再戦で決着はついた? それでもヘビー級ライバル対決の第3戦が実現するわけ
10月9日 ラスベガス T-モバイルアリーナ
WBC世界ヘビー級タイトル戦
王者
タイソン・フューリー(イギリス/33歳/30勝(21KO)1分)
12回戦
前王者
デオンテイ・ワイルダー(アメリカ/35歳/42勝(41KO)1敗1分)
フューリーの1勝1分で迎えるラバーマッチ
「ワイルダーはこれまでに起こったことを否定しようとしているが、またKOされるだけだ。前回はKOだけだったが、今回は引退させてやるよ」
6日、ラスベガスで行われた最終会見でフューリーはそう息巻いたが、実際に今週末のタイトル戦は王者が断然優位とみなされてしかるべきなのだろう。
2018年12月の初戦はワイルダーが2度のダウンを奪ってドローに終わったが、ダウンがあった以外はほとんどのラウンドをフューリーが制していた。昨年2月のリマッチでは、逆に2度のダウンを奪ったフューリーが7回TKOで圧勝。過去2戦を見れば、両者のスキルレベルに大きな差があるのは明白だ。
「フューリーはユニコーンのような存在だ。あれほどの巨漢で、同時にまとまっている選手はもう現れないかもしれない。彼は例外的な選手。モハメド・アリはワイルダー、アンソニー・ジョシュアと戦っても優位だと思うが、あそこまで大きなフューリーと戦うとしたら、どう予想すればいいか私にもわからない」
フィラデルフィアに本拠を置く気鋭のトレーナーであり、Boxingscene.comでコラムを連載する理論家のスティーブン・エドワーズ氏はそう記し、フューリーに最大限の賞賛をプレゼントしていた。
特にしっかりと仕上げてきたワイルダー第2戦でのフューリーは支配的であり、サイズ、スキルをハイレベルで備えた英国人が”現代の支配者”になっていくと考えたファン、関係者は多かったはずである。
一方、リマッチでの惨敗後、「入場時の衣装が重すぎた」「トレーナーのストップが早すぎた」「フューリーはグローブに細工していた」と無様なエクスキューズを繰り返したワイルダーは極めて印象が悪かった。
スケープゴートが必要だった前王者は結局、マーク・ブリーランド・トレーナーを解雇。新たに元対戦者でもあるメリク・スコットをトレーナーに雇ったが、35歳になった元王者にこれ以上の大きな上がり目があるとは考え難い。
「ワイルダーは精神的に弱い人間。(9日も)彼をKOするよ。この試合を義務付けられたから行うけど、第3戦も前回と同じだ」
最終会見時のフューリーのそんな言葉にある通り、そもそもこの試合は本当に必要なのかという意見も少なからず出ている。
もともと昨年2月22日の再戦でフューリーがKO勝ちしたあと、ワイルダー側がリマッチ条項を行使。以降、日程が模索されてきたが、パンデミックのおかげで延び延びになっていた。一時は昨年12月19日にラスベガスのアレジアント・スタジアムでの挙行が計画されたものの、カレッジフットボールのビッグゲームと重なったためにこの日も避けることになった。
フューリー側のボブ・アラム・プロモーターはラバーマッチ契約は昨年9月で期限切れと主張し、挙行の線は消えたかと思われた。フューリーとワイルダーの第2戦はPPV売り上げ約80万件と投資額を考えればもう一つの結果に終わったため、TV局、プロモーターも第3戦には積極的ではなかったのだ。
しかし、今年5月、紛争調停の仲裁人が第3戦の契約は有効であると判断したため、試合挙行に強制力が生まれる結果になった。そんな流れを思い返せば、試合前のプロモーションが第2戦と比べてトーンダウンしているのは仕方ない。前戦に続いてトップランク/ESPN、PBCの合同で番組作りがなされているが、PPV売り上げもダウン必至だろう。
ワイルダーにもパンチャーズチャンスは残ってはいるが
ただ、実現の経緯はどうあれ、世界ヘビー級戦線を考えた上で、今戦が極めて重要な一戦であることに変わりはない。先月25日、イギリスのトッテナム・ホットスパー・スタジアムで行われたWBAスーパー、WBO、IBF世界ヘビー級タイトル戦で、元クルーザー級統一王者アレクサンデル・ウシク (ウクライナ)がアンソニー・ジョシュア(英国)に判定勝ちで新王者になった。
これでフューリー対ジョシュアという英国史上最大のメガファイトはとりあえず霧散。勝ったウシクはリングマガジンのパウンド・フォー・パウンド・ランキングで井上尚弥(大橋)を抜き、2位に浮上するほどの評価を得るに至った。ウシクにはジョシュアとのリマッチが義務付けられそうな気配だが、遠からずうちに4団体統一戦も視界に入れてくるのだろう。今後、最重量級の最終決戦がいつ実現するかこそが焦点になるに違いない。
フューリーに落とし穴があるとすれば、ワイルダーとの勝負付けはもう終わったと油断し、その先の戦いに向けて気持ちが先走った時ではないか。
ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)戦、ワイルダーとの1、2戦を思い返しても、フューリーは互角か予想不利の緊張感がある時の方が良い試合をする印象がある。2015年11月、クリチコに勝った後、心身のコンディションを崩して約2年半もリングから離れたこともまだ記憶に新しい。
今回、一時は具体化したジョシュアとの4団体統一戦が流れたこと、パンデミックと自身の新型コロナウイルス感染で試合間隔が空いたことが、ポジティブな方向に働くかどうかは微妙なところだろう。油断があった場合、歴史的とも評されるダイナマイトパンチを備えたワイルダーは依然として危険な相手である。モチベーションの薄れからフューリーが動きに精彩を欠き、そこにワイルダーの一発強打が再びヒットすれば・・・・・・。
繰り返すが、ワイルダーがダウンを奪った場面以外は総じてワンサイドだった1、2戦の内容を思い返せば、やはりフューリーの勝利以外の予想は導き出しづらい。ただ、波乱の要素もまったくないわけではない。
すべてはフューリーの心身のコンディション次第。3年弱にわたって織りなしてきたライバル対決の決着戦は、序盤の王者の動きで、だいたいその後の展開、結果が見通せるファイトになるのではないか。