債券先物と現物債との関係とは
日銀は5日に「わが国株式市場における先物価格と現物価格の関係」と題するワーキングペーパーを公表した。これがきっかけとなってか、ツイッター上で日経平均は先物で操縦できるかどうかとの論争も起きていたようである。先物などデリバティブ取引は魚で言えば尾っぽのようなもので、それが本体まで動かせるのか。報道などでも先物主導で相場下落、との表現がなされることも良くあるし、私もそのような表現で市況を書くこともある。果たして現物取引に対し、どれだけ先物などのデリバティブが影響を及ぼせるのか。それを債券市場で考察してみたい。
日経平均先物と債券先物と呼ばれる長期国債先物では、ひとつ大きな違いがある。債券先物は現引き・現渡しが可能という点である。たとえば現在の長期国債先物の中心限月となっている6月限は6月11日が最終売買日であり、その日を過ぎても6月限のポジションを持っていると現引き、もしくは現渡しをする必要がある。つまり6月11日を過ぎても100億円の買いポジションを持ったままだと、100億円の国債を引き受けなければならない。これに対して日経平均先物は差金決済で終了となる。もちろん債券先物も売買最終日の引けまでに反対売買すれば、それは差金決済で処理される。
長期国債先物には現引き、現渡しがあるが、その対象となる国債は、受け渡し適格銘柄と呼ばれる残存7年以上11年未満の10年利付国債である。買い方、つまり現引きする人は銘柄を選定できないが、現渡しをする売り手は銘柄を自分で選べる。そうとなれば当然、最も割安な銘柄を選択することになる。この最も割安な銘柄がチーペストと呼ばれる。現在の長期国債の仕組みと現状の金利体系から、そのチーペストは最も残存期間の短いものとなるため、それは残存7年の10年利付国債となる。長期国債先物の価格も理論上は、このチーペストの動きと連動する。
4月4日の異次元緩和後の債券市場の動きをみると、売りの主体が変化してきていたことがわかる。株式市場の場合にはいろいろな銘柄があり、やはり状況によりどの業種が動いたのかが注目されると思うが、国債市場の場合に注目されるのが、どの残存期間の国債が大きく売買を伴って動いていたのかがポイントとなる。それである程度、売り手も推測されることになる。
4月5日の乱高下に際しては特に中期ゾーンが商いを伴って動いていた。この場合の動きというのは単純に前日比の利回りの変化だけで捉えるべきものではない。そもそもこれまで日銀が大量に購入してアンカーのような役目も果たしていた中短期債に動揺が走ったのが確認できたのである。つまり異次元緩和でむしろアンカーが外れてしまったことに市場は驚いたと言える。その中期ゾーンの売り手はのちほど都市銀行であったことがある程度確認されている。 その後、超長期債市場にも動揺が走り、それが顕著となったのは業者のオファーとピッドの乖離である。業者もリスクが取れなくなるぐらいに、超長期債への流動性リスクが高まってしまったのである。
このような際に、当然ながらヘッジ手段として債券先物も売られるが、少なくとも4月上旬の債券相場の変動は先物主導とはいえず、現物債が主導であったと思われる。
ところが5月10日のドル円の100円突破をきっかけとした債券相場の下落は、あきらかに先物主導と言えた。正確には10年債と先物を中心に売られていたわけだが、流動性の高いものを主体に売りが入っていた。これはつまり債券先物市場での売買シェアが4割程度と高い海外投資家主導で動いていたと想定されるのである。先物主導で動くと残存7年の国債が動くことになり、2年、5年、10年、20年、30年、40年のそれぞれ直近に発行されたカレントもののうち、7年に近い5年債や10年債に動意が見える。これは先物主導で相場が動いたとみても良いかと思う。
ただし、これまで海外ヘッジファンドによる、日本の財政悪化を意識した売り仕掛けとかはことごとく失敗していた。これは先物で売りが入っても、押し目買いのチャンスとして国内投資家が現物を買うなどしていたからである。ところが、5月10日以降、長期金利が上昇し23日に1.000%をつけたのは、国内投資家も同じような相場観で望んでいたためと思われるのである。