ひきこもり親子はなぜ高齢化したのか?8050問題の背景を多角的に調査
ひきこもり状態の子と親が高齢化していく中、家族はなぜ相談の声を上げられないのか?を考えるためのシンポジウム「社会的孤立が生んだ8050問題」が10日、富山県で開かれた。
主催したのは、ひきこもり家族の当事者団体であるNPO「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」。8050問題とは、80代の親が収入のない社会的孤立状態の50代の子と同居して生活を支えている世帯のことで、ハチ・マル・ゴー・マルと読む。8050問題に近づく7040世帯も含めて指すことが多い。
就職経験者が数多く存在
厚生労働省の委託事業として、同会は多角的に調査を行った。まず、本来、ひきこもり支援とは関係のない、高齢者の介護などを援助している「地域包括支援センター」を調査したところ、回答のあった263か所の約84%にあたる220か所のセンターで8050事例を把握していることが、愛知教育大学大学院の川北稔准教授によって確認された。
その把握できた8050事例の本人の中には、かつて「正社員として就職していた経験がある」ものの、今は「就労が難しい」「仕事が長続きしない」、あるいは「親の介護に従事している」といった事例が数多く存在していることは、今後、注目していく必要がある。
立正大学心理学部の徳丸享准教授が保健所に行った調査でも、回答のあった38機関のうち、8050事例が発見されて要請してきた先は地域包括支援センターが58%と最も多く、孤立した本人を短期間で支援につなげるための連携先としても有効なルートであることがわかった。
一方で、保健所の調査からは、支援が途絶した理由について「来談者の意欲低下」を挙げた機関が34%と最も多かった。しかし、なぜ意欲が低下したのか。単に利用者側だけの問題にとどまらず、支援する側の体制、実情からも考えていかなければいけない。実際に、長期高齢化したひきこもり親子の世帯が、相談したのに支援が中断して放置され、命を奪われる悲劇も起きている。支援する側と支援される側の意識やニーズのギャップについて、これから検証していかなければならないだろう。
各地でひきこもり支援を担当している「ひきこもり地域支援センター」と「生活困窮者自立支援窓口」を対象にした宮崎大学教育学部の境泉洋准教授の調査では、回答のあった602機関のうち、家庭訪問で孤立した本人を発見したことのある機関が31%も存在した。しかし、こうして発見しても、本人や親の意向で支援につなげられなかった事例が33%に上っていたことも、新たな知見だ。
深刻なのは、ひきこもり支援の担当とされているにもかかわらず、その48%の機関が「ひきこもり相談対応や訪問スキルを持った職員・スタッフがいない」と回答したことだ。さらに「ひきこもり世帯数も未知数で、家族会の必要性があるかわからない」機関は56%に上るなど、半数を超える地域で、せっかく相談につながっても支援につながらない、現場の人材不足や不十分な情報共有による脆弱な支援体制ぶりが浮き彫りになったといえる。
「育て方が悪い」と怒られて
シンポジウムでは、家族会を研究している新潟青陵大学大学院看護学研究科の斎藤まさ子教授が、SOSを発信できなくなった70代の母親の事例を紹介した。母親は、相談先で「育て方が悪い」「あなたが悪い」などと怒られ、相談することが怖くなり、息子とひっそりと生きてきたという。このように「意欲の低下」の背景には、家族が最初からあきらめていたわけでなく、相談の行き場を失っていたという実態も、今回の知見で明らかになった。
KHJ家族会富山支部のNPO「はぁとぴあ21」の高和洋子理事長も、「相談に行くと、『どうしてこうなったのか』『どうしてここまで放置していたのか』と責められるので行きたくなくなった」などの親の声を報告。相談窓口に、ひきこもる気持ちや特性を理解できる担当者がおらず、相談員のコミュニケーション自体に相談を遠ざけている要因がある現実を指摘した。
このシンポジウムは、3月17日(日)に福岡県クローバープラザ、21日(祝)に東京の日比谷図書文化館でも開かれる。
ただ、こうしたそれぞれのアプローチによって顕在化する8050世帯の事例は、ごく一部に過ぎない。我々はまだ見えなかった課題の入り口に立っただけであり、水面下には多くの孤立した家族が今も息をひそめて生きている。
40歳以上のひきこもり実態調査は、まもなく内閣府から公表される予定だが、高齢化が進むひきこもり親子の実態は、これまで国のエビデンスもなく、まさに社会が想定していなかった事態が起きているといえる。国が地域共生社会を目指していく中で、潜在化した8050問題に向き合うためには、それぞれが自分ごととして、なぜ相談につながれないのかという視点から、みんなで一緒に考えていく必要がある。