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コロナワクチン 英国ではどうやっている? 体験者の視点から

小林恭子ジャーナリスト
ワクチン接種会場で市民を激励するジョンソン首相(No 10 Flickrより)

 日本でも新型コロナワクチンの接種が本格的に開始されたが、予約段階での問題が指摘されている。

 東京に住む母に電話をすると、「予約用電話がつながらない」、「ウェブサイトで申し込もうとしたら、途中で画面が止まった」、「誰に聞いても、回答を得られない」など、不満を伝えられた。

 筆者の友人のフェイスブックでの投稿を見ると、「ウェブサイトで簡単に予約できた」という声がある一方で、「高齢の親のために電話予約をしようとしたが、うまくいかなかった」という人もいた。

 日本のワクチン接種状況が「遅い」とした場合、その理由は何なのか。ワクチン開発段階からさかのぼって、NHKが詳しいリポート記事を出している。

ワクチン接種 なぜ日本は遅い?【前編】

ワクチン接種 なぜ日本は遅い?【後編】

 接種体験者として、英国では具体的にどのように行われているのかを紹介してみたい。少しでもご参考になれば、幸いである。

成人人口の約70%が接種済み

 その前に、まず現状の把握だが、英政府が毎日発表するコロナ関連のデータによると、人口約6700万人(日本の約半分)で、1回目の接種を終えた人は約3600万人(2回目まで終えた人は約2000万人)。18歳以上の成人人口の中で、70%近い人が少なくとも1回目を接種済みだ。

(政府のコロナデータのウェブサイトより)
(政府のコロナデータのウェブサイトより)

 これまでに約5億回分のワクチンを注文済みだ。単純計算では一人2回接種するとした場合、2.5億人分を確保していることになる。

優先順位は高齢者から、5歳毎に区切った

 誰から先に接種するべきか。免疫学者を中心とした、政府にアドバイスをする組織「JCVI」が優先順位のリストを作り、これに沿って接種が進んでいった。

 優先順位を決める際のポイントは、「死者を防ぐ」こと。コロナに感染し、重症となって亡くなる方の大部分が高齢者だった。そこで、ケア関係者やワクチン接種が必要な疾病を持つ人といった特別なグループとともに、「高齢者」をまずはトップに置いた。

 ワクチン接種での高齢者は、日本の場合は「65歳以上」だったが、英国の場合は「5歳毎に区切る」方針を取った。最初から高齢者全員を対象としてしまうと、予約が殺到したり、接種体制が追い付かなくなったりすることを懸念した。

 当初の「9つのグループ」は以下である。

 (1)ケア施設にいる高齢者とそのケアをする職員

 (2)80歳以上及び医療分野・ソーシャルケア分野の前線で働く人

 (3)75歳以上

 (4)70歳以上及び医療上の理由からワクチンを接種した方が良い人

 (5)65歳以上

 (6)健康上の問題を抱える16-64歳の人

 (7)60歳以上

 (8)55歳以上

 (9)50歳以上

予約・実際の接種までの体制を一元化

 ワクチンの予約・実施体制は、日本のように各市町村がではなく、国営の「国民医療サービス(NHS)」が中央集権的に一元化する仕組みを導入した。このため、国民ができることは「自分の番が来るのを待つ」だけ、となった。

NHSに連絡をしない・電話をしないように

 「NHSに問い合わせだけのために連絡をしないように、電話をしないように」というメッセージが頻繁に繰り返された。「NHSから連絡が来るまで、待っているように」、と。

 待っていると、NHSが手紙や電話で「あなたの番が来ました」と教えてくれる。

手紙をもらったら、電話やネットで予約

 自分の番が来たことを告げる手紙をもらったら、手紙に書かれている番号に電話するか、ネットで予約する。

 ちなみに、人によって状況は異なるが、電話ではかかりにくいことがあったと言われている。筆者も家人が1回目の接種後、必要があって、NHSのワクチン受付専用電話にかけてみると、通じることは通じたが、10分ほど待たなければならなかった。

ワクチンが余ったときはどうする?

 「余ったワクチンをどうするべきか」が話題になっているようだが、実際に接種が始まってみると、「予約を入れたのに来ない人」が出たり、「瓶の中に余った分」があったりなどの事態が生じた。

 また、当初は「あなたの番が来ました」という手紙を受け取ってもすぐに予約を取らない人もいて、「接種者を集める」必要が出た。

 そこで、予約が十分に埋まらない接種施設や急にキャンセルが出た施設が、高齢者がいる家庭やケア施設、学校などに電話をし、「来週、来れますか?」、「今から来ませんか?」といった誘いかけをするようになった。

 こうして、なるべくワクチンを無駄にしないように、粛々と接種が進んだ。

 ここで、「高齢者がいる家庭の電話番号をどうして知っているのだろう?」と思われるかもしれない。

 それは、接種運営体制をNHSが管理していたことによる。NHSはピラミッド型に構成されており、広い裾野部分にあるのが、一般的な治療を行う一般医と医療クリニック。専門治療はその次の層にある、病院になる。

 一般医は患者の個人情報を持っているので、ここからワクチン接種の電話連絡をすることができるのである。

今はネット予約が主流

 今ではネット予約が主流だが、そのやり方は非常に簡単である。

 予約用ウエブサイトに行って、接種の手紙に書いてあった番号、自分のNHSの番号、そして住所の郵便番号を入れると、利用できる接種場所のリストが出る。

 ここから場所を選び、希望の日時を予約する。数分で完了する

 例えば80代の高齢者がどれほどスムーズに予約できたのかは分からないが、非常にシンプルな作りになっているので、少しでもインターネットを使ったことがある人であれば、それほど迷わないだろう。あえて例えれば、アマゾンでモノを購入するプロセスと同じか、それ以上に簡単だ。

 一画面に1つの質問があり、2択の答えの中から1つを選ぶ。その後、次の画面に進み、また一つの質問に答える…といった具合だ。使われている英語もシンプルで、日本でいうと中学校で学ぶ英文のレベル。

 20日時点で、筆者が住むイングランド地方では34歳以上が接種対象者となっている。スコットランド地方では30歳以上(一部は18歳以上)、ウェールズ地方は18歳以上、北アイルランド地方は25歳以上だ。

(NHSの予約用ウェブサイト。19日時点)
(NHSの予約用ウェブサイト。19日時点)

NHS関係者、ボランティアを大動員

 当初から、コロナのワクチン接種を早急に、国内全体で一気に進める必要があった。

 それでは、大きな、国民的事業を一気に進めるにはどうしたらいいのか?

 予約という最初の段階をクリアした後、「十分なワクチンがあること」、「打てる場所があること」、「人員がいること」が肝心だ。

 ワクチン確保はすでにやっているので、今度は場所と人員だった。

 政府はNHSの約130万人の人員から協力を得るとともに、NHS退職者の参加も募った。また、国民からボランティアを募集した。これには約20万人が応募したという。

 場所は特設会場の他に、展示場、教会、地域のコミュニティセンター、病院、医療クリニックなど約2800カ所が準備された。

実際に会場に行ってみると

 筆者は家人の接種2回に付き添い、自分でも1回目を接種してもらった。

 家人の場合は中程度の医療クリニックが接種場所だった。クリニックの前には白い大きなテントができていた。

 近寄ってみると、ボランティアと思われる人が何人も立ち、訪問者の整理をしたり、名前のチェックをしたりしていた。

 ほかの人の後ろに並んでクリニックの建物の中に入っていくと、小部屋に招かれた。名前を告げると、コンピューターで本人かどうかを確認された。看護師と思われる女性が家人の腕の上部にワクチンを注射。

 その隣の広い部屋に移動し、15分間、椅子に座った。「接種直後のアレルギー反応が出るか出ないかを見るため」である。白いテントもこのために準備されていたのだった。

 15分後、特別な反応はなく、帰宅した。

 後日、筆者は小さめの医療クリニックで接種。流れはほとんど同じだった。

 家人も筆者も、接種後、クリニックで接種者カードをもらっている。

 接種後数日は体がだるかったり、頭痛が出たりしたが、接種時にもらったパンフレットに副作用が出るのは普通と書かれていたので、心配はしなかった。

政治家や著名人の広報活動

 ワクチン接種を拡大するため、政治家は接種の様子を取材させたり、会場を訪れてNHS職員や市民、ボランティアなどを元気づけたりしている。英王室も接種奨励活動を行っている。

 日本でも、ワクチン接種が大きく広がることを願っている。

接種の様子を撮影させた、パテル内相(No 10 Flickrより)
接種の様子を撮影させた、パテル内相(No 10 Flickrより)

イスラム系市民のワクチン接種率を向上させるため、モスクを訪れたハンコック保健相(左)(No 10 Flickrより)
イスラム系市民のワクチン接種率を向上させるため、モスクを訪れたハンコック保健相(左)(No 10 Flickrより)

 接種会場として使われている、ウェストミンスター大寺院を訪れたウィリアム王子(右)
接種会場として使われている、ウェストミンスター大寺院を訪れたウィリアム王子(右)写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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