ゲームに欠かせない雑誌達の実情は…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向をさぐる(2018年10~12月)
トップはVジャンプ…部数の現状
インターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視され、ゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる昨今。ゲームやエンタメ専門誌の部数動向を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から確認する。
まずは最新値にあたる2018年の10~12月期分と、そしてその直前期にあたる2018年7~9月期における印刷証明付き部数をグラフ化し、現状を確認する。
いくつかの雑誌で青よりも赤の方が短め、つまり部数が減少している様子が分かる。他方、差異はさほどないように見えるが、いくつかの雑誌で赤の方が長い、つまり部数が伸びている雑誌もある。最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で、前期とは変わり無し。
印刷証明付き部数を計上しているゲーム・エンタメ誌は、現時点で7誌。日本雑誌協会の情報公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」に該当する雑誌は皆無(ジャンル区分そのものは今なお存在している。かつては「マック・ピープル」「ネットワークマガジン」などがあった)。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。
前四半期からの変化を確認
次に四半期、つまり直近3か月間で生じた印刷数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が配慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。
プラスを示したのは「アニメージュ」「PASH!」「メガミマガジン」「アニメディア」の4誌。マイナスは2誌で、誤差領域(プラスマイナス5%以内)を超えた下げ幅を計上しているのは「声優アニメディア」のみ。
「声優アニメディア」は前期比で3割近い下げ幅を示しているが、これは前期の反動によるもの。前期では紙媒体への露出が少ない雨宮天氏が複数号に登場し話題を呼び、2018年9月号では「ラブライブ! サンシャイン!!」の特集を70ページにわたって実施したことで、部数アップが生じている。
グラフの動向の限りでは、今期はここ数年の緩やかな減少傾向に戻ったとの見方ができる。
「アニメージュ」は24.6%のプラス。
「アニメージュ」が大きなプラスを計上した理由は複数考えられる。例えば2019年1月号の「ゾンビランドサガ」特集が大きなものとして挙げられる。また2018年12月号の「ゲゲゲの鬼太郎」特集も部数アップに貢献したことだろう。
今ジャンルでは最大部数を誇る「Vジャンプ」は前期比で変わらず。
同誌は特集や付録で多分の上下感を見せるものの、おおよそボックス圏(青色)内での部数を示していたが、2013年4-6月の突出した値を最後に新たなボックス圏(黄色)を形成する部数動向となった。しかし2017年1~3月期に底抜けをし、その後も回復は見せず、さらに新しいボックス圏(オレンジ色)を形成したと解釈できる動きをしている。少しずつ、確実に部数を縮小しているように見える。直近の18万部は前期比で変わらずだが、記録のある限りでは最少の部数。
ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論であり、「Vジャンプ」の必勝方程式だったはず。その方程式にゆがみが生じたのか、あるいは代入できる要素=ゲームが空振り状態なのか。
なお「Vジャンプ」は電子雑誌方式については、紙媒体誌を購入した人限定で閲覧できる仕組み「購入者特典」の形での提供。電子書籍版のセールスが伸びたので今件値(紙媒体として印刷された部数)が減っているとの解釈は難しい。
前年同期比ではどうだろうか
続いて前年同期比を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べれば長期間の動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。
プラス誌は皆無。プラスマイナスゼロは「Vジャンプ」のみ。誤差領域を超えたマイナス計上誌は「Vジャンプ」以外すべて。
特に「PASH!」は2割を超える下げ幅が目に留まる。
「PASH!」は2016年後半には「ユーリ!!! on ICE」の特集による特需的な大きな盛り上がりを見せたものの(2016年10~12月には5万3233部を記録)、その後失速。失速後は特需前の最小値をさらに下回る水準で推移している。現状は反動だけでは無く、純粋に軟調さの中にあると解釈した方がよさそうだ。
アニメ関連雑誌としてはライバル的な存在、関連業界では「三大アニメ誌」とも呼ばれている、具体的には「アニメージュ」「アニメディア」「ニュータイプ」の動向。「ニュータイプ」の部数が非公開となったため、今回も残りの「アニメージュ」「アニメディア」のみ、データの継続反映をさせた上で、状況の精査を続ける。
「アニメージュ」と「アニメディア」の2誌間で順位変動が起きた後、そのポジションが維持されたまま、3誌とも部数を下げていた。その後順位はしばしば入れ替わり、もみ合いの形を維持している。最近では2016年1~3月期で両誌とも「おそ松さん」特需で跳ねた際に立ち位置が逆転し、その状態が現在まで続いている。なおグラフ中の「Q1」とは第1四半期、つまり1~3月期を意味する。
直近値では「アニメージュ」3万6783部、「アニメディア」2万7767部。両誌とも部数を増やしているが、前期と比べると両誌の差異は広まった計算となる。
非公開化直前の「ニュータイプ」は「アニメージュ」「アニメディア」とさほど変わらない部数だったことから、昨今のつばぜり合いにおいてどのようなポジションを示しているのか、大いに気になるところ。しかし非公開である以上、その願いはかなうことは無い。
日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は縮小を続けている。少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も当ジャンルの低迷は続くことだろう。
■関連記事:
子供達が「妖怪ウォッチ」を受け入れた理由(上)…メディアミックス編
※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数では無い。売れ残り、返本されたものも含む。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。