軍政が自国にとって是か非か、世界の人たちはどのように思っているのか
政派間の政治的対立が激化し国内が混乱した時に、中立性を保持する具体的力を持つ勢力として国内の正常化を望むために国民に後押しされる形で、災害や外圧、治安悪化などで国内が極度に混乱して強力な具体的行使力でないと沈静化が難しい時、さらには軍内部の政治的意図を持つ集団(大抵は軍指導部)によるクーデターの結果として、軍が前面に出て秩序の維持に留まらず、政治的な面での施策(行政)を行うことがある。これを軍政(軍事政権による施政)と呼んでいる。その特質性から独裁体制との結びつきも強いことでも知られている。その軍制について、世界の人達は自国に受け入れられる仕組みだと考えているのだろうか。米国の民間調査会社Pew Research Centerが2017年10月に発表した調査報告書「Globally, Broad Support for Representative and Direct Democracy」(※)を基に、その実情を確認する。
次に示すのは軍政を回答者の国での導入することについて、よいことであるか、悪いことであるかを尋ねた結果(導入の度合いは設問上では記されていない。仕組みそのものの是非を問われている)。肯定派(「とてもよい」「よい」)は青系統、否定派(「悪い」「とても悪い」)を赤系統で着色している。
具体的な値は公開されていないが、報告書では調査国全体の中央値として、肯定派は24%であると記している。ただしアフリカに限れば中央値は46%、アジアならば41%と肯定派は半数近くを示し、地域による軍政へのイメージが多分に異なることがうかがえる結果となっている。
肯定派が一番多いのはベトナムで70%。報告書ではベトナム戦争時代において、北ベトナムが共産党との密接な関係を持ちながら軍政的な支配体制をしていたことから、これを懐かしむ人が多いのかもしれないと説明している。実際、50歳以上に限れば46%が「とてもよい」としているが、18~29歳では23%に留まっている。
インドや南アフリカでも肯定派は多いが、これらの国ではベトナムとは逆に、高齢層の方が肯定派が低い結果が出ているとのこと。また南アフリカでは黒人による肯定派が55%なのに対し、白人は38%でしかない。
歴史的背景からかヨーロッパでは一様に肯定派が低い。ただし国粋主義的思考を持つ人たちは比較的肯定派が高い傾向があるとのこと。例えばフランスの場合は31%が肯定派。他方アフリカや南米を中心に、低学歴ほど軍政を肯定する傾向が強いという。
日本でも低学歴では軍政への肯定者が比較的多い。軍やそれに類する組織へのイメージが少なからず反映されているのだろうか。
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※Globally, Broad Support for Representative and Direct Democracy
世界38か国に対して2017年2月から4月においてほぼ同時に実施されたもので、各国の調査対象母集団数は、RDD方式などで選択された18歳以上を対象とする各国約1000人ずつ。調査方法は対面調査や電話インタビュー形式。それぞれの国の国勢調査の結果を元に年齢や性別、学歴、地域などの各属性によるウェイトバックが行われている。
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。