【龍神、リオへ挑む】WLで初のキャプテンマーク。清水邦広に表れた変化と増す「1本の重み」
若手中心に変わった今季、南部監督の思いは
今シーズンのバレーボール男子日本代表はキャプテンとしてチームを支えてきた越川優や福澤達哉といった日本代表の顔だったメンバーが外れ、若手中心に変わった。
南部監督にとって、越川は高校時代から一番見守っていた選手だという、また福澤はパナソニックの監督として育ててきた選手。では、なぜ外したのかと。
南部監督がおっしゃるには、それは「若手の成長ため」。リオ五輪、そして東京五輪に向けて思い切って挑戦ができるのは今年しかない。ベテランに頼らず、若手が自分たちで戦うことにより成長してほしいと言う。
オリンピックを狙うチームを作るために、新たな戦力育成が最重要課題となる。
もちろん越川や福澤に対しての思いは変わらずあるように私は思う。
先日ワールドリーグを観戦に来ていた福澤と話したが、彼はもう一度、自分に足りなかったものは何かを考えながら客観的に冷静に試合を見てまた頑張る年にしますと話していました。越川も、自分を進化し高めるために新たにスタートしている。リオ五輪に向けては、若手もベテランも含め全ての力を合わせて戦うのだから、南部監督も2人の新たな進化を期待しているようだ。
キャプテンマークをつけると人は変わる
新たな全日本男子を作るために、思い切った「NEXT4」ら若手中心のチーム構成になったが、そこでキャプテンに指名されたのが阿部裕太だ。「この歴史ある全日本のキャプテンを引き継いだことでプレッシャーはあるけど自分のできることを一生懸命やりたい」と話していた。が、シーズン中のけがが完治せず、戦列を離れることになり本人が一番悔しい思いをしていると思う。ワールドカップに向け、いい状態でこの全日本に戻ってきてほしいと願っている。
そんな状況があり、今季スタートのワールドリーグでキャプテンになったのがゴリこと清水邦広。「代役の清水です」と本人は言っていたけれど、自分の立ち位置やテーマ、意識や雰囲気も変わってきたように思う。
若い選手を見て「僕も数年前はああだったんですよ」という。とにかく勢いとノリで「思い切りプレーしていいから、ミスしてもいいから思い切りやれ。それがチームの活力になるから」と。それが今の若い選手で、自分は今はそこではない。今は自分のプレースタイルを変えていかなければならない。
今年の南部ジャパンの技術アップの一つに、世界と戦うための攻撃力として、ブロックアウトを狙ったり、リバウンドをとってつないで切り返すなど、確かな技術を身に付けようということ。このチームで清水がやらなければならないこと、立ち位置も明確になり、変わってきた。新たなプレースタイルであり、1ランク上の選手になろうとしているのだ。
背負う重みは幸せの重み、清水にも変化が
そういうときにキャプテンになった。ちょうどいいタイミングだったのかなと思う。
「周りを見る余裕ないですよ。自分のことで精一杯」なんて言っていたが、キャプテンマークが自然と彼をキャプテンらしく行動させていた。キャプテンマークをつけると人は変わる。これはつけた人にしかわからない重みや責任。今までと見る景色が変わってくる。背負う重みは幸せの重み、名誉なことでもあるのだ。
そして「エース」という立場。1本の責任感から時として孤独になる。初戦のチェコ戦、1セット目を落としたあとのコートチェンジで反対側へ移動するとき、今までの清水だったら、“自分のせいで”とか“自分がこうしなきゃ”とかすべて自分で背負って無言の姿が多かったが、しかし今年はコートの真ん中、ポールのあたりくらいから、他の若い選手に、「切りかえて次いこうぜ」ってずっと声をかけながらベンチへ戻ってきた。
フランス戦(京都)、チェコ戦で活躍した石川祐希が思うような活躍ができずストレート負けした後にこんなふうに話していた。「石川君も今日は悪かったかもしれないが、何も考えずに思い切りプレーしてほしい。若手を伸ばせるようにもっと自分たちがフォローしていかないと。それを頑張ってやっていきたい」と。
キャプテンという自覚……本当のリーダーとしての意識になってきた。とても頼もしい。
もちろんその裏には「どうですか、俺のこのキャプテンマーク。似合ってんですかねぇ」なんてお茶目な姿も見られたが、いえいえしっかり似合っていると思う。自分でも会見で話していたが、「キャプテンとしては未熟で永野(健)さん、酒井(大祐)さん、鈴木(寛史)さんに助けてもらっている」と。周りに甘えられるようにもなった。うまい感じで自分の中でいろんなことが解決できるような環境になってきたなと。清水はプレーに入りすぎてしまうタイプなので、キャプテンになって背負っちゃったというよりも、少し上で余裕を持てるようになった。気負っていない感じも見えた。
結婚して身辺が変わったり、チーム(パナソニック)や全日本でもずっと一緒に戦ってきた福澤達哉がけがでいない、キャプテンの阿部裕太もいないという中で、自分が引っ張らなきゃといろいろ考えている……清水は今までのエースですごいという“怪物”から、違う次のステップに入ってきた。
大事な場面の1本、確実に決められる存在に
プレーヤーとして背負うものがキャプテンマークとエースで支える側。これからたいへんになってくる。
たとえば石川(祐希)が崩れてしまったとき、苦しい劣勢のときに清水に上がってくる1本の重み。今までなら「とにかく打ち抜け、思い切って勝負をしてみろ!」だったが、今はそれは若手にたくすシーンも増えてきたが。1本の種類、重みがこれまでとは違うのだ。
フランス戦(京都)3セット目の終盤、セットを取れるかというときに清水にトスが上がってきた。ミスをしてしまったが、あの場面では清水は決めなくてはならなかった。もちろん試合だから絶対はないけど、これからやっていかなければならないのはそういうところなのだろう。数は少ないけど、1本にかかる重み。そのためには自分でも技術が必要と言い、プレー面でも、「栗山(雅史)や石川(祐希)はうまい」と話している。そういうプレーを練習しているが、周りも清水にそれを求めてくる。
同じポジションの若手とも競い合い
清水のポジションにはフランスとの第2戦でスタメン出場した同じ左の松岡祐太もいる。彼は試合経験もまだ少ないが未知なる可能性を秘めていて伸び率がある。代表を勝ち取るようワンチャンスにかけている。また「NEXT4」の一人、高橋健太郎はけがからの復帰までもう少し。「いつか俺が清水さんのポジションを奪ってみせます」と気合を見せている。若手もぐんぐん来ている。
「絶対的な柱」として再なる進化を
全日本男子はまだ層が厚いとは言えない。選手同士が競い合う、そう切磋琢磨して高めあってほしい。今季はそのための大切な1年だ。だからこそ五輪を知る男、唯一の選手、清水の存在が重要になってくる。今も素晴らしい選手であることは間違いないが、日本の歴史に残る「絶対的な柱」として再なる進化を楽しみにしている。
リオ五輪に向け、それぞれの選手が今自分は何をしたら良いのかと、目標を持って鍛え、大きな日本男子の地層を築いたときに強い全日本男子と新しい時代が始まると思う。
進化を楽しみに見守って
その日を楽しみに是非皆さんにも見守っていただきたいと心から思います。
さあ、いよいよ大阪ラウンド。韓国戦が始まります。
■ワールドリーグ2015の結果(日本バレーボール協会)
■龍神NIPPONのメンバー(日本バレーボール協会)