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ドンナルンマ、ミランと決別は正解だったのか? 「背後にレアルやユーヴェ」の声も…

中村大晃カルチョ・ライター
2016年12月のクロトーネ戦でのドンナルンマ(写真:アフロ)

ミランのマルコ・ファッソーネCEOが15日、ジャンルイジ・ドンナルンマとの契約延長交渉が決裂したことを発表した。「バンディエーラ(旗頭)はもう生まれない」と言われる現代サッカー界。ミランとの愛の物語に終止符を打ったドンナルンマは、どこへ向かうのだろうか。

終了間際のPKでユヴェントスに敗れ、サポーターに向けてユニフォームのエンブレムにキスをしたのは、わずか3カ月前のことだった。先日発売された『GQ』(インタビューは5月末)では、パオロ・コンドー記者にミラノ中心部の家を探しているところだと明かした。だが、ドンナルンマはミランを去ることを選んだ。

カカーのポスターを部屋に貼るなど幼少期からミランファンだったドンナルンマは、紛れもなくサポーターのアイドルだった。弱冠16歳のデビュー以降、正守護神として信頼されていた彼は、間違いなくバンディエーラ候補だった。それだけに、サポーターは失望している。すでに「Donnarumma」にかけて「Dollarumma」というハッシュタグも生まれた。金に目がくらんだという揶揄だ。

◆敏腕代理人の存在

確かに、ドンナルンマの後ろには、金を生み出すことにかけて天才的な敏腕代理人がいる。ミーノ・ライオラが「守銭奴」と罵られるのは、今に始まったことではない。ただ、彼が選手にとって有能なエージェントという見方も少なくないのは事実だ。そうでなければ、ズラタン・イブラヒモビッチやポール・ポグバといった超一流選手のマネジメントを担当し続けることはできない。

今回の件でも、ライオラが強調していたのは、クラブの将来に対する懸念だった。中国資本となったミランの先行きはまだ不透明だ。ライオラは「新生ミランはドンナルンマにふさわしいか」という点を重視した。焦点のひとつだった契約解除金の設定要求も、今はバラ色に見えるミラン再生計画がうまくいかなかったときの保険として将来的に移籍できる道を残しておくためだ。

ただ、『コッリエレ・デッラ・セーラ』のアリアンナ・ラヴェッリ記者は、『milannews.it』で「契約解除金も議題だっただろうが、最初から互いを好んでいなかったという印象」と述べている。確かに、ライオラは身売りの前から新体制への疑念を隠していなかった。ミランの新首脳陣はライオラと良い関係を築けなかったのかもしれない。マッシミリアーノ・ミラベッリSDとの衝突を報じる声もある。

◆「ミランはやるべきことをすべてやった」

キャリアのためならクラブやファンのことなどお構いなしというライオラへの批判があるのは、ある意味で当然かもしれない。ただ忘れてはいけないのが、これはライオラだけの決断ではなかったということだ。ファッソーネCEOも会見で「選手による最終的な決定」と述べている。

ではなぜ、ミランと相思相愛だったはずのドンナルンマは決別を選んだのだろうか。

おそらく、金ではないだろう。ファッソーネCEOは実際に提示した条件が報道されていた以上だったと明かしている。年俸500万ユーロ(約6億円超)はあったとみられており、5年総額で2500万ユーロ(約31億円)だ。もちろん、欧州のメガクラブはさらに良い条件を出せるだろうが、この年齢で2500万ユーロに満足しない選手はいないはずだ。

金銭的なことだけでなく、ファッソーネCEOとミラベッリSDが契約延長のためにできる限りを尽くしたという見方は少なくない。『スカイ・スポーツ』のペッペ・ディ・ステーファノ記者や『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のマルコ・パソット記者は、「ミランはやるべきことをすべてやった」と強調している。

◆ちらつくメガクラブの存在

それでも、ドンナルンマは首を縦に振らなかった。ファッソーネCEOは「金銭的、技術的、そして個人的な評価」の末の選手の決断だったと述べている。特に「個人的な評価」が何を指すのかは不明だが、イタリアメディアが勘ぐっているのは、メガクラブからの関心だ。

すでに新天地の候補としてレアル・マドリーやパリ・サンジェルマン、マンチェスター・ユナイテッドなどの名前が挙がっており、ディ・ステーファノ記者は「彼がミランから動くのは、ひとつのクラブのためだけ」と、マドリーがドンナルンマの希望と報じた。

もちろん、イタリア王者ユヴェントスの名前も挙がっている。ジャンルイジ・ブッフォンの後継者を必要とするユーヴェは、ヴォイチェフ・シュチェスニーとの合意が報じられているが、正式発表には至っていない。彼らはドンナルンマの去就動向を絶えずチェックしていると言われる。

また、『milannews.it』によると、コンドー記者は『GQ』編集部が発売3日前にドンナルンマ周辺とコンタクトを取り、契約延長と保証されたうえで発売に踏み切ったと明かしている。同記者は「今週、何かあったに違いない」と述べた。

◆干すのか、売るのか?

すでにドンナルンマが他クラブと接触しているかは不明だ。ただ、2018年の契約満了を待つのは、ミランと選手の双方に不利益となる。前者は移籍金を得られず、後者はワールドカップイヤーに出場機会を失うからだ。

それでも、サポーターからは「干せ」との声があがっている。契約残り1年で退団が決定的とあり、若いドンナルンマであっても、超高額の移籍金を望むことはできない。“ある程度”の移籍金に屈するくらいなら、「強いクラブ」の姿勢を打ち出すべきというわけだ。

『メディアセット』のアンケートでは、4万人近いサポーターのうち、54%が干すべきと回答した。即座の売却を求めたのが43%。来年までレギュラーとして起用すべきというファンは3%だった。同メディアのアレッサンドロ・フランケッティ記者も、ミランは選手をベンチに置くべきと主張している。

だが、レギュラー起用は現実的でないだろう。また、座らせる場所がスタンドだろうがベンチだろうが、ドンナルンマをチームに残せば、ミランは「厄介ごと」を抱え込んだままとなる。ディ・ステーファノ記者は、8月半ばになればミランが売却に扉を開くと予想し、それが両者にとって最善と述べた。

◆批判多数だが、理解を示す声も

いずれにしても、ドンナルンマはミランのバンディエーラになることを選ばなかった。その選択が良かったのかどうかは、誰にも分からない。

サポーターは当然、批判的だ。『ガゼッタ』電子版のアンケートでは、8700名超のユーザーのうち、86%がドンナルンマの選択を否定した。

元ミランGKのジョヴァンニ・ガッリも「そこらのクラブではない。ミランだ。何も分かっていない。彼には説明する権利、そして何より義務がある」と怒りをあらわにしている。

一方で、やはり元ミランのアレッサンドロ・コスタクルタは「ある意味で理解できる。批判できることとは思わない。勇気ある、そしてリスキーでもある選択」との見解を示した。

◆元「バンディエーラ候補」の未来

ロマンだけでは成り立たなくなっている現代サッカーでは、バンディエーラどころかバンディエーラ候補まで減っている。一抹の寂しさを覚えるファンも多いことだろう。

だが、サッカー選手のキャリアは十人十色であり、その途中の選択におそらく正解は存在しない。

フランチェスコ・トッティはタイトルよりクラブ愛を優先したが、最後はそのクラブに引導を渡された。イブラヒモビッチは各国であまたのトロフィーを手に入れたが、チャンピオンズリーグ制覇やバロンドールには届いていない。

ドンナルンマには、これからどんなキャリアが待っているだろうか。気になるのは『メディアセット』のカルロ・ペッレガッティ記者のコメントだ。

「アルフレード・マンニ(ミランGKコーチ)がいなければ、成長面で問題になることは確かだ」

忘れがちだが、ドンナルンマは2月に18歳になったばかりだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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