレス海峡諸島民の独自の文化もあります。表現豊かなアボリジナルの人々の絵画作品は人気が高く、大使館ではエミリー・ウングワレー氏の作品などを飾っています。そして、南欧、中国、ベトナム、インドなどからの移民がもたらした文化は豪社会に溶け込み、異文化に対して寛容な文化が国を強くしています。

シドニーのボンダイビーチでサーフィンを楽しむ人(AFP=時事)

オーストラリア人の気質はとてもざっくばらんで、寛大であることを誇りとしています。スポーツは暮らしに欠かせないもので、私が趣味とするマリンスポーツを含めて野外スポーツを楽しむ人が多いです。

(撮影:時事通信社)

南欧系移民が持ち込んだコーヒー文化

――日本でもオーストラリア流のカフェや朝食が注目されています。

第2次大戦後に移住してきたイタリア人やギリシャ人が、コーヒーやカフェを楽しむ文化を広めました。濃いエスプレッソと、きめ細かく泡立てられたミルクが混ざり合う「フラットホワイト」はオーストラリアで生まれました。素晴らしいバリスタがいる独立系カフェも多いので、大手コーヒーチェーンが豪市場で生き残ることは難しいでしょう。

東京都港区のカフェ、バイロンベイコーヒーで提供される「フラットホワイト」。エスプレッソの味わいと、ミルクのまろやかさを同時に楽しめる。添えられたミートパイもオーストラリアで愛されているメニュー(撮影:時事通信社)

私は朝早起きをして海で泳いでから、近くのカフェで朝ごはんを食べることを楽しんでいました。オーストラリアの定番メニュー「スマッシュアボカド」(味付けされたペースト状のアボカドをトーストなどにのせたもの)をよく注文します。西オーストラリア州パース近郊の海岸近くにある「Little Sup(リトル・サップ)」というお店がお気に入りです。

オーストラリアの温暖な気候は野外活動に適していて、一部の地域では年中バーベキューができます。野外に備え付けの大型調理器具を設置して、真剣すぎるほどに熱心に取り組む人もいます。伝統的なメニューはソーセージやステーキ、骨付き肉ですが、ロブスターやエビなどシーフードが振る舞われることもあります。

英国のウィリアム王子も2010年のオーストラリア訪問時にBBQを楽しんだ(EPA=時事)

農産物から金融サービスまで多用な産業が成長

――オーストラリアはどんな産業が伸びていますか。

歴史的には世界有数の農業・資源国ですが、フィンテックなどの金融サービスやヘルスケア、エンジニアリング、防衛分野で革新的な技術が誕生しています。米国を除く環太平洋連携協定(TPP)参加11カ国の新協定「TPP11」が締結され、対日貿易が拡大することを期待しています。2018年日本への輸出が解禁されたアボカドのほか、ブドウやかんきつ類などの農産物や、人口内耳などの医療機器など魅力的な産品があります。

オーストラリア大使館で今年4月に開催されたスポーツ外交キャンペーンの発表会。日本でのラグビーワールドカップやオリンピック開催に合わせて、今後スポーツ関連イベントを開催する。左からリチャード・コート駐日大使、同夫人、右端は渡辺博道復興大臣(撮影:時事通信社)

オーストラリア人は勤勉ですが、極端な長時間労働は労働生産性の向上につながらないことを認識しています。家族間の助け合いや、地域社会への貢献を大切に考えていて、大半の人は仕事が終わった後に、地域のボランティア活動などに参加し、子育てに携わる父親も増えています。

女性幹部の活躍は豪社会のトレンドです。BHPビリトンなど大手エネルギー関連企業で女性幹部が増えていて、中小企業でもそうした前向きな動きが見られます。政界でも一部政党(労働党)では獲得議席のうち女性議員が占める比率は半分に近づき、大学での女性のキャリア教育も過去20年間で大きく変わっています。

(撮影:時事通信社)

リチャード・コート氏 略歴:

1947年西オーストラリア州生まれ。西オーストラリア大学で商学士取得。日本向けの資源ビジネスに長年携わった。82年に同州の下院議員に当選。93年から2001年まで西オーストラリア州の首相兼財務大臣を務めた。08年には日豪関係強化への貢献により、旭日重光章を受賞した。17年2月に駐日大使に着任。これまでに日本の都道府県の半分以上を訪問した。家族は妻と子供3人。ヨットやボート、ウオーキングが趣味で、スキーも楽しむ。

オーストラリアとは:

英連邦を構成する自治国で1901年に成立した。南半球に位置し、豪大陸本土と数千の島々からなる。二院制で、英女王を国家元首とする立憲君主制。先住民が暮らしていたが、15世紀以降に探検家が訪れるようになった。英国が18世紀末に領有化を宣言し、当初は囚人や移民が入植。現在は国民の4分の1が海外生まれで、多民族・多文化主義政策を導入。主要産業は農業や鉱業。

オーストラリアの料理

豪原産の植物レモンマートルの葉としょうがで味付けされたサーモン。ふっくらとジューシーな味わい(撮影:時事通信社)

パンに添えられたオリーブオイルも豪州産。イタリアからの移民が多いためオリーブオイル造りも盛んに行われている。今回の料理と共に供された白ワインは、国内で最初にワイナリーが誕生した西オーストラリア州のもの(撮影:時事通信社)