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Spotify、楽曲を投稿できる新機能を無償で提供

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
Julia Michaels(写真:Shutterstock/アフロ)

Spotifyは、アーティストやレコードレーベルがリリース前の未発表曲をSpotifyのプレイリストキュレーションチームに直接送れる新機能を公開した。

このSpotifyの機能はベータ版で、世界で100人以上から構成されるSpotifyのプレイリストチームが、Spotifyで更新する独自プレイリストに楽曲を検討するために楽曲が活用される。

利用できるのは、SpotifyがレーベルやDIYアーティスト向けに提供する解析ツールやハウツーのガイドをまとめた「Spotify for Artists」サービスのアカウントを持つ人が対象となる。

「Spotify for Artists」の中にある解析ツールSpotify Analyticsから未発表曲を選択し、投稿することができるオプションが追加されている。Spotifyのプレイリストを編成するキュレーターたちは、投稿された曲と情報から、プレイリストにいれるべき曲を探す。

Spotifyは、楽曲を投稿する際に曲のジャンルやムードなどのデータや、曲で使用した楽器や、曲の文化背景など音楽情報を提供することを条件としている。

Spotify for Artistsからの注意

SpotifyはFAQの中で、楽曲投稿にあたり注意事項を提示している。

・早めに楽曲を投稿することを奨励する。最低7日前が目安です。一般的により多くの時間がプレイリストチームにあれば、プレイリストに組み込まれるチャンスは広がります。

・すでに発表済みの楽曲を投稿することはできません。

・曲を投稿しても、プレイリストへ追加が保証されるわけではありません。チャンスは広がります。

・各アーティストのプロフィールに付き、1曲のみの投稿が可能です(仮に数曲がリリース予定であったとしても)。投稿した曲がリリースされた後に、続けて未発表曲を投稿することは可能です。

・プレイリストの編集チームはクリエイティブコントロールの権利を保有します。そのため、リリースされた曲とは異なる曲をプレイリストに加える可能性があります。

・プレイリストに曲が追加された後、自身の意向で取り下げることはできません。プレイリストに組み込まれる時期は保証されません。リスナーの反響に委ねられます。

・Spotify for ArtistsのプロフィールやSpotify Analyticsにアクセス権限のある人(マネージャー、レーベル担当者など)も楽曲投稿を閲覧したり編集できます。全ての変更は該当するユーザーに共有されます。

・この機能は無償で提供されます。プレイリストに追加されるチャンスを得るために、Spotifyに報酬を支払うことは不可能です。また外部のインフルエンサーがプレイリスト編集チームに圧力をかけることもできません。

・曲のリリース日に投稿することもできますが、「Release Rader」に追加されるには最低7日前までの投稿が必要です。

出典:Spotify for Artists

Spotifyのプレイリストが音楽市場に与えた影響

Spotifyが展開する公式プレイリストには、毎週金曜日に更新される新曲のプレイリスト「New Music Friday」や人気曲がすぐ分かる「Today‘s Top Hits」、ジャンルに特化した「RapCaviar」「Viva Latino」「The mint」などがある。

さらに、個人のリスナーの音楽の趣味に合わせてパーソナライズされる「Discover Weekly」や、好きなジャンルに沿って新曲が提案される「Release Rader」なども展開されている。そして、Spotifyは毎週75000組以上のアーティストを公式プレイリストで取り上げ、15万組のアーティストの曲を「Discover Weekly」プレイリストでリスナーに届けている。

投稿される楽曲は、Spotifyのプレイリストチームがキュレーションするプレイリストだけでなく、アルゴリズムによって自動パーソナライズされたプレイリストにも反映される。

Spotifyは今回の新機能に関して、どのレーベルやアーティストもSpotifyに金を支払う必要はないと念を押している。資金力のあるレーベルが新人をプロモーションしたい場合でも、条件は無名の新人と変わらず、楽曲のクオリティに左右されることを強調している。

Spotifyはプレイリストの重要性を音楽市場に提案し続けてきた。音楽ストリーミングサービスの普及に伴い、楽曲の検索やリスナーとのマッチングが難しくなる中で、プレイリストは音楽業界が新曲や新人をリスナーにピンポイントで提案するプロモーションのツールとして重要な役割を担ってきた。また、ヒップホップやラテン、エレクトロニックミュージックなど、これまで日の目が当たりにくかったジャンルのアーティストたちに注目を集め、楽曲の再生につなげる役割も果たしている。このようなプレイリストの利用促進が、昨今のヒップホップやラテンのグローバルな音楽トレンドに少なからず貢献しているはずだ。

これまでレーベルやアーティストがSpotifyの公式プレイリストに楽曲を提案するツールや手法は存在しなかった。アプローチの一つとして浸透し始めていたのは、Spotifyのオフィスをアーティストが訪問してプレイリストのキュレーションチームに曲を直接提案することだったりする。

Spotifyの新機能は、プレイリストの楽曲プロモーションは広告枠と違って買えないことを音楽業界に対して改めて伝える意味がある。高いクオリティの曲や、時代背景や社会性の強い曲、そして何よりも次のヒット曲を提案することが、プレイリストの存在意義であり、広告で音楽を売る事との明確な差別化を強調している。

未だに広告でケンドリック・ラマーを売ろうとする日本の音楽業界には、今回のSpotifyの取り組みはどう見えるだろうか?

source:

Share New Music for Playlist Consideration (Spotify)

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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