”リクラブ”(就活中恋愛)は「後腐れのなさ」が一番の理由。
あなたは「リクラブ」という言葉を知っていますか? リクラブと言っても、なにかのクラブじゃないですよ(笑) リクラブとは、リクルート+ラブ。つまり、就職活動中に始まる恋愛のことです。
就活中に恋愛? なんて不謹慎な! そんな甘い気持ちで、内定が取れると思ってるのか? そんな憤慨をおぼえる人もいるかもしれませんが、リクラブはもはや就活生の間で常識。
この時期に彼氏・彼女ができようものなら、「出た! リクラブ? ねえ、リクラブ?」と冷やかされ、「違うよ。そういうんじゃないけど。たまたま説明会で知り合って……」「なんだよ、やっぱりリクラブじゃん!」といった会話が、日々繰り広げられているのです。
3月1日からついに広報活動が解禁。選考は昨年から2ヶ月前倒しの6月1日スタート。かつてないタイトスケジュールに企業側も学生側も対応に追われる中、リクラブもまた、本格化を迎えています。
昔からあったけど…
筆者が初めて、リクラブという言葉を聞いたのは数年前のこと。
もちろん、筆者自身が就職活動(当時は「就活」なんて略す文化はありませんでした)をしている最中にも、距離を縮めて恋に落ちる男女はいなくもありませんでした。ですが、それはあくまで例外というか、レアケース。
カジュアルにリクラブ、という言葉が使われるほど一般化はしてなかったわけです。
恋愛は、人間の根源的なコミュニケーションのひとつですから、これほどまでに一般的になるのには、なにか理由や背景があるはず。そう考えた私は、なぜリクラブが発生しやすいのか、という学生たちの事情について取材してみました。
自然な出会いを企業が提供
実際に昨年、就職活動中に彼女を作ったA君(23歳・カード会社勤務)いわく、「こんなに自然に出会える場なんてそうそうないですよ」と語ります。
「どれだけタイプの女の子を街で見かけても、いきなりは話しかけられないじゃないですか。でも、就活中だと、会社説明会やインターンシップで、学生同士が自然な形でコミュニケーションを始められるんです」
確かに売り手市場と言われる昨今は、企業側があの手この手で、学生たちの興味を引きつけようと必死。チームを組んで1週間のグループワークを行ったり、3日間泊まり込みでインターンを行ったり。中には高額のアルバイト料が出る場合もあって、参加する学生たちにとっては、「遊び」とまで言わないまでも、「楽しい雰囲気の中で自然に出会える」空気が用意されているのです。
「そこで知り合った仲間とは、終わってからも企業の情報やエントリーシートの書き方などについて情報交換が始まります。僕も、かなりの人見知りを自負してましたけど、就活中は自然に話せたんですよね」とAさん。
企業側が、学生たちのリラックスした素の部分を見たいと願い、優しく丁寧に用意した環境が、思わぬ形で学生同士の交流を育んでいる、というわけです。
ふだんはチャラいあの人が…
では、誰も彼もがリクラブ市場でモテるかというと、当然そうではありません。
「ふだん、チャラそうに見えた同級生男子にたまたま選考の場で出会ったら、意外としっかりしてて驚いた」と、語るのは、現在就職活動中の新4年生Bさん(21歳・経済学部)。
先述したリラックスした自然な交流と矛盾するようですが、基本前提として就活中は「気合いの入ったよそゆきの自分」を演じることになります。それは当然、男女、とくに男性のほうの印象をアップさせることにつながるでしょう。
「人事担当者の前ではちゃんとしゃべるし、きちんと振る舞う。スーツマジックの一種って分かってはいるんですけど、誠実で賢そうに見えるんで、印象はとてもいい。就活中って、お見合いみたいなもんですよね」
グループワークで優秀な働きをしたり、さりげなく周りに気を遣えたり、仲間を引っ張っている姿が垣間見えたりと、普段の生活では見られない魅力が引き出されやすい状況。とくに男子学生は、なけなしのリーダーシップ、はりぼての誠実さ、見せかけの男らしさを、女子学生にアピールすることができるわけです(しかも自然と)。
就活中は当然、ストレスも溜まるしへこたれることも多い。とくに女性は、メンタルが落ちているときに恋に落ちがちですから、キャンパスにいるときよりも数倍頼もしそうに見える男子学生に、クラクラと気持ちが傾いてしまうのは、避けられないことかもしれません。
価値観が似ている相手がわんさか
「結婚できない相手とはつきあいたくないです。価値観が違う子は疲れるし、無駄なんで。そういう意味では、彼女とは最初から職業観が共有できてたんで好都合でしたね」と胸を張るのは、4月から社会人になるC君(22歳)。
生活環境が似ていて、学生時代の興味関心も近い仲間が集まるのが、企業説明会。例えば食品メーカーで出会ったのであれば互いに学生時代に飲食店でのアルバイト経験があったりするわけです。
互いの価値観や興味関心が一致している可能性が高いとなれば、恋愛対象として「外れ」である確率は下がります。
就活も婚活も、自分の価値観を見直し、どういう生き方が自分に合うかを改めて考える場としては同じです。その結果、似たような職業観・家庭観・人生観を持つ同士が、事前にふるい分けられた状態で、目の前に大量に並ぶのですから、まじめな恋愛がお好きな人にはたまらないわけです。
「背が高い人がいい」「笑顔のかわいい子が好き」といった原始的・直感的な恋愛ではなく、「きちんと話のできる相手」「将来、海外に住もうと思っていることを認めてくれる相手」といった、オトナな恋愛観を持つ学生にとっては、就活≒婚活でもあるわけです。
柄にもなく意識の高い会話を繰り広げたり、互いの深いところに触れるようなコミュニケーションを重ねたりするうちに、仲間のような信頼関係が築かれれば、これはもう「リクラブ」が起きないほうが不思議と言えます。
後腐れがないのが最大の魅力
と、いいことばかりのように見える「リクラブ」ですが、果たしてそんなにうまくいくのでしょうか?
リクラブとは所詮、特異なシチュエーションにおける一過性の熱病のようなもの。夢から醒め、無事に内定がとれてしまえば、日常が再開し、関係が冷えてしまうこともあるでしょう。
「そこがいいんですよ! リクラブは後腐れがないのが、いちばんいい」と苦笑いするのは、最近、リクラブでできた彼女と別れたばかりの新4年生のD君。外資系企業のインターンで早々に内々定をもらっている彼は、そこで知り合った女子と交際するも、ふた月ほどで破局。
「同じサークルやクラスで恋愛をすると、別れてしまった後、コミュニティに居づらくなる。だから正直、後ろ向きです。でも、就職活動という場で初めて知り合った人なら、恋愛関係になったり別れたりって、ハードルが低いですよね。一緒に同じ会社に行くのならいざ知らず、そうでなければ『はい、さようなら』ですみますからね」
なるほど。確かに、常に互いを見張ってけん制しあい、別れても別れても完全には縁が切れないSNS時代において、就活とは、ふだんの人間関係とは隔絶された、ほんのひとときのお祭りでもあります。
そこでなにかあっても、数ヶ月後には他人に戻れる。そんな自由な関係性を求めているのは、なにも学生だけではないはずです。
今も昔も青春の一コマ
学生たちにとっての就活とは、”ちょうどいいリセットボタン”を探す日々でもあります。それを模索する中で、行きずりの恋にうつつを抜かしたり、あるいは「運命の出会い」と勘違いしたりしても、非難されるべきことではないでしょう。
むしろ、いまどきでオトナでクールでクレバーな印象のある学生たちも、数十年前と同じく「熱い気持ちをぶつけ合っているうちに、いつのまにか好きになってた」という青春ストーリーをリレーしてくれていることに、どこかほっこりした気持ちになるのです。
これからの季節、オフィス街に、駅に、カフェに大量発生するであろう、大量の真っ黒なリクスー学生たち。彼ら・彼女たちの青春のきらめきの一コマを、あたたかい目で見守ってあげようではありませんか。
(米国CCE Inc,認定 GCDFキャリアカウンセラー 五百田 達成)