日銀の追加緩和の難しさ
1月22、23日に開催された金融政策決定会合における主な意見が31日に公表された。最初の「金融経済情勢に関する意見」では、今後の景気に対する見方が割れていた。
景気の拡大は続くとの楽観的な見方をしている委員と、世界経済を巡る不透明感や不確実性からリスクが生じているとの見方に分かれているように思われる。これは市場参加者も同様かとみられる。
物価については、賃金・物価が緩やかに高まるという基本的なメカニズムは作動しているとの意見があったが、同日発表した展望レポートでは2019年度の物価見通しを引き下げている。また、ここにきて2018年の実質賃金が、修正するとマイナスではなかったかとの見方が出ている。
「昨秋以降に原油価格が比較的大きく下落したため、物価は当面押し下げられると見込まれる。」
それはそうであるが、その押し下げも異次元緩和で何とかできるはずではなかったのか。それができずに、原油価格などに大きく左右されるのであれば、異次元緩和そのものを本来であれば見直すべきであると考える。
「物価の上昇を遅らせてきた諸要因の解消に時間を要しているほか、予想物価上昇率は、想定以上に粘着的である可能性が高い。」
物価の上昇を遅らせてきた諸要因とは何か。異次元緩和は諸要因によってあっさり効果がなくなるものであったのか。予想物価上昇率は、想定以上に粘着的である可能性が高いのではなく、日本の物価を2%という基準にあてはめることがそもそも問題ではなかったのか。
「既往の原油価格下落や教育無償化といった特殊要因は、物価を一時的に下押しするとみられるが、中長期的には、実質所得の拡大を通じて物価の押し上げ要因となり得る。この点について明確な対外説明が必要である。」
もし2018年の実質賃金が伸びていないとなれば、このあたりの説明についても疑問が残ることとなろう。
金融政策運営に関する意見については、いつも通り「2%に向けたモメンタムは維持されていることから」とあるが、2015年4月以降でみれば、どこにそのようなモメンタムが存在しているというのであろうか。
「息長く経済の好循環を支えて、「物価安定の目標」の実現に資するべく、現在の金融政策方針を継続すべきである。」
息長く経済の好循環はブレーキが掛かった可能性がある。そして、日本での物価安定の目標の2%に何の意味があるというのか。現在の金融政策方針を継続すべきというが、現在の金融政策が非常時対応のものであり、それをさらに重装備したような格好となってしまっており、それを継続して何が得られるというのであろうか。むろんその重装備を外すような構えをみせるとマーケットが動意を示してしまうというリスクは存在する。
「不確実性の高い経済・物価動向のもと、政策の効果と副作用のバランスを慎重に点検しつつ、不均衡を蓄積させない程度にプラスの需給ギャップを維持することで、緩やかな景気拡大を持続させることが重要である。」
プラスの需給ギャップが金融政策で本当に生み出せるのかという疑問はあるが、この意見には総じて賛成である。
「経済・物価の下方リスクが顕在化するならば、政策対応の準備をしておくべきである。現状、物価上昇率の目標値への到達が遠ざかっているのであるから、何か大きな危機が起きるまでは行動しない、という態度は望ましくない。むしろ、状況の変化に対しては、追加緩和を含めて迅速、柔軟かつ断固たる対応を取る姿勢が望ましい。」
そもそも日銀の緩和余地を狭める無理矢理な政策を迫った人達が、身動きできなくなりつつある日銀に対して、もっと緩和しろというのは不自然極まりない。なぜ柔軟性を残せなかったのか。「追加緩和」がいかに難しい状況となってしまっているのか。まあ、それも理解はしてくれないのかもしれない。
ちなみに追加緩和は確かに理論上は可能である。マイナス金利を深掘りしたり、長期金利のコントロール目標値をマイナスにしたりは、理屈上は可能である。また、政策目標を量に戻して、国債の買入を増加させたり、ETFの買入を増加させたりすることも数字の上からはできる。しかし、それで物価を上げられる保証はないというか、上げられまい。せいぜい株価の下落にブレーキを掛ける程度にしかならないであろうし、市場はさらにおかわりを要求しよう。このような連鎖が続くと、国内金融機関には大きな打撃となりうるし、日本発の金融危機が発生しかねないことも確かではなかろうか。