近視なら要注意!サンボマスター山口さん網膜剥離の原因と症状・治療法を眼科医が解説
11月11日、サンボマスターの山口隆さん(45)が網膜剥離と診断されたことを公表しました。そのため14日の福岡公演を治療に専念するために見合わせるというニュースが流れました。
網膜剥離というと「プロボクサーなど殴られた人がなる」というイメージがあるかもしれません。けれども多くの人が特に怪我がなく網膜剥離になります。特に近視がある人は網膜剥離になりやすいことがわかっています。網膜剥離は早期に発見でき、治療も軽度で済みますが、進行すると手術が必要となり、視力低下、ひいては失明にまでなってしまう怖い病気です。初期症状や気を付けるべきことをしって目を守っていただければと思います。
強度近視だと12倍なりやすい網膜剥離
網膜剥離とは目の奥にある網膜という膜がはがれることを言います。そのため網膜剥離といいます。格闘家・プロボクサーなど打撃を受ける人は怪我でなりやすい病気です。アトピーがあり目の周りをかいたりしてしまう人もなりやすい病気です。とはいえ「特に何もしていない」が網膜剥離になったという患者さんがほとんどです。なぜ何もしていないのに網膜剥離になってしまうのでしょうか?
網膜の前には硝子体というゼリー状の物質があります。この硝子体というゼリー状の物質は網膜にくっついていますが、年齢とともに減ります。減る過程で網膜を引っ張ってしまいます。引っ張ることで網膜に穴をあけ、はがそうとしてしまうのです。この硝子体の変化が起きやすい時期として「20代」・「50代」の人が網膜剥離になりやすいということがわかっています。
目の直径ともいえる眼軸というのは特に近視も遠視もない人でだいたい24ミリ程度です。一方近視がある人はこの眼軸というのが伸びます。26ミリとか30ミリに伸びるわけです。そうなれば網膜は薄くなりダメージを受けやすい。硝子体の影響も受けやすくなります。
ある研究では通常の人と比較して軽度の近視の人で3.15倍、中等度の近視の人で8.74倍、強度の近視の人で12.62倍近視になりやすいというデータもあり近視の人は要注意の病気と言えます。※
気を付けるべき症状とは
網膜剥離の時気を付ける症状とはどういうものでしょうか?いちばんは「飛蚊症」です。飛蚊症は蚊が飛んで見えるような症状としていわれています。ただ蚊のようではなくてカエルの卵のようなものなど色々な症状として感じることがあります。特徴的なのは白い物やあかるいものを背景にすると感じやすい。目を動かすと一緒にふわっと動くということがあります。その他には「光視症」といって光って見えたり、虹のように見えるという症状が起きることがあります。それらの段階ですと初期のことが多いです。初期の段階で発見されれば治療としてはレーザー(網膜光凝固術)で済むことがあります。網膜を焼くことで網膜がはがれるのを防ぐという治療法です。はんだごてで付けるというイメージが近いかと思われます。
さらに進行すると「視野欠損」視野がかけてきます。「視野欠損すれば気づくだろう。」と多くの人が思いますが意外と気づきません。「なんか変だな」と思う程度の人が多いです。なぜならば目は二つあるので片方の目の異常があってももう片方で補ってしまうからです。またほとんどの生活は中心で物をみているので周辺で物を見ることはあまりありません。そのため変化に気づきにくい。この変化をとらえるためにはたまには片方の目でものをみる。という習慣をもつとよいです。この段階になるとバックリンク手術といって眼球の裏側にシリコンのあてものを入れる手術または硝子体手術といって目に小さな穴をあけて中をキレイにしてガスを入れる治療となります。網膜がはがれたのなら縫えばいい。そう思うかもしれませんが、網膜という組織は直接縫ってはいけない。そこでガスをつかってガスが浮き上がる力を使って間接的にくっつけます。網膜は目の奥にあるためにしばらく下向きになる必要があるのです。またガスが入っている間はかなり見にくくなります。
さらに進行すると「視力低下」となります。視力低下というと視力が1.0から0.9そして0.8と徐々に低下するイメージをもっている人が多いです。しかし、実際は昨日まで1.0見えていたのに今日から0.1になったというように急速に進みます。なぜならば視力というのは目の中心黄斑がほとんどの機能をつかさどっています。黄斑に網膜剥離が至るまでは視力には異常が出ず、黄斑に網膜剥離がかかると突然視力が下がるからです。この状態だと手術後に視力低下が残る確率が上がります。
世界的にコロナ禍で網膜剥離が重症化するわけ
網膜剥離は世界的に重症化しています。理由としては新型コロナウイルスです。新型コロナウイルスが猛威を振るう前はちょっと気になる症状があれば眼科に受診をする人が多くいました。しかし、現在では感染リスクを恐れ受診控えが進んでしまっています。
米国の研究では2019年は網膜剥離が進行する前に受診する人が49.5%いたのに2020年は24.4%と半分以下になったという研究もあります。※※
これは経験的な話ですが年末年始も要注意です。大体網膜剥離の患者さんは年末に受診されることが多いです。おそらく何となく目の不調を感じてはいたが、受診を控えていて「年を越す前に受診しよう」といって眼科を受診した。そして、年末に網膜剥離が発見されるのです。しかし年末は医療機関も休みが多く体制も不十分です。できれば症状があれば早めに受診しておいた方が安心です。
近視にならない生活とは
近視が網膜剥離のリスクであるのならば、近視にならないようにしたい。でも近視は遺伝だから仕方がないのでは?と思われる方もいます。もちろん遺伝も大きな因子ではありますが遺伝だけでは近視は決まりません。遺伝だけで決まるのならば代々近視であったはずですが祖父母の時代などは近視の人は少なかったわけです。
ではどういう生活が近視になってしまうのか。近視になりにくい生活とはどういうものでしょうか?特に近視は小児での研究が中心となりますが、外で遊んでいる方が良い。※※※ということがいわれています。また近見作業、つまりは近くで物を見ることが近視をすすめるといわれています。※※※※
そのため、室内で遊んでいるよりは外で遊ぶ時間が長いほうが近視のリスクが低くなるわけです。またできる限り手元ではなく離れたものを見る方が好ましい。そのためには小さな画面を見るよりは大きな画面の方が距離を取ることができます。
今回の網膜剥離というのは怖い病気ですが知っておくことで早期発見や予防につながります。山口さんが是非良い結果で音楽活動が再開できるような状態になることを祈っております。
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Haarman AEG et al: The Complications of Myopia: A Review and Meta-Analysis.
Invest Ophthalmol Vis Sci. 2020 ;61(4):49
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Patel LG et al:Clinical Presentation of Rhegmatogenous Retinal Detachment during the COVID-19 Pandemic: A Historical Cohort Study Ophthalmology 2021.128(5):686-692
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Rose KA et al: Outdoor activity reduces the prevalence of myopia in children Ophthalmology. 2008 ;115(8):1279-85
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Ip JMet al:Role of near work in myopia: findings in a sample of Australian school children
Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008 ;49(7):2903-10