「警察からも、あと2本出演したらと言われた」 AV違約金裁判、勝訴した女性の手記
■警察の人は「あと2本出演したらどうか」と言ってきた
また、日ごろから、プロダクションやメーカーの方から、そういうこと(AVに出演すること)は「立派なこと」だ、とか、「誇らしいこと」だとか繰り返し言われていました。業界の人は信じられないくらいに口が上手で、脅したり、AVに出るのはよいことだと洗脳に近いことを言い続けたりしました。
アダルトビデオへの出演を拒否した女性に対してプロダクション会社が2460万円の違約金を求めていた裁判。9月9日に東京地裁は原告(プロダクション会社)の請求を棄却する判決を下した(9月25日の控訴期限までに原告側の控訴はなかった)。9月29日、女性側の弁護士や支援団体PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)が会見を行い、A4用紙で3枚半にわたる女性の手記(PAPSが口述筆記)を参考資料として配布した。
会見では女性のプライバシーを守るため、女性の情報はもちろん、原告(プロダクション会社)の情報も伏せられ、配布資料には「メディア関係者、私人の方々によるプライバシーの詮索は厳にご遠慮いただきたいと思います」の文字。女性側の受けた被害や事情も、報道から本人を特定されないために最小限しか公表されていない。それでも手記の内容は悲痛だ。
そして私の場合は、出演する毎に、違約金がとんでもない額になっていきました。それを支払わなければ裁判で負けて本当に支払う羽目になると追い詰められ、最後はAVに出演せざるを得なくなったのです。
撮影のときは、子宮(膣のこと)や性器の痛みを訴えても、メーカーやプロダクションはもちろん監督や女性のメイクさんからも、みんなで白い目でみられ、「君はやるしかないよ」と言われました。
彼女は高校生だった頃にプロダクション会社と契約し、わいせつなビデオに出演させられたこともあったが、未成年だった頃のタレント活動については一切の報酬がなかったという。支援団体とともに警察に行った際のことは、次のように書かれている。
大人の男性を相手に敵に回すのはとても怖かったです。プロダクションやメーカーの人もそうですが、相手方の弁護士も怖かったです。
ようやく支援団体に助けを求めた日に、警察にも助けを求めました。警察の人の協力もすこしは得られました。しかし、警察の人はプロダクションに事情を聴いたあとで、私に対して「あと2本出演したらどうか」と言ってきました。
私は「出演したらどうか?」と簡単な問題で見られていることが悔しかったです。もし、「簡単に出演できるくらい」なら、誰でもがそれをやっているはずです。社会的に認められないことで、男性の警察官にとっては(女性としての)私の気持ちがわからないのだと思いました
全ての警察官がそのような対応ではないと思いたい。女性は別の箇所でも「きっと、望まない性行為というのは、なかなか男性の方にはわからないと思います」と書くが、全ての男性が被害に遭う女性の気持ちが100%わからないわけではないだろう(逆に女性でも女性の気持ちがわからない人はいる)。ただ、ようやく警察に助けを求める一歩を踏み出した彼女にとって、男性警察官のその対応は心ないものに映ったことは想像に難くない。
■意に反して従事させることが許されない性質のもの。拒否の証拠が大事
今回の判決では、被告(女性)が原告(プロダクション会社)との契約を解除する「やむを得ない事由」(民法628条)があったとする被告側の主張が認められた。「アダルトビデオへの出演は、原告が指定する男性と性行為等をすることを内容とするものであるから、出演者である被告の意に反してこれを従事させることが許されない性質のものといえる」と判決で認められたのだ。この事実について、女性側の弁護士、伊藤和子氏は「重要なポイント」と述べた。つまり、アダルトビデオ出演が出演者の意に反していたことが証明できれば、今回のような裁判を起こされたとしても負けない可能性が高い。
今回の件で女性の「意に反していた」ことが認められたのは、プロダクション側は女性に対して、何度も「辞めれば1000万円の違約金がかかる」などと伝えていたこと、プロダクション側もこういった説明を女性にしたと認めていたことが大きかったという。伊藤弁護士は、意図に反することだということを証明するために「今はLINEなどでもすぐにメッセージが送れるので、相手に対して拒否を示していた証拠を残すことが大事」と話した。
■適切な支援団体の存在を知らせる必要
女性側の支援団体PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)へは、2014年以降、相談が急増している(2012年・2013年の相談事例はそれぞれ1件/2014年は32件/2015年は59件)。相談の内容はさまざまだが、今回のような相談は全体の半分ほどの件数にあたるという。相談が急増している理由について、同団体の宮本節子氏は「伊藤弁護士がネット上で発信してくれたことが大きい」と話した。
伊藤弁護士は、今回の裁判についてYahoo!ニュース個人で記事を公開している。
被害続く・AV出演を断った20歳の女性に芸能プロダクションが2460万円の違約金支払いを求め提訴。(2015年6月30日)
昨夏にも、同様の被害があることについて警鐘を鳴らす記事を公開。
AV出演を強要される被害が続出~ 女子大生が続々食い物になっています。安易に勧誘にのらず早めに相談を(2014年8月16日)
2記事とも、ネット上で非常に拡散された。このことで、被害実態が広く共有され、同時にPAPSへの認知度も上がったのだろう。宮本氏は言う。
「私たちはとても小さな団体です。私たちの団体の情報を見つけても、被害に遭った人たちは『信頼できる団体なのかどうか』と相談を躊躇することもあると思います」
騙されて性被害に遭った女性は、誰も信じられないような心境になっていてもおかしくない。本来なら絶対に知られたくないことを話すには、完全に信頼できると感じる相手でなければそうできないだろう。適切な支援団体の存在が広く知られることが必要だ。女性の手記には、下記のような一文もある。
これは、とても重大なことなので、むやみな相談もよくないと思いました。なぜかというと、私は、支援者のふりをして近づき、また騙される手口を実際に経験しました。そのため、本当に信用できる人や、もし弁護士さんに相談しづらいばあいは支援団体に相談してほしい。身内だけで解決しようとすると、失敗する可能性も高いと思います。
現役の方で私と同じような状況の方に対してこのような被害が減るように、世の中にはこのようなしっかりした支援団体があることを知ってほしいです。
■アダルトビデオ業界への”偏見”について
女性が強制的にアダルトビデオに出演されたケースに関する記事はネット上でも複数見つかる。私も人身取引被害者サポートセンターであるNPO法人ライトハウスに、そのようなケースを取材したことがある。(参考:女子大生を騙し強制的にAV出演 性を売る文化が発達する日本の「人身取引」の実態)
その際に、アダルトビデオ業界の関係者や、業界に詳しい人から、「こんなのは何十年前の話だ」「(AV女優はルックスに優れた人が多く志望する人も多い人気業界なのに、強制的に撮影するなんて)今ではありえない」というコメントがあった。
私はこれまでに何度か、AV女優の方や、元AV女優の方にインタビューしたことがある。彼女たちはみな人気女優で、「撮影現場ではみんな女優に対して優しいし面白い。和やかな雰囲気」と語る人もいたし、仕事に対する誇りを感じさせる人もいた(ただ一方で、引退してからは「プロフィールにAV女優の経歴は書かないでください。セクシー女優という表現も使わないで」と事務所側から言われたこともある)。
だからもちろん、「納得した上で出演する人もいる」ことについては否定できないと思っている。AV女優として活動しながら中国語を学び、中国で人気を獲得した蒼井そらさんなどの例もあるが、「AV女優」という経歴を持った人が職業上の偏見にさらされることなく活躍できる世の中であってほしいと思っている。
しかし、そのことと、強制的に出演させられる被害については別の話だ。業界の関係者にしてみれば、「自分たちはそんなことをしていない」「業界全体に対する偏見だ」と思うかもしれないが、今回、アダルトビデオ出演を強要され、再度の撮影を拒否した女性に対して、プロダクション会社側が多額の違約金を請求する裁判があったことは紛れもない事実だ。会見で記者の一人に「プロダクション側はなぜこんな裁判を起こしたのか(勝ち目があると思ったのか)」と質問された伊藤弁護士は、「請求されて、実際に多額の違約金を支払ってしまった被害例もある」と話した。プロダクション側からすれば、1000万円の違約金をちらつかせるという脅迫まがいの行動を取ってでも、一回出演させて契約書を作ってしまえば、自分たちが違約金を請求するのは正当な権利と思っていたのかもしれない。自分たちの行動を「脅迫まがい」とは思っていなかったのかもしれない。
どの業界でも同じだが、「適正な手段を取っている企業がその業界にある」からといって、すべての企業がそうであるとは限らない。頭ごなしに否定するのではなく、こういった業界では今回のような事例が起こりやすいと肝に銘じておかなければならないのではないのだろうか。
■ポルノ被害などの相談ができる団体
https://www.paps-jp.org/
http://lhj.jp/
<関連記事>※10月1日追記
AV出演拒否で2460万円請求裁判の女性勝訴 「契約してしまっても諦めないで」(ウートピ/2015・10・1)
AV出演を拒んだ女性に芸能事務所が「違約金2460万円を払え」東京地裁が請求棄却(弁護士ドットコム/2015・9・29)