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民謡120万曲誇る「歌の民族」―― 建国100年、ラトビアの素顔

7/5(木) 10:09 配信

今年、建国100周年を迎えるラトビア。旧ソ連に併合されていた時代にも、伝承の民謡を歌うことで民族の一体感を維持した歴史を持ち、「歌の民族」とも呼ばれる人々が暮らす。国土の大半を森林が占めることや、自然を敬う多神教の文化など、日本との共通点もある。ラトビアの魅力について、ダツェ・トレイヤ=マスィー駐日大使に聞いた。(時事通信社/Yahoo!ニュース 特集編集部)

80秒で分かるラトビア

週に1度はソバ

――どんな国なのでしょうか。

およそ半分が森林の自然豊かな国で、バルト海に面した全長約500キロの海岸は大変美しく、白い砂浜がどこまでも続きます。

広大な森林が広がるラトビアのトゥライダ博物館保護区(EPA時事)

バルト海に面した海岸(EPA時事)

日本の神道のように、自然との共生を重んじる文化があり、人々は夏至や冬至、秋の収穫祭など季節ごとにいろいろな祭りを楽しみます。ラトビア人の体内時計は、四季の変化に沿っているように感じますね。

勤勉で真面目な国民の気質も、日本人と似ていると思います。そういえば、ラトビア人もソバを食べるんです。麺としてではなく、ソバの実をゆでたり煮たりして。私はだいたい週に1度、食べています。

ラトビア人は言葉と人生を歌で学ぶ

――ラトビアのシンボルは?

「歌」でしょうか。ラトビア人は「歌の民族」と言われます。古代の格言から成るラトビア民謡(ダイナ)は、私たちの精神を形作るものです。120万曲以上あり、子どもたちは合唱を通してラトビア語を学び、暮らしの知恵を身につけていきます。

民族衣装で合唱するラトビアの人々(EPA時事)

ダイナには、自然や家族の大切さ、兵士や農民の困難な人生を歌った曲などがあります。美しく叙情的なメロディーで、「クアクレ」という琴のような、メランコリックな響きの伝統楽器で伴奏することもあります。

ラトビア伝統楽器のクアクレ。琴のような弦楽器だ=東京都渋谷区の駐日ラトビア共和国大使館(時事)

国が一つになる5年に一度の「祭典」

――代表的なイベントは?

5年ごとに国を挙げて開催される「歌と踊りの祭典」です。夏に1週間にわたって開かれる世界最大のアマチュア合唱団のイベントで、約4万人が合唱に参加します。1873年に始まり、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界無形文化遺産に指定されています。

旧ソ連時代も祭典で民謡を歌うことで独立回復の機運を高め、平和的なレジスタンス運動が行われました。2018年の祭典は6月30日から7月8日まで開かれますが、建国100周年と重なり盛大なものになるでしょうね。

「歌と踊りの祭典」で民族衣装を着て踊る人々(EPA時事)

祭典の期間中は、首都リガのあちこちに設けられるステージやパレードで、民族衣装で着飾った人々が踊ります。衣装には太陽や女神などを表すラトビア神話の模様が施され、家宝として代々継承されます。

実は、日本にもラトビア民謡に精通する「日本ラトビア音楽協会合唱団・ガイスマ(ラトビア語で『光』の意味)」があるんですよ。今年の「歌と踊りの祭典」では、「ガイスマ」もフィナーレを飾る1万3000人の大合唱に参加して歌声を披露することになっています。

日本と合作映画も

――現地で日本文化は知られている?

日本の小説が親しまれていて、村上春樹や大江健三郎の作品は読書好きのラトビア人に人気があります。昨年には(リガ市名誉文化大使の)桃井かおりさんや、イッセー尾形さんらが出演する「ふたりの旅路(原題MAGIC KIMONO)」という両国の共同制作の映画が公開されました。

また、日本大使館が茶道や酒などを市民に紹介する催しを開いていて、多くの国民は日本に好印象を抱いていると思います。

ラトビアの町並み(EPA時事)

また安倍晋三首相が今年1月、現職の日本の首相では初めてバルト3国を訪問しました。ラトビアが建国100周年の今年、初めて迎えた外国首脳です。物流や交通、IT、生命科学などの分野で協力が深まることを期待しています。

ラトビアは治安がよくて労働者の教育水準が高く、日本にとってよい投資先だと思います。これまでに、リガの多目的港湾ターミナルの運営会社に、三井物産が大規模な出資を行っています。

男性も編み物をします

――ラトビア製品は日本にどのくらい入ってきていますか。

医薬品や木材のほか、食品ではチョコレート、キャビアなどが日本へ輸出されています。東京都内にはラトビア雑貨の専門店があり、手作りのバスケットやニット製品などが買えます。手芸は幅広い世代に親しまれていて、編み物ができるラトビア人男性も珍しくありません。

上: 花や神話にちなんだ模様が入ったラトビアのミトン。同国ではお祝いにミトンを贈る習慣があるという 下:ラトビアの木製遊具(撮影:時事通信社)

ラトビアには多様な乳製品があり、なかでも無殺菌の牛乳から作られたハーブ入りの「イーヤバスチーズ」は特徴的なチーズです。欧州連合(EU)に加盟しているので、日本・EU経済連携協定(EPA)の締結による輸出拡大を期待しています。

――大使は日本に留学されていたそうですね。

1990年代に約1年間、東京に留学していました。印象的だったのは、京都で初めて見た金閣寺の美しさ。今も目に焼きついています。その静けさ、環境との調和が素晴らしいと思います。京都では茶道も体験しました。また、新幹線の車窓から見た富士山に自然の雄大さを感じました。いつか登頂してみたいですね、富士山は。

日本での留学経験がある、ダツェ・トレイヤ=マスィー駐日大使(撮影:時事通信社)

ダツェ・トレイヤ=マスィー氏 略歴:
1971年、リガ生まれ。ラトビア大学で英文学と政治学を学ぶ。92年に外務省入り。94~95年に日本の外務省が実施する、政府開発援助(ODA)供与国の外交官・公務員を対象にした日本語研修を受けるため日本に滞在。北アイルランドやEUでの勤務経験もある。2017年9月に駐日大使に着任。家族は夫と子供3人。趣味はランニングやスキー、読書。

ラトビアとは:
バルト海沿岸に位置する共和国。中世にハンザ同盟の港湾都市として栄え、帝政ロシアの支配下にあった19世紀に工業地域として成長した。ロシア革命後の1918年11月に独立を宣言したが、40年にソ連に併合され、90年に再び独立。2004年EUに加盟、14年にユーロを導入した。人口は211万人(18年1月現在)。主な宗教はキリスト教だが、キリスト教伝播前の古い宗教の風習も根づく。

首都リガ(EPA時事)

ラトビアの料理

ラトビアの家庭料理には乳製品やハーブがふんだんに使われる。豚肉の煮込み料理は、サワークリームとタマネギのソースでまろやかな味。「ごちゃまぜサラダ」はビーツのほか、ピクルスなどをハーブのディルとひまわり油であえた。各家庭は夏の間に、長い冬に備えてピクルスの瓶詰めづくりに励むという。テングダケをかたどったチーズサラダはパーティーの人気メニュー。傘はトマト、柄はゆで卵で、中にゴーダチーズと卵のサラダが入っている。

ラトビアの家庭料理(左から時計回りに、ごちゃまぜサラダ、テングダケの形のチーズサラダ、豚肉の煮込み(撮影:時事通信社)

記者・岩崎万季
カメラマン・森和也(もり・かずや)
料理協力・村越ジェニー


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