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アメリカ側から見た片山晋呉のプロアマの一件。今、言えることは2つ

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
プロアマ戦でプレー中のタイガー・ウッズの表情は真剣そのもの(写真/舩越園子)

 片山晋呉が「日本ツアー選手権森ビル杯」のプロアマ戦で同組ゲストに「不適切な対応をした」問題が日本で大騒動と化している。

 青木功会長率いる日本ゴルフツアー機構(JGTO)は、すぐさまこの出来事を公表し、事実確認や処分の検討を進めているという。選手会長を務める石川遼は、すぐさまスポンサーやファンに対する謝罪声明を出した。

 米ツアーや世界のゴルフ界のプロアマの現状に直に触れ、プロアマの在り方を肌身で感じてきた青木や石川だからこそ、そうした迅速な対応ができたのだろう。

 昨今、米PGAツアーで行なわれているプロアマは、プロもアマチュアも楽しく賑やかにプレーしており、「とてもサクセスフルなイベント」と言っても過言ではない。

 米ツアーのプロアマの成功を支えているカギは何なのだろうか。米ツアーのプロアマの現状に目をやることで、日本で起こった今回の片山の一件への見方や受け取り方が多少なりとも変わってくるのではないだろうか。

【モチベーション1:感謝の心】

 米ツアーのプロアマは、通常は試合前日の水曜日に行なわれる。それとは別に、試合と直結していないプロアマというものも、スポンサーが開催を希望し、米ツアーが許可すれば、試合の週の月曜日に行なうこともできる。

つまり、場合によっては、試合の週の月曜と水曜の両方に出場する選手も出てくることになる。だが、それでも選手たちは丁寧な対応を見せる。プロアマの間は、自分の練習よりアマチュアとの交流を大切にするのは当然と考えている姿勢が、大半の選手たちから見て取れる。

なぜ、米ツアー選手はプロアマに協力的なのか。その理由は多々ある。

まず1つは「感謝」の気持ちを心底抱いているからだ。

経済的に決して恵まれてはいない家庭に生まれ育ち、学生時代も、プロ転向後の下積み時代も、ずっとお金は無かったが、ゴルフ用品メーカーや企業、地元のボランティアなどからの支援があったからこそ、ゴルフを続けることができ、プロになれたという話は、米ツアーには数えきれないほどある。

「誰かに支えてもらった」という実感は、自分がプロになってからは「誰かを支えてあげたい」「恩返しがしたい」という気持ちに変わる。ゴルファーやゴルフ文化、ゴルフの世界を「サポートしよう」という姿勢がたくさん見られれば見られるほど、その恩恵を授かったプロの人数が増え、彼らが示す「ありがとう」の姿勢も強まる。

「支え」「支えられ」の双方向のギブ&テイク。それが、プロアマを成功に導くための根幹になる。

【モチベーション2:賞金】

だが、ゴルフを生業としているプロなのだから、感謝の意だけでは仕事にならない。プロゴルファーなのだから、ゴルフをすることが、お金を稼ぐことにつながらなければ、彼らのモチベーションは上がらない。

ほんのひと昔前まで、米ツアーのプロアマ(注・試合に直結する水曜プロアマを指す)は、優勝した組に記念の木を賞品として贈り、ともに戦って勝利したプロとアマチュア3人(最大4人)は一緒にその木を植樹していた。

しかし、近年は記念植樹ではなく、多くの場合、賞金が贈られるようになった。その賞金は、米ツアーにあらかじめプールされている「プレーヤー・プライズ・ファンド(Player Prize Fund)」から出され、優勝組には約1万ドル、2位の組にはその半分の5000ドル前後、3位の組には、、、、という具合に、結構な額が贈られる。

このパットを沈めれば、優勝だ、1万ドルだと思うことは、プロにとって、いやいやプロアマをともに戦うアマチュアにとっても、大きなモチベーションになる。

ちなみに、日本ツアーのプロアマでは参加選手に一様に平均7万円ほどのギャラが支払われているそうで、順位に応じた賞金ではない。

こう言ってしまうと、「それじゃあ、アメリカの選手は、賞金が欲しいからプロアマに出る?」と思うかもしれないが、賞金はあくまでも戦う上での刺激にすぎない。プロアマで獲得した賞金はプロアマ参加者の懐に入るわけではなく、地元のジュニアゴルフ関連団体などへ寄付される。

つまり、米ツアーのプロアマに出るプロゴルファーは、賞金を目指して戦うものの、最終的にはタダ働き。

しかし、アマチュアと交流し、喜んでもらうことで、スポンサーや大会、ツアーにも喜んでもらえれば、それが自分の喜びになり、賞金を寄付して社会貢献ができれば、それがさらなる喜びになる。彼らは、そんなふうに考えている。

元王者であっても、いや元王者だからこそ、アマチュアへの対応は欠かさない。女性アマにもアドバイスしながらプレーしていた(写真/舩越園子)
元王者であっても、いや元王者だからこそ、アマチュアへの対応は欠かさない。女性アマにもアドバイスしながらプレーしていた(写真/舩越園子)

【モチベーション3:プライド】

米ツアーのプロアマに出る選手の中には、スポンサーが特別に選んだお気に入り選手も含まれるのだが、出場者のほぼ8割は「選ばれし上位選手」で占められる。

米ツアーのフェデックスカップランキングの125位以内の選手であることがプロアマに出ることができる第一の条件。言い換えれば、プロアマに出られる選手は成績優秀なエリート選手。賞金を目指して戦い、アマチュアを喜ばせ、社会に貢献できるチャンスがもらえることは上位選手の特権。そういう認識とプライドがプロたちの胸の中にある。

そのプライドが、彼らの言動、姿勢を立派なものへと導いていく。

プロアマに出るアマチュアは、スポンサーが招待したゲストもいるが、「私は出たい」と手を挙げ、2000ドル超の高額なエントリーフィーを払って自ら出場するアマチュアも結構多い。

アマチュアの側にも、自分の意志と自分のお金で、すべて自力でその場に立っているという自負がある。

プロとアマチュア、それぞれのプライドと双方の協力。その結集がプロアマの成功をもたらすのだと思う。

【ソリューション?】

片山の一件は、同組ゲストが怒声を上げて帰ってしまうに至った経緯やその瞬間を私は現場で目撃したわけではないので、正直なところ、片山にどんな処分が下されるのが妥当かといったことは、判断もコメントもしがたい。

だが、それでも言えることは、2つ。

1つは、自分の練習重視でアマチュアへの対応を軽んじた片山には、残念ながらプロとしての自覚が不足していたこと。

そして、もう1つ。プロアマの成功は、プロのみに期待や要求をするだけでなく、スポンサー、ツアー、選手、ファン、さらには地域社会との相互協力関係がしっかり強固になった上で初めて生まれるものであること。

日本では「片山に重い処分が下される可能性がある」とすでに報じられているが、それがすべての問題解決にはならないことを忘れてはならないと私は思う。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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