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日本企業は「体育会系」大好き、日本社会は「運動部カルト」

橘玲作家
(写真:アフロ)

すこし前のことですが、ヘッドハンティングを仕事にしているひとの話を聞いたことがあります。新しい部署や事業部を任せられる幹部を、年収1000万円から3000万円で探すよう頼まれるのだといいます。

ヘッドハンターによると、日本企業と外資系企業では採用基準がちがうそうです。

外資系企業が評価するのは学歴・資格・職歴・経験、そしてなにより実績で、男女の別や国籍・人種は問いません。それに対して日本企業は「男性」「日本人」が当然の前提で、女性や外国人はそもそも検討の対象にもなりません。

こういうところに日本企業の差別的な体質が現われていますが、それは容易に想像できます。興味深いのは、外資系企業がまったく関心を示さないのに、日本企業にとってきわめて重大な属性があることです。それが「体育会」です。

「いつも不思議に思うんですけど」と、ベテランのヘッドハンターはいいました。「大学の運動部出身というと、どこも大歓迎なんです。“えっ、この程度の実績でいいの”と思うようなひとでも、どんどん採用されていきます」

顧客の再就職が決まると、その年収に応じてヘッドハンターに報酬が支払われます。逆にいえば就活中はタダ働きになってしまいますから、できるだけ早く決めたいと思うのは人情でしょう。そこで日本企業から求人のオファーがあると、大学運動部出身者を優先的に斡旋するのだそうです。

ヘッドハンターが日本企業の経営者や人事部長に「なぜ運動部出身者がいいのか」と訊くと、そのこたえは常に同じで、「組織の文化に合っている」からだそうです。彼らが求めているのは、権力に対して従順で、先輩・後輩の序列を重んじ、「右を向いてろ」といわれたらずっと右を向いて立っているような人材なのです。なぜなら、自分自身がそうだから。

ここまで読んで、あの事件を思い浮かべたひとも多いでしょう。

相手選手に悪質なタックルをした学生が記者会見で述べたように、日大のアメフト部は監督がすべての権力をもつ独裁者で、その指示が絶対であるのはもちろんこと、言葉による指示がなくてもそれを「忖度」できなければ試合に出してもらうことすらできません。選手もコーチたちも監督に気に入られることだけに必死になり、自分たちの言動がどれほど常識と隔絶しているか気づかなくなります。

これはまさに「運動部カルト」で、ここまで極端な例は多くないとは思いますが、体育会の体質はどこも似たようなものでしょう。そしてこれは日本企業の体質であり、日本社会の体質でもあります。

今回の事件にみんな憤激していますが、カルトが生まれるのはそれを容認する土壌があるからです。日本人は「体育会」が大好きなのです。

当たり前の話ですが、根性と気合と浪花節では冷徹で合理的な経営をするグローバル企業に太刀打ちできるはずはありません。

「無能な人材をよろこんで採用してるんだから、日本企業が国際競争から脱落するのは当然ですよ」と、ヘッドハンター氏は他人事のようにいいました。

『週刊プレイボーイ』2018年6月4日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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