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なぜ、冨安健洋の冬のミラン移籍は期待薄なのか? 評価維持、守備陣好調で「うまみなし」

中村大晃カルチョ・ライター
9月21日、セリエA開幕戦でミランと対戦した冨安健洋(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

夏のメルカート(移籍市場)でミランが冨安健洋の獲得に動いたのは周知のとおりだ。そして直近では、冬のメルカートでもミランが冨安を狙うと言われている。

ミランの技術部門を率いるパオロ・マルディーニは、10月26日の試合前に、イタリア『スカイ・スポーツ』のインタビューで、チームのレベルを引き上げる選手を注視していくと発言した。チャンスがあれば補強に動く可能性を認めたかたちだ。

ターゲットのひとりが冨安なのは確かだろう。ただ、現時点では、今季中に冨安がロッソネーロ(赤と黒、ミランカラー)のユニフォームを纏う確率は低いのではないか。

◆評価は現状維持

最大の理由は、移籍金だ。夏に取引が成立しなかった原因も、ミランとボローニャの評価額に開きがあったからと言われる。

ボローニャ幹部のマルコ・ディ・ヴァイオは、今月14日に『Zerocinquantuno』で、冨安の市場での評価額が2000万ユーロ(約25億円)だと述べた。そして、これが「少なくともミランが我々に提示した額」と話している。

ただ、メディアで多く出回っているミランの評価額は、1500万ユーロ(約18億5000万円)だ。ディ・ヴァイオの言う2000万ユーロは、ボーナスを含めた金額かもしれない。

いずれにしても、ボローニャがその評価額で冨安を放出することはないだろう。要求額は2500万ユーロ(約31億円)という報道が大半だ。

そして、開幕から1カ月が経過した現時点で、少なくともミランの査定に変化はないという。

27日、メルカートに精通するファブリツィオ・ロマーノ記者は、『Calciomercato.com』で「ミランはすでに夏と同じ立場を取ると決めた」と、評価額が1500万ユーロで変わらないと報じた。

同記者は、ミランの候補リストには冨安以外の名前もあり、加えて「直近のパフォーマンスは常に見事だったわけではなく、値段増につながらなかった」と伝えている。

冨安のパフォーマンスについては様々な意見があるところだと思われる(『スカイ』の採点はオウンゴールを記録した4節サッスオーロ戦の5.5点を除き、いずれも及第点の6点以上)。ただとにかく、ロマーノ記者によると、ミランの中で冨安の株が急上昇したことはないようだ。

ロマーノ記者は、ボローニャが今後数年で冨安の市場価値は3000~3500万ユーロ(約37億~43億円)まで上がると確信しているとし、「この前提で1月に両者が合意するのはまったく簡単ではない」と締めくくった。

◆ミラン守備陣は盤石

もうひとつの“ハードル”は、ミランの好調ぶりにある。ロックダウン以降、ステーファノ・ピオーリ監督のチームは絶好調だ。公式戦22試合連続で無敗を保ち、今季のセリエAで開幕から無傷の4勝1分けと首位に立っている。

ミランが冨安に惹かれたのは、そもそもの能力はもちろん、右サイドバックとセンターバックの双方をこなせるユーティリティー性にある。冨安はイタリア1年目の昨季、右サイドバックで地位を確かにした。そして今季からは本職のセンターバックに戻っている。

だが、現在のミラン守備陣は、レギュラーが盤石の状態だ。右サイドはダヴィデ・カラブリア、センターはシモン・ケアーとアレッシオ・ロマニョーリで揺るぎない。

一時はアンドレア・コンティとのポジション争いに埋もれ、ユース出身で利益を得やすいこともあり、夏の放出も騒がれていたカラブリアだが、開幕から公式戦9試合のうち8試合にフル出場。指揮官も先月、その成長ぶりに賛辞を寄せた。

31歳のケアーは、昨季途中に加入して以降、ズラタン・イブラヒモビッチとともに若いチームを引っ張っている。今季は9試合すべてでプレーしており、8試合でフル出場。リーグ2位の失点数を誇る守備陣の柱となっている。

ケガで出遅れたロマニョーリは、10月のインターナショナルウィークが明けてから戦列に復帰。まだ本調子ではないが、キャプテンマークを巻く25歳に対するクラブの信頼は絶大だ。

つまり、ミランに必要なのはレギュラークラスのDFではない。バックアップからスタートし、レギュラーを休ませられる選手だ。それがレギュラーを脅かし、定位置を奪って、チームを飛躍させられるなら、「ケーキの上のサクランボ」となる。

コロナ禍において、そういった選手に2500万ユーロを出すのは、ミランにとってもリスキーだ。

◆本人にもメリットなし?

そしてそれは、冨安自身にとってもミランへの移籍がプラスにならないことを意味する。

大黒柱のイブラヒモビッチやケアーは先が長くないベテランだが、彼らを除けばミランは若いチームで将来性がある。だからこそ、今季の好調は復権への幕開けと期待する声は少なくない。その名門ミランの新たなサイクルに加われるとしたら、魅力的であるのは確かだ。

だが、移籍すれば、少なくともしばらくはベンチスタートとなるのが確実だ。ヨーロッパリーグという一段上のステージを経験できるのはメリットだろう。だがそれも、ピッチに立つ時間が犠牲となるのでは意味がない。

5大リーグでまだ2年目の21歳に必要なのが、試合に出ることで向上を続けることなのは言うまでもない。そして、シニシャ・ミハイロビッチ監督が高く評価しているだけに、ボローニャにいる限り、冨安は出場機会が半ば保証されているも同然だ。

総合的に考えれば、ロマーノ記者が言うように、1月に冨安がミランに移籍するのは「まったく簡単ではない」。その上で、メルカートの世界は何が待っているか分からないのも歴史が示している。

確かなのは、冨安の成長とミランの復活が続くことを願うファンは多いということ。両者の今後に期待しつつ、メルカートで進展があるか注目していきたい。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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