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「節目が盛りだくさん」令和初の紅白 カギは「70回」と「東京五輪」

太田省一社会学者
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

今年の注目ポイントは「第70回」と「東京オリンピック・パラリンピック」

 11月14日、令和初となる『NHK紅白歌合戦』(以下、『紅白』と表記)の出場歌手が発表された。紅組21組、白組20組の計41組。初出場は紅組が3組、白組が5組の計8組となっている。

 ここ近年は、最初の発表時点ではまだ交渉中の歌手(今年も現在白組が1組少ない)やサプライズ出演する歌手がいるケースが多い。また歌合戦以外の特別企画が例年あり、そこに出演する歌手もいたりする。今年もそうしたことがあり得るだろう。

 それを踏まえたあくまで現時点の印象では、今年の選考は昨年の『紅白』をベースにしていると言えそうだ。

 昨年は北島三郎の復活、松任谷由実のサプライズ演出も含めたパフォーマンス、そして最後の“究極の大トリ”サザンオールスターズの盛り上がりと、『紅白』らしいお祭り感が発揮された年だった。司会の内村光良や嵐・櫻井翔の続投を見ても、昨年を継承しつつ今年もそんな熱気を再現したいということがあるのだろう。

 またこれは昨年に限ったことではないが、アニメ文化、YouTubeやライブの人気など比較的若い世代のトレンドを代表するアーティストを目配り良く選ぶ傾向も変わっていない。

 今年の初出場組では、アニメソングの代表的歌手のひとりであるLiSA、音楽にも熱心に取り組み、米津玄師による新曲なども話題になった俳優・菅田将暉、昨年から今年にかけて大きくブレークしたOfficial髭男dismやKing Gnuのバンド勢などがそうだろう。近年の『紅白』は、誰もが知るその年のヒット曲で一年を振り返るというよりも、世代によっては詳しくない新たな音楽のトレンドを網羅して紹介する番組になりつつある。

 とはいえ、今年2019年は色々と節目の重なった、番組史上まれな年でもある。令和初という以外にも、第70回という節目の年であり、かつ来年2020年に東京オリンピック・パラリンピック開催を控えた年でもある。特に「第70回」と「東京オリンピック・パラリンピック」という点は、今年の注目ポイントだろう。

美空ひばりの“復活”と『紅白』の歴史

 まず、70回という番組の歴史を振り返る企画として今回目玉になりそうなのが、美空ひばりの“復活”である。

 戦後の歌謡曲を象徴する存在であった歌手・美空ひばりが亡くなって今年で30年。最新のAI技術でよみがえった美空ひばりが、「川の流れのように」と同じく秋元康が作詞した新曲「あれから」を歌う。

 『NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり』(2019年9月29日放送)ではその舞台裏に密着し、すでに「あれから」も披露されている。AIと美空ひばりというのはミスマッチにも思える取り合わせだが、SNSなどではその再現度の高さも含めて予想以上に素晴らしかったという感想もかなりあった。最新テクノロジーを活用した演出は、近年のPerfumeのステージなどのように最近の『紅白』の特色のひとつでもある。

 美空ひばりは長年トリを務め続けた『紅白』の顔であったと同時に、出場をめぐっては紆余曲折もあった。1973年には家族の不祥事をきっかけに落選、連続出場が途切れた。そのことは一大事としてマスコミでもセンセーショナルに報じられた。最後の出場になったのは、それから6年後の1979年、特別出演で3曲を披露した第30回の『紅白』である。今回の“復活”は、それからちょうど40年というやはり節目の年ということになる。

2020年に向けたFoorin「パプリカ」は今年の代表曲

 東京オリンピック・パラリンピックの前年という点に関しては、初出場のFoorin(フーリン)が注目される。

 Foorinは、元々2020年に向けたNHKの応援ソングプロジェクトの一環として結成された小中学生男女5人組のユニットだ。米津玄師の作詞・作曲、プロデュースによる楽曲「パプリカ」はすでに昨年の『紅白』の企画コーナーでも披露されていたが、それもきっかけになり今年はダンスバージョンのYouTube動画の視聴回数が1億3千万回を超える(2019年11月15日現在)などますます人気が沸騰した。昨年のDA PUMP「U.S.A.」のパターンとも似て、近年のダンスカルチャーの浸透を感じさせる今年の代表的ヒット曲と言っていい。

 オリンピックと『紅白』の関係は以前から深い。その年の話題の人たちが登場する『紅白』では、オリンピックで活躍した選手がゲストで登場することも少なくない。なによりも『紅白』のこれまでの最高視聴率である81.4%(ビデオリサーチ調べ。関東地区)は、1963年、つまり1964年に開催された東京オリンピックの前年に記録されたものである。その年は、最後に恒例の「蛍の光」ではなく「東京五輪音頭」を全員で歌うほど、番組全体でオリンピックを意識した演出がなされていた。

 ただ今回が1963年と違うのは、海外への発信がより意識されている点だろう。すでに発表されているように、新たに英語ネイティブの子どもたちによる「Foorin team E」が結成され、「パプリカ」の英語詞バージョンも当日披露されることになっている。そのあたりは敗戦からの復興が背景にあり、どちらかと言えば意識が国内に向いていた1963年とはベクトルの方向が変わっている。

 今年の『紅白』は、2016年から始まった4か年計画の最終年でもある。その通しテーマが「夢を歌おう」だった。美空ひばりの思いがけない“復活”とFoorinの「パプリカ」もまた、それぞれのかたちで歌を通して「夢」を表現するものだろう。そんな過去と未来が交差するところにどんな光景を見せてくれるのか、そこに今年の『紅白』の成否がかかっていると言えるかもしれない。

社会学者

社会学者、文筆家。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として、『水谷豊論』(青土社)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。

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