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中国当局「日本人に電極拷問」報道の舞台裏

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
公安調査庁が入居する中央合同庁舎6号館A棟

中国で日本人がスパイ容疑で相次ぎ拘束されている。当初の報道では、拘束されているのは男性2人(5月拘束)とされていたが、後になって、6月にもう1人拘束されていたことが明らかになった。そして28日、さらにもう1人の女性が、6月に上海市内で拘束されたことが中国当局により明らかにされた。

だが、デイリーNKジャパンが入手した情報によれば、中朝国境地帯でさらに複数の日本国籍者が拘束されているとされ、水面下ではより規模の大きな事態が進行している可能性がある。

この問題をめぐり、週刊文春の10月29日発売号が、「『中国拘束 日本人スパイ』が 『電極拷問』を受けている!」と題したスクープ記事を打っている。著者名の明かされていない、いわゆる「編集部原稿」だが、同誌発行元の文藝春秋関係者によれば、「記事を書いたのは元文春記者の人気作家A.I氏」だという。

その内容は、今年5月に中国当局によって「スパイ容疑」により拘束された日本人男性が、高圧電流による「拷問」を受けているとする衝撃的なものだ。

筆者は10月1日に書いたコラムで「中国が『スパイ容疑』の日本人に拷問している可能性」と題し、そうした事態があり得ることを指摘していた。

その根拠は、明らかにされている例としては外国人として唯一、中国当局から「電極拷問」を受けた韓国の人権運動家・金永煥(キム・ヨンファン)氏の証言を聞いていたからだ。

A.I氏は、「EU諸国の情報機関が極秘に運用している中国政府内の協力者」から、「拷問」の衝撃情報を入手したという。その「協力者」の正体については週刊文春の編集部内にも知る人はなく、公安当局者も「いったい、そんな情報がどこにあるんだ!」とてんやわんやになっていると聞く。

A.I氏は、どうやら金永煥(キム・ヨンファン)氏を取材したわけではなさそうだが、仮にデイリーNKジャパンの報道が何らかの参考になったとしたら、この場を借りて歓迎の意を述べておきたい。

ともあれ、同氏が指摘している様に、安倍首相は拘束された日本人を「見殺し」にする態勢に入っていると言わざるを得ない。

それは一義的には、菅義偉官房長官が9月30日の記者会見で無用なコメントを発した、初動ミスによるところが大きい。

しかしその後、事態がこう着してしまったのは、大手マスコミにも責任がある。背景に、公安調査庁が民間人に情報収集を依頼していた事実があるのは明らかなのに、「外国人の活動に神経をとがらせる中国当局の姿勢が浮かぶ」(朝日新聞10月26日付)などとして、中国当局の治安体制が原因であるかのような報道ぶりなのだ。

この問題の本質は、そこにはない。日本が今後、インテリジェンスとどのように向き合うかが問われているのだ。それなのに、普段は「国防」を論じるのが好きな保守メディアですら、安倍政権のミスを矮小化したいのか「日本に必要な諜報」に言及しようとしない。

欧米に比べインテリジェンス活動が遅れていると考えられがちな日本にも、かつてはCIAなどから称賛を浴びた「凄腕スパイ」はいた。

しかし日本には、そうした人材をマネジメントできる仕組みがないのだ。その仕組みのないことが、中国から一方的に「諜報攻勢」を受け、何ら対応できない事態にもつながっている。

この機にそれを論じられないならば、一体いつ、論じるというのだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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