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学校の友だちはなぜブロックできないの?

橘玲作家
(写真:アフロ)

大阪市の小学校6年の女児が誘拐され、栃木県小山市で保護された事件が波紋を広げています。逮捕されたのは35歳の男性で、母親が祖母の介護のため母屋に移ってからは、一軒家の自宅で一人暮らしをしていたようです。高校卒業後はアルバイト生活だったといいますが、近所のひとも実家に住んでいることは知らなかったらしく、ひきこもりのような生活をしていたのでしょう。

この事件が全国の(女の子のいる)親に衝撃を与えたのは、小学生の女児を監禁していた家で15歳の女子中学生も保護されたことです。

Twitterには「#神待ち」「#家出少女」などのハッシュタグがあり、たくさんの10代の少女が泊めてくれる男性を探しています(困っているときに助けてくれるのが「神」ということのようです)。今回、保護された2人もSNSで男性と知り合ったようで、報道によると、男性は「自分はたんに人助けをしただけだ」と主張しているとのことです。

中学生や高校生の女の子が親と衝突して家出するのはむかしもよくありましたが、友だちに頼るのも限界があり、早晩、実家に戻ってくるケースが大半でした。ところがいまでは、SNSで「神」を募集すれば、面倒を見てくれる大人をかんたんに見つけることができます。これほど家出のハードルが下がれば、親は自分の娘がスマホでなにをしているのか疑心暗鬼にならざるを得ません。

それに加えてここでは、ネットが子どもたちの価値観を変容させている可能性を考えてみましょう。

SNSでは好きな友だちだけをグループに入れたり、不愉快なメッセージをブロックすることがかんたんにできます。このようなコミュニケーションに小さいときから親しんでいると、ブティックで好きな洋服を選んだり、レストランで好きなメニューを注文するのと同様に、人間関係も自由に選択できるはずだと思うようになるかもしれません。

ところが学校は、同じ地域に住む同い年の子どもを集めて、ランダムに割り振ったクラスに「収容」します。学校の原型は軍隊で、産業資本主義の要請によって、勤勉な工場労働者を訓育することを目的につくられました。軍隊も工場も組織を効率的に動かすことが最優先で、好き嫌いにかかわらず、たまたま出会った他人といかに協力・協働するかを教え込んだのです。

クラスには、気の合う子もいれば、イヤな子もいます。「そんなのは当たり前だ」と大人は思うでしょうが、SNS世代にとっては、これはものすごく「異常」なことなのかもしれません。そんな環境に馴染めず学校にいづらくなると、とりわけ早熟な女の子は、SNSにはいくらでも「別の場所」があることに気づくのです。

不登校問題では、「学校に適応できない子どもをどうするか」が議論されます。しかし子どもの立場からすると、「問題」なのは古色蒼然たる(前期)近代の学校システムなのです。

デジタルネイティブの子どもたちは、自由に好きな友だちを選んだり、イヤな友だちをブロックできない「リアル」な世界を理解できなくなっている……。だとすれば私たちは、「子どもに適応できない学校をどうするか」を真剣に考える時期に来ているのかもしれません。

『週刊プレイボーイ』2019年12月16日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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