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自分を高く売りたいのか? それとも評価されたいのか? もう一つの"適正"、二者択一

齋藤薫美容ジャーナリスト・エッセイスト

近年、日本の企業も様変わりし、終身雇用でも年功序列でもない新しい価値基準を持ち始め、気がつけば日本もいつの間にやら“実力主義”の国になっていた。

言うまでもなくそれは、欧米の外資系企業の考え方に限りなく近づくことを意味するが、実際それぞれで働く人々を見ていると、今なお体質の違いは明らかで、日本の企業が本質的にグローバルな発想に変わる事は半永久的にないのではないかと思えるほど。

言うならば、制度や雇用のシステムは変化しても、ある種の風土が変わらない限り、働く側の意識も変わっていかない気がする。つまりそこには、欧米人と日本人の気質の違いがそっくり表れ出ると考えていいのだ。

今や語学ができるから外資系、できないから日本の企業、と言う単純な選択にはならない時代、だからむしろ気質の違いで、外資系と日本の企業を選び分けるべきなのかもしれない。

ちなみに今回は、主にファッションや化粧品を扱う企業で働く女性たちの動向を前提に、その違いを見つめてみた。

★外資系でヘッドハンティングを待つ人

もちろん、一概に決めつけることはできないが、外資系企業でキャリアを積む人は、とても自然に“自分のスキルそのもの”をより高く売りたいと言う発想になっていく傾向にある。

現実に、実績を残し、それなりのポジションに着いた人には、必ずと言っていいほど“ヘッドハンティング”というものがやってくる。

当然のごとく“引き抜き”の条件として、今の収入の1.5倍が提示されることも珍しくない。もちろんひとつのポストにおいて、数名が候補としてリストアップされるのが普通だから、何度かの面接を経てそこで選ばれなければ意味がないが、こうしたヘッドハンティングは日常的に行われているから、そういう声がかかる事はいつの間にか、自分の“社会的な評価”を測る重要なバロメーターとなってくる。中には、ヘッドハンティングを常に待ち続ける人もいるほど。それが自分をより高く売る働き方だから。

その結果、業界でよく起こるのは、1人が同業他社に動くことになると、空いたポジションにまた別の誰かがヘッドハンティングされてきて、そこにできた空席に対し、また別の誰かに声がかかり……というふうに、“玉突き状態”になること。

つまり、外資系の場合は、空いたポジションに下から人が上がっていくというケースが常識で考えるほど多くなく、だからどうしても、自らもより良い“引き抜き”を待つ形になるわけだ。

その時の計算の仕方として、よりステータスの高いブランドから声がかかるか、今より役職が明快に上がるか、どちらかのケースでなければ、引き抜かれる旨みがないと判断する。そういう意味で、スゴロクで言うところの“上がり”と目されるブランドが、シャネルやディオール、ランコム、エスティ ローダーといった、世界的なトップブランドであるのは言うまでもない。

もちろん、正しい選択もあれば、間違った選択もあるだろう。それはいちいち“賭け”のようなもの。ましてや実力がブレーキなしでぶつかり合う世界、強い心がないと、自分を高く売るような戦いでは勝ち抜けられないと考えておくべきだろう。

★日本の企業では、昇格試験で上がっていく

では日本企業でのステップアップは、一体どういうものと捉えるべきなのか?

たとえば、同じような業種から“ヘッドハンティング”の声がかかっても、日本企業で育ってきた社員は、考えに考え抜いた末、誘いを断り、今の立場にとどまる人が少なくないと言われる。いかなるスキルを持っていようと、日本企業に入ると社会人としても日本的なメンタリティーが染み付いていくということなのか?

日本の企業の中では、やはり一つ所に留まって地道に上を目指すという働き方が“普遍的正解”と考えるようになるのだろう。もちろん、出世そのものにはあまり興味のない人もいて、“ともかく評価されればそれで満足”と言う健気な声も聞こえてくる。

ちなみに、日本企業のキャリアアップは、公平を期すためか、まるで学校の進級試験のように、社内における昇進・昇格試験を経ての、正々堂々の出世の道が用意されている。その試験を突破するという目標をいつの間にか持たされている仕組みが、自分自身を高く売ろうとするよりも、自分の会社での評価を高めたいという価値基準を嫌でも生んでしまう、と言えなくもないが。

さらに言えば、今の会社を辞めたいと思う場合も、外資系の社員は人材バンク等によるスルーや、“引き抜き”を自ら仕掛けていくようなアクションを起こすのに、日本企業の社員はまずはともかく会社を辞めることを考え、イチからの“転職”を考える。

ある種の奥ゆかしさと日本人的“自信のなさ”からか、退職は“挫折”であり、“負け”であり、だから自分を今より高く売ろうなどとは考えず、一から出直す覚悟を決める。その結果、外資を渡り歩く人とは、転職のたびに大きな差がつくことになりかねないのだ。

★“実力主義”にも理不尽は山ほどある

もちろんどちらが良いとは言えない。どちらにもメリットデメリットがあるし、是と非がある。だからこそ自分の性格を正しく解析して、この“大きな適性”を外さずに進路を選びたいのだ。

そして、“引き抜き”にも、“会社の人事”にも理不尽なことは山ほどある。自分よりも力のない者が、より高いステージへとヘッドハンティングされて行くことはいくらでもあるし、それは企業内の人事でも同じこと。明らかに理不尽な昇格は世の中いくらでもあるのだ。

そういう意味ではどちらもまさに、生き馬の目を抜く世界。でもだからこそ逆に、長い目で見て最終的に勝利するのは、人を恨まず妬まず、よそ見をせずに、自分の仕事だけをまっすぐ見つめ、直向きに取り組んでいった人、に他ならないのである。自分を高く売るにしても、ひたすら評価を高めるにしても。

美容ジャーナリスト・エッセイスト

女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストへ。女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『されど“男”は愛おしい』』(講談社)他、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。

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