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岡本隆史

家族と定住する外国人労働者―「子どもの日本語教育」「住民との共生」にどう取り組む

2019/03/13(水) 08:31 配信

オリジナル

日本に家族を呼び寄せて暮らす外国人労働者が増えている。島根県出雲市の小学校では、外国人の児童が急増。日本語指導に力を尽くしている。埼玉県川口市の芝園団地では住民の約半数が外国人となり、自治会が外国人住民との共生に取り組む。この4月には、外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管法が施行される。外国人労働者とその家族がさらに増えることが見込まれるなか、「地域の実情に国の対応が追いついていない」と指摘する声もある。現場を取材した。(取材・文=NHKクロ現+「外国人労働者127万人 共生をどう進める?」/編集=Yahoo!ニュース 特集編集部)

「神話の国」でブラジル人が増加

縁結びの神様として知られる島根県の出雲大社。「神話の国」とも呼ばれる地に、ここ数年、変化が起きている。

出雲市内の住宅地を歩くと、カラフルな外観の店が現れる。ブラジル料理のレストランだ。市役所の周りだけでも三つの店があり、ここ数年の間に相次いでオープンした。

ブラジル料理店の店内で(撮影:岡本隆史)

オーナーの滝浪セルジオさんは、日系ブラジル人。4年前に出雲市で開業した。

「27年前に来日して兵庫県にある工場にずっと勤めていました。そこを辞めて、2008年から関西でブラジル料理店や、フードトラックを使ったブラジル料理の移動販売をしていました。そうしたら出雲市でブラジル人が増えていると聞いて、移ってきたんです」

レストランの客の多くはブラジル人だ。

メニューは、肉や豆を煮込んだ料理やアマゾン原産の果物のジュースなど(撮影:岡本隆史)

出雲市役所を訪ねると、窓口にブラジル人のグループが続々とやってきた。来日したばかりの家族が転入手続きを行っていたのだ。市役所では外国人の姿を目にしない日はない、と職員は言う。

出雲市の外国人は2019年1月時点で4698人。この5年間で約2.4倍に急増した。そのうちの多くがブラジル人だ。市内にある大手電子部品メーカーの工場では、スマホの部品などの主力製品の製造が好調で、人手不足の中でブラジル人従業員の雇用を拡大していることが背景にある。

一方、日本人は減少している。出雲市の総人口は17万5000人余り。2019年1月までの5年間で日本人は約1900人減少。外国人は約2700人増え、結果として総人口は約800人増加した。

市役所に置かれるさまざまな書類にはポルトガル語訳がつけられている(撮影:岡本隆史)

相談窓口にポルトガル語通訳がいる時間帯も(撮影:岡本隆史)

出雲市は2016年に「外国人住民のうち、5年以上市内に住む人の割合を30%台にする」と宣言。外国人の定住に数値目標を掲げ、地域の担い手として明確に位置付けた。

出雲市の長岡秀人市長はこう言う。

「全国的に地方都市は人口減少が進み、生産年齢人口がどんどん減っている。外国人たちがこの地にやってきて暮らすことが、将来、地域の元気の源になると信じています。元々出雲に住んでいた皆さんと、外から来られた外国の皆さんとで、新たな街づくりの担い手になってもらいたい。この地域に留まって、一緒に働いて家庭を作って、という好循環になるように願っています」

市では外国人住民の相談態勢を充実させるため、ブラジル人の嘱託職員も採用している。出雲市での定住を決める外国人も目立つようになった。ローンを組んで家を建て、親を呼び寄せて3世代で暮らす家族もいるという。

市役所で出雲市国際交流員を務めるブラジル人のカミーラ・イキエネさん。出身はリオデジャネイロ州。埼玉県で6カ月の海外日本語教師研修を受けた(撮影:岡本隆史)

日本語を教える「取り出し授業」

家族で暮らす外国人が増えるなか、市内では外国人の子どもが増えている。出雲市は2018年までの5年間で15歳未満の外国人の子どもが185人増加し、3.2倍になった。全国一の増加率だ。

市内で外国人の子どもが最も多い地区にある塩冶小学校を訪ねた。敷地内では、工事が行われている。出迎えてくれた校長の杉谷学さんによれば、新しい校舎の建設工事だという。

新校舎は、外国人児童に日本語を教える教室に充てる予定だ。学区では日本人の子どもも増えていて、来年度は教室が確保できなくなるという。増築は30年ぶりだ。

工事中の新校舎(撮影:岡本隆史)

日本語指導が必要な外国人の子どもは、53人(2019年3月現在)。10人余りだった5年前から急増し、今ではほとんどのクラスに1人は外国人の子どもがいる。転入してきた子どもたちには、日本語を教える特別な授業を行っている。

杉谷校長はこう話す。

「去年は毎月のように子どもが転入してきました。ほとんどは日本語を全く話せません。まず『体調が悪い』『トイレはどこ?』といった最低限覚えないといけない“サバイバル日本語”から教えます。教師の言っていることが本当に理解できるまでは4~5年かかりますから、初歩の日本語が分かるようになった後も、個別に特別授業を続けます。空き教室をついたてで仕切ったり図工室を使ったりしていますが、それでも場所が足りません」

一つの教室をついたてで三つに分けて特別授業を行う。教室ではなかったオープンスペースも活用している(撮影:岡本隆史)

14人のスタッフが日本語の指導や通訳をしている。教員、指導員、通訳など、立場はさまざまだ。「取り出し授業」として、通常のクラスから文字通り子どもを「取り出して」、日本語の能力に応じた指導をする。低学年、中学年、高学年ごとにまとめ、3~4人の少人数か、1対1で行う。体育や音楽など言葉があまり通じなくても問題ない科目は、通常のクラスで一緒に受け、溶け込みやすい環境を作るようにしている。そのため、外国人の子どもたち一人一人に個別の時間割を作成しなければならない。

全国で共通の教材はなく、最初は何を使っていいのか分からなかったという。現在は、以前から外国人の子どもを多く受け入れてきた東海地方などの自治体が、ネット上で公開している教材を活用している。

初歩的な日本語を指導する「にほんごワークブック」(撮影:岡本隆史)

初歩的な日本語が分かるようになるまで3~4カ月はかかる。それが終わると通常の授業に入るが、完全には理解できない。そのため、教科書を要約した「リライト教材」を日本語指導員が独自に作成している。

単に言葉を教えるだけではないという難しさがある、と日本語指導を行ってきた宮廻祐子さんは言う。宮廻さんは、指導員として8年、教員として7年、塩冶小学校で働いてきた。

「学校に適応するための生活指導もしなければいけません。学習歴も子どもによって違うので、例えば、まずは算数のテストをしてレベルを把握するところから始まります。言葉の壁があるので、こちらの思いが伝わるのには時間がかかりますね。そこは信頼関係を築いていくしかありません」

日本語指導を行う宮廻祐子さん(撮影:岡本隆史)

親との関係づくりも一苦労だ。

まずは転入時に1時間半~2時間のガイダンスを行い、集団登校の方法から給食費の集金、学校の教育方針などを伝える。配布資料にはポルトガル語訳をつけ、筆箱や体操服、鍵盤ハーモニカといった学校で必要なものを写真付きで一覧にして、あらかじめ購入するよう伝える。

転入の際に配布される資料。用意するものを写真付きで示してある(撮影:岡本隆史)

そうした事前説明をしてはいるが――。「欠席をする時に連絡が来ないので、毎回電話して確認しています」と宮廻さんは話す。雨が降ると学校に来ない外国人児童もいたという。

指導者の確保、ノウハウの共有が課題

塩冶小学校では、外国人の児童が今後も増えると予想される。スタッフが受け持つ子どもの数を増やすと、指導が行き届かなくなる恐れもある。かといって「取り出し授業」の時間を減らせば、通常クラスの担任にも負担がかかる。

体育の授業は通常クラスで行われる(撮影:岡本隆史)

杉谷校長はこう話す。

「児童の数に比例して、指導する人員も増やさなければいけないけれど、追いつかないんです。どのくらいの人数がいつ来るかも読めません。雇用する企業側も採用した従業員の家族がいつ、何人来日するかは直前まで把握できていないということでして」

杉谷校長(撮影:岡本隆史)

現在、塩冶小学校も含めて出雲市全体で日本語の指導スタッフは22人。5年前には3人しかいなかった。人数の増加に伴い予算も急増。国や県からの補助はあるが、今年度は約3000万円の予算が充てられ、市の負担は大きくなっている。

市では教員免許を持っていることなどを採用の条件としているが、希望する人材を確保するのは簡単ではない。複数の学校を掛け持ちするスタッフもいる。塩冶小学校以外の学校でも外国人の子どもが増えていて、指導のノウハウをどう共有していくかも課題だ。

取り出し授業の様子。この時間は俳句を教えていた(撮影:岡本隆史)

長岡市長は実態についてこう話す。

「日本の子どもたちと同じように暮らして成長してもらいたいですが、今以上に増えていったときにはいろいろな課題が出てくる。市としてできる限りの対応をしていきたいし、国も含めてもっといろいろな制度や支援の仕方を考えてもらいたい。一つの自治体でやれることには限界があると思います」

中学校卒業後、進路が定まらない外国人の子どもたちもいる。出雲市で外国人の子どもなどを支援するNPO法人「エスペランサ」の堀西雅亮さんによると、一定程度日本語が理解できたとしても、日本人と同じように高校に合格するのはハードルが高く、受け皿がないのが現状だという。

「高校に入学できるのはわずかで、アルバイトをしている子もいますが、どう過ごしているか分からない子もいます」

NPO法人「エスペランサ」の堀西雅亮さん(撮影:岡本隆史)

出雲市によると、高校に通う年齢にあたる15~17歳の外国人は市内に40人弱いる。高校に通っている子もいるが、その多くはどう生活しているか把握できていないという。

“出稼ぎ”から“呼び寄せ”へ

こうした状況は出雲市だけのことではない。

日本に住む外国人の数は、総務省がまとめている住民基本台帳のデータから市区町村ごとや年齢層別に把握することができる。日本に住む15歳未満の外国人の子どもは、2018年1月時点で約21万4500人。5年前と比べると3万7000人余り増えている。

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」をもとに作成。2013年から2018年までの5年間で何倍になったのか、高い順に表示。括弧内は増加した人数。増加人数が50人未満の市区町村は除いて算出(図表:NHK 特設サイト「外国人“依存”ニッポン」)

なぜ外国人の子どもたちが全国で増えているのか。

外国人が日本に滞在するためには、36種類ある在留資格のうち一つを取得する必要がある。特に増えているのが、出雲市のように、「定住者」という在留資格で来日できる日系人。この資格で来た人が日本で働き始めた後、家族を呼び寄せるケースだ。

さらに、子どもたちの在留資格を見ると、増えているのが「家族滞在」だ。これは、主に働くために来日した外国人の子どもや配偶者が取得できる在留資格で、申請できる人は幅広い。国内の企業で正社員として、あるいは外国料理店の調理師として働く人など、17種類の在留資格で「家族滞在」が申請できる。

これまで日本で働く外国人は、母国の家族らに給料を仕送りする“出稼ぎ”だと言われてきた。今は、家族も一緒に日本で暮らす“呼び寄せ”が急増しているのだ。

外国人の子どもの実情に詳しい愛知淑徳大学の小島祥美准教授は、こう話す。

「元留学生や元技能実習生などが日本で就職し、その家族が来日を希望するケースが増えています。こうしたなか、日本語の指導が必要な子どもたちが各地で増加傾向にありますが、国としての対応策がとられていません。自治体や現場の学校任せになっている点が非常に大きな問題になっています」

塩冶小学校で(撮影:岡本隆史)

例えば、全国で共通の教材や指導方法がない。日本語指導員を雇用するのにも国の補助は出るが、子どもの増加に合わせて指導員を増やせば、その分自治体側の負担は大きくなる。財源に制約がある地方自治体には限界があるというのだ。

さらに小島准教授は、外国人の子どもが義務教育の対象になっていないことが、学校に通っていない「不就学」につながっていると指摘する。文部科学省は国際人権規約を踏まえ、外国人の子どもを学校で受け入れるよう通知を出しているが、最終的な判断は自治体や学校に委ねられている。

このため、日本語ができないことを理由に学校側が転入を受け入れなかったケースもあるという。学校にうまくなじめず、通学しなくなる子どももいる。

省庁や多くの自治体は「不就学」の子どもたちの実態を把握していない。義務教育の対象ではないため、住民登録がされていても、学校に通っているかどうかを必ずしも確認していないのだ。

愛知淑徳大学の小島祥美准教授(画像:NHK 特設サイト「外国人“依存”ニッポン」)

日本に住む外国人の子どもたちの数は、法務省がまとめる「在留外国人統計」の年齢別人数のデータから把握できる。このデータを元に分析すると、6~14歳の子どもたちの数は、文部科学省による「学校基本調査」で全国の小中学校に通っているとされる外国人の児童生徒数を、大きく上回ることが分かった。

この子どもたちが「不就学」だと想定される。「学校基本調査」の対象となっていないインターナショナルスクールに通う場合や、「在留外国人統計」がまとまった後に帰国した場合もあるため、数には幅があると考えられるが、全国で8000人以上にのぼると推計される。

埼玉県川口市、芝園団地の交流

総務省がまとめる住民基本台帳のデータから、都道府県別や全市区町村ごとの外国人住民の統計を分析すると、2018年までの5年間、すべての都道府県で外国人は増えている。

実際に地域社会では何が起きているのか。外国人住民との共生に取り組む埼玉県川口市の芝園団地を訪ねた。受け入れのモデルケースとして、メディアでもよく取り上げられる団地だ。

この地は都心まで30分という立地に加え、家賃も手頃で、10年ほど前から中国人の人気を集めるようになった。IT技術者とその家族が多く住んでいるという。今では住民約4800人のうち2人に1人が外国人だ。

芝園団地(画像:NHK おはよう日本「外国人との共生 ある団地の挑戦」)

自治会の事務局長を務める岡崎広樹さんは、日本人と外国人の住民同士の交流に取り組んできた。団地で暮らし始めたのは4年前。当時、日本人と外国人との交流はほとんどなかったという。

その頃、交流活動に取り組むきっかけになった出来事があった。ベンチに差別的な落書きが見つかったのだ。

「それを見たときは、まずいなと思いましたね。ご覧になった外国人の住民からは子どもを遊ばせるのが不安になるとか、そういう話を聞いていたので」

そこで互いのことを知るために、住民同士の交流会を始めた。会は毎月実施し、これまでに延べ600人以上が参加した。

これまでに行われた交流会の写真(画像:NHK おはよう日本「外国人との共生 ある団地の挑戦」)

文化の違いによる摩擦もあった。夜遅くに声を上げて遊び回る中国人の子どもたちがいて、苦情が寄せられたこともあった。そこで昨年の春、自治会は中国人向けに日本の生活習慣をまとめたパンフレットを作成した。

「20時以降、外での遊び声や騒ぎ声は控えましょう」「階段や玄関前に私物やゴミを放置しないようにしましょう」といったルールを周知したのだ。中国人の住民も「暗黙のルールでも言われなければなかなか分からないこともある。あらかじめ明文化したものを見ることができるのが一番いいなと思います」と話す。

一方で岡崎さんは、限界も感じ始めているという。帰国したり転居したりする人もいれば、新しい人も次々と入居し、住民は絶えず入れ替わる。岡崎さん自身、日中は仕事をし、帰宅後に自治会活動を行う日々だ。

「終わりがないなと。見知らぬ隣人をお迎えして人間関係を築いていくことは、時間もかかるし労力もいります。私自身もどこまで続けられるか」

交流会のチラシを掲示板に貼る岡崎さん(画像:NHK おはよう日本「外国人との共生 ある団地の挑戦」)

川口市全体で、外国人は2018年1月までの1年間で3000人以上増加した。

市の窓口には外国人からの問い合わせも多数寄せられる。ゴミ出しといった生活のルールのほか、税金や社会保障など制度に対する戸惑いなど、相談は多岐にわたり、常勤の通訳スタッフも配置して対応している。今後、外国人が増え続けた場合の人員確保が課題だ。

「労働力を受け入れたが来たのは人間だった」

外国人住民との共生のあり方や産業別の外国人労働者への依存などについて研究する三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤真研究員は、外国人の受け入れに関する政策の課題が浮き彫りになってきていると指摘する。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤真研究員(画像:NHK ニュース7)

「これまでの政策は、受け入れた後に中長期的に地域に生活する住民という視点が欠けていました。そのため、どう共生するかは地域や自治体の自助努力に任せられていたのが実態です」

「今回の入管法改正の議論でもよく使われた『われわれは労働力を受け入れたが来たのは人間だった』という言葉があります。今年の4月以降はそういうことに直面する自治体が増えることが見込まれる。今回の法改正は、労働者の受け入れを拡大しただけでなく、就労する分野によっては在留期間に上限を設けないなど、より定住性の高い受け入れに道を開いたという点で大きな方向転換です。海外の例を見ても『共生』はそう簡単ではなく、言語講習の機会を提供するなど、受け入れる社会が相応のコストをかける覚悟も求められます。労働者として入国した外国人は地域に入れば住民になるため、入国後の処遇に関する法律の制定や、社会としてどのように受け入れるのかのコンセンサス作りも重要です」

塩冶小学校の校庭でサッカーをするブラジル人と日本人の児童(撮影:岡本隆史)

今回の入管法改正では、来日後すぐには家族を呼び寄せることはできない。しかし、いずれは家族と日本で住むことを希望する人が増え、家族滞在がさらに増えることも予想される。外国人の存在に期待するだけでなく、向き合わなければいけない課題が多い。

前出の小島准教授はこう言う。

「国は『移民政策』じゃないと言いながら、外国人は家族と一緒に来日し、定住化が進んでいる。地域社会の中では確実に『移民』が起きているが、全く法整備がされておらず、制度が追いついていません」