うれしい、理系の復権
2月16日の日本経済新聞朝刊の大学欄を見て、理系人口が再び増えていることにホッとした。理系の減少が長い間、続いてきており、これからの日本のモノづくりに先行きの不安を覚えていたからだ。ここ10年以上、理系の没落が叫ばれ、現実に理系が減り大学入試も簡単になったと言われていた。しかし、文科省が発表している学校調査を元に、工学部と理工学部の志願者の数を合計したグラフ(図1)によると2007~2009年を底に、増加傾向にある。
図1 工学系・理工学系がリーマンショック後増加 出典:日本経済新聞、2015年2月16日朝刊
かつて、理系離れが叫ばれたころは、経済が発展していた時期で、理系学生でさえ金融関係への就職が増加していた。理系・工学系の学生の就職先がモノづくり系から金融へのシフトは、実は金融商品としてのデリバティブと呼ばれる派生製品がもてはやされた頃と符合する。学生を求める金融業界は、数日後に派生商品の価値がどう高まるか、を予測する『ブラック・ショールズの式』と呼ばれる偏微分方程式を理解する必要があったからだ。偏微分方程式は、そもそも時間と共にあるパラメータが変化する様子を表す方程式であるからこそ、数学的な理解が欠かせない。理系学生はこういった訓練を受けてきているから、金融業界からの要請が出ていたのである。
しかし、ある程度これが定着しても理系離れは止まらなかった。それは正確なデータで議論するのではなく、雰囲気あるいは感覚といった勝手なうわさ話として伝わっただけにすぎなかった。2010年ころには、心理学や社会学などが人気を博していた(図2)。
図2 理系人気の衰え 2010年ごろの人気学部
しかし、実際の社会では、理系の方が給料は高く続くというデータも示されるようになった(図3)。文科系で就職してもその後の給料に理系・文系が反映されるとなると人々の事情は変わってくる。
図3 理系の方が年収は高い 出典:日本経済新聞2010年9月20日朝刊
理系か文系かの議論でよく言われることだが、理系の方がより実利的なデータやロジックで話を展開すると言われている。マレーシアの首相を長年務めたマハティール氏は医科大学出身で医師の資格を持つ。ドイツのメルケル首相は物理学の博士号を持っている。インドでは政治家や主導者はインド工科大学の卒業者が非常に多い。リーダーとしてのデータに基づく判断を行うのに理系出身者が向いているのかもしれない。現に、日産自動車のカルロス・ゴーン会長は元エンジニアだ。本田技研工業を創立した本田宗一郎氏は言うまでもなく理工系のエンジニアだった。
しかし、今の日本の政治の世界は別だ。理工系というだけで目の敵にされ、理工系をたたく傾向も強い。実際に理工系の優れた指導者は極めて少ない。一方で、理系は研究や技術開発だけやっていればよい、という風潮はないだろうか。だとすれば、優秀な理系経営者はつぶされてしまう恐れがある。一方の理工系のエンジニアはもっとお金を稼ぐことにも頭を使ってほしい。物理原理や法則を見つけたり、理解したりする能力は、大きな技術や経済・金融の流れを見出す能力にも通じる。残念ながら、一部の大手経営トップはテクノロジーの常識を持たなかったばかりに、重要な判断を誤り多くの人命を奪ったことを「FUKUSHIMAレポート」(日経BP刊)は語っている。
(2015/02/26)