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オールブラックスへの復帰も熱望されるモウンガ(BL東京)。「今年は異なる世界のラグビーに恩返しする」

斉藤健仁スポーツライター
ブレイブルーパスの優勝の鍵を握るオールブラックスのSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)

 東芝復活の鍵を握るのは、クルセイダーズを7連覇に導いた「優勝請負人」だ。

 「NTTジャパンラグビーリーグワン2024」のディビジョン1は5月18日(土)、19日(日)から今季の優勝を争うプレーオフトーナメントが始まる。

 14シーズンぶりに王座奪還を目指すのが、トップリーグ時代に5度の優勝を誇る東芝ブレイブルーパス東京だ。そのブレイブルーパスにはワールドカップ翌年のシーズンということもあり、33キャップのFLシャノン・フリゼル、そして56キャップの司令塔SOリッチー・モウンガの2人の「オールブラックス」ことニュージーランド代表が加わった。

 「猛勇狼士」を掲げているように、もともとフィジカルに長けており昨季5位だった力のあるチームをFLフリゼル、SOモウンガが後押しし、1位の埼玉パナソニックワイルドナイツに敗れた以外は堂々の14勝1敗1分の2位でプレーオフに進んだ。そして19日(日)の準決勝、東京・秩父宮ラグビー場で「府中ダービー」のライバルである東京サントリーサンゴリアス(3位)と激突する。

◇NZと契約せずに3年契約で東芝に入団

 ブレイブルーパス王座奪還の鍵を握るのは29歳のSOモウンガだろう。身長176cm、体重86kgとさほど大きな体躯ではないが、スピードと判断力に長けた攻撃的司令塔としてクルセイダーズ(NZ)では昨年までスーパーラグビー7連覇に貢献。国際舞台ではワールドカップは2大会連続出場し、2023年大会はオールブラックスを準優勝に導いた。

 SOモウンガは今季、他のビッグネームとは違い、NZ協会と契約せずに、ブレイブルーパスと3年契約を結んで来日した。

 1年前の入団会見時、その理由をSOモウンガは「数年前から海外でプレーしたいと思っていた。日本を選んだのは、美しい国だし、人々も素晴らしいし、とても美しい風景がある。私自身、それに妻と2人の子どもにとってもいい判断だと思いました。私たちは日本の文化を受け入れ、その文化についてもっと学び、東芝の文化から学び、そして私ができることすべてを東芝に捧げたいと思います。

 3年間、ここに来ることを決めたのは、何年かこのクラブに身を置くことで、どこかでタイトルを取りたいと考えていますし、3年という期間はそのための最良のチャンスだと思っています」と説明した。

1年前の1月、入団会見に臨むSOモウンガ(提供:東芝ブレイブルーパス東京)
1年前の1月、入団会見に臨むSOモウンガ(提供:東芝ブレイブルーパス東京)

◇NZの同郷の指揮官、主将のいる東芝を選んだ

 数ある日本のクラブの中から東芝ブレイブルーパス東京を選択したことについて聞かれるとSOモウンガは「東芝は非常に成功したラグビークラブで、非常に誇り高く豊かな歴史を持っているクラブだと思います。ここ2、3年は、より高いレベルの競争力を得るために、正しい方向に進んでいます。さらに、自分のホーム、クライストチャーチ出身の外国人選手がたくさんいます」と答えた。

 チームを率いて5シーズン目の元オールブラックスのNZ出身のトッド・ブラックアダーHC、再びキャプテンに就いた日本代表FLリーチ マイケルらも同郷だったことが大きかったようだ。

 「(リーチ)マイケルがクライストチャーチ出身だと言うことは知っていました。そして、彼が日本のラグビー界にとって、とても大きな存在であることも知っています。彼がビッグボスなので、私がここに来ることをOKかNOか、彼が決めたことはわかっています(笑)」(SOモウンガ)

◇16試合中13試合で10番を背負い攻撃をリードした

 実際、ワールドカップが終了し、昨年11月に来日し、12月からリーグワンが始まると、SOモウンガはトンガ人の父が急逝して3試合休んだ以外は13試合で10番を背負って先発し、チームのタクトを振り続けた。

試合に勝つだけでなく、ブレイブルーパスらしいスタイルで勝つ、魅力的なスタイルのラグビーで勝つことです。すごく高いレベルの考えが表れているラグビーをしたいですし、同時に選手が見たものに反応できる自由なラグビースタイルもしたい。 

 私の仕事というのは毎週の試合にフォーカスし、自分自身とそのパフォーマンスにフォーカスすることです。自分がコントロールできることをコントロールするだけです」という言葉を見事に実践し続けた。

 FLリーチキャプテンに、SOモウンガの長所をあらためて聞くと「リッチー(・モウンガ)だけでなく(シャノン・)フリゼルも勝ちたいという意欲が常に溢れている。リッチーの良さはゲームの理解や分析が良くて、こういう相手にはこういう戦術でいった方がいいとか、試合中のマネジメント、蹴った方がいいとかボール持った方がいいとかカウンターした方がいいというベーシックな判断が他の選手より優れている」と話した。

攻撃的な司令塔であるSOモウンガ。カウンターアタックも持ち味だ(撮影:斉藤健仁)
攻撃的な司令塔であるSOモウンガ。カウンターアタックも持ち味だ(撮影:斉藤健仁)

◇モウンガが指摘する日本ラグビーの〝違和感〟

 リーグワンで10試合を終えた後、リーグワンの印象やレベルは?SOモウンガに聞いたことがある。

 するとSOモウンガは「自分はBKで、ボール持って走る選手が好きで、NZのテンポの速い、展開の速いラグビーをしていたので、(日本の)テンポの速いラグビーを楽しんでいます。

 日本でもニュージーランドでもラグビーという競技は変わらないが、これは良くも悪くもという部分ですが、日本のラグビーはテンポが速くて面白いラグビーになるが、その裏でテンポが速すぎるせいでミスが増え、トライしそうになったチームが反対側でトライされそうになっている。すごく大きな画で見たときに、日本のラグビーにとっていいのか悪いのかハッキリ言えないところですが、そういう違いがある。

 単純にテンポを遅らせるのではなく、テンポが速いことによる影響、例えば選手の疲れとか、疲れてくる選手が増えるとスキルの精度が落ちてきたりする。必ずしも遅らせた方がいいというわけではないが、(ゲームの)要素の一つではある。(テンポを上げすぎて)両チームとも誰もゲームをコントロールできていなかった(試合があった)」と説明した。

 リーグワン、日本のラグビーは海外から来た国際経験豊富な選手から「フィジカルはやや落ちるが、スピードがある」と評価されることが多い。ただオールブラックスの司令塔SOモウンガは、リーグワンの試合の中には「テンポが速すぎて、コントロールできていない試合がある」と感じたようだ。

プレーオフへ準備するFLフリゼルとSOモウンガ(右) (撮影:斉藤健仁)
プレーオフへ準備するFLフリゼルとSOモウンガ(右) (撮影:斉藤健仁)

◇〝優勝請負人〟が語るプレーオフの戦い方とは

 話を今週末から始まるプレーオフトーナメントに戻そう。SOモウンガは「精神的にも身体的にもとてもいい感じです。これから起こることへの興奮と期待で、いい緊張感です」と話した。

 負けたら終わりのプレーオフの戦い方を聞かれて「メンタル面では、小さな一つひとつの瞬間の重要性だと思っています。大きなことだけでなく、小さなことが大きな結果を生むのです。重要なのは、何が大事なのかに関係なく、自由でいること、プレーすること、すべてを見ること、そして楽しむことです。

 プレーオフ(への準備)は、シーズンを通して他の週と変わらないことが重要だと思います。もしプレーオフだからといってプレッシャーやストレスを感じてしまえば、それは試合に影響してしまいます。ハードワークしながらも、そのプロセスを楽しむことです。笑顔で、笑って、そしてその1試合に全力を注ぐことが本当に重要だと思います」と冷静に話した。

 あらためてチームの強みを聞かれると「ブレイブルーパスのゲームスタイルは本当にポジティブだと思います。私たちはボールを持って、パスを投げて、フィールドのあらゆる場所から走り回るのが好き。ですが、私がブレイブルーパスのラグビーで最も誇りに思っていることのひとつは、ボールのないところでの仕事、ディフェンスでの懸命な働き、そしてプレーに対するケアです。それが『東芝のDNA』だと思います」と語気を強めた。

◇27年W杯へ向けてオールブラックス復帰はあるか?

 リーグワンでもトップパフォーマンスを続けるSOモウンガは、当然、オールブラックスの新指揮官に就いたスコット・ロバートソンHCから熱視線を送られている。

 ロバートソンHCとSOモウンガは、昨年まで7年間、常勝軍団だったクルセイダーズを支え続けてきた間柄だ。NZの報道ではSOモウンガを早く、日本からNZラグビーに、そしてオールブラックスに復帰させたいという希望もあるようだ。

 ロバートソンHCは2月にリーグワンやブレイブルーパスの試合や練習にも視察に来て、SOモウンガはロバートソンHCと互いの近況を報告したという。「自分自身、プロフェッショナル選手としてロバートソンHCの指導ではないところでプレーするのはキャリアで初めてで、彼が見ている中でプレーできて良かった」(SOモウンガ)

 2027年ワールドカップへの思いを聞かれるとSOモウンガは「まだ3年先ということで、かなりいろんなことがこの2~3年で起きうると思いますが、現状、今このタイミングでやることは東芝に忠誠心があって、東芝のためにプレーしている。ただ日本でのプレーを評価してもらって、3年後、状況が許す中で、チャンスがあれば自分の国を代表して戦うことはいまだに誇らしいと思っています。パフォーマンスが評価されて状況が許せば、チャンスが巡ってくればプレーすることも選択肢の一つかな」と話すにとどめた。

昨年のワールドカップ決勝でプレーするSOモウンガ
昨年のワールドカップ決勝でプレーするSOモウンガ写真:REX/アフロ

◇モウンガが重きを置くのは東芝へのロイヤリティー

 あくまでもSOモウンガが強調するのは、ブレイブルーパス、そして東芝へのロイヤリティーだ。

東芝に来たのは、ベストを尽くしていいラグビーをするためだけではなく、ラグビーシステム全体とアカデミーのために、私が経験してきたことを、特に10番の選手、中尾隼太、松永拓朗らに伝えるためです。今年はラグビーに恩返しをする年、異なる世界のラグビーに恩返しをする年だと思っています。

 このような機会を最大限に活かさないのであれば、私は自分の仕事をしているとは言えません。特に私が熟知していること、それはラグビーなのですから。成功したことも失敗したことも含めて、私にはたくさんの経験がありますから、それを他の選手に伝えることは重要なことです」(SOモウンガ)

 準決勝の準備に入った9日、プレーオフトーナメントで絶対的な強さを見せるSOモウンガはプレゼンを行ったという。

「(モウンガの)7連覇、優勝している経験は頼りになる」というキャプテンのFLリーチ曰く、SOモウンガは「(プレーオフでは)『One chance,one opportunity』(が大事)。そのワンチャンスが、もしかしたら自分に来るかもしれないし、その機会も自分に来るかもしれないから、しっかり掴みましょう。1つのパス、1つのキック、1つのタックルで勝敗が決まるかもしれないから、(プレーオフを)楽しもう」とチームメイトに伝えたという。

 国際経験豊富な攻撃的司令塔SOモウンガが誰よりも一番、ラグビーを楽しみながらブレイブルーパスをリードした先にこそ14シーズンぶりの頂点が待っている。

東芝への忠誠心を強調するSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)
東芝への忠誠心を強調するSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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